9話 エルシオとアレシア
前に比べて少し長いですが、宜しくお願い致しますm(__)m
星域から帰ってきて、疲労でぐったりとしていた楓は、襲い来る睡魔に耐えきれず、すぐに布団に入った。
「ちゃんと、話したいこと話せた?」
「はい。 私は人間の事をどう思っていけばいいかを教えてもらったのです」
残された2人は暗闇の中で、部屋の壁に寄りかかりながら膝を抱えて小声で話す。
「いい人間もいるもんでしょ?」
「はい。 ですが、楓くんだけなのです。 きっと楓くんは例外なのです。 私は人間が嫌い」
「まだアレシアの事で人間を憎んでる?」
エルシオの表情が変わり、場の雰囲気が冷たくなるのを感じるエフィルロ。
「知能の高い死神は地獄に落ちた人間そのものです。アレシアを殺したのは人間なのです。
だから、私は人間を」
「好きになれない。って事なんでしょ?」
話の最中、エルシオに続くように発したエフィルロの一言を聞き、少し苛立ちを見せたエルシオは、一度エフィルロから目をそらし一息つくと、すぐに応答する。
「そんな事はないのです好きになるつもりなんてない。私は人間が嫌い。以上なのです。」
「そっか。エルシオはアレシアの事大好きだったもんね」
そう言いつつ、優しく微笑みかけたエフィルロ。
それを見たエルシオは、何か悪い出来事を思い出したように下を向き、目を閉じる。
徐々に強く握られていく拳を震わせながら、エルシオは口を開く。
「でも、守れなかった」
俯き、深刻そうな顔をしてそう呟いたエルシオ。そして、何かを思いついたかのように顔を上げる。
「壺・・・・・・楓くんに渡して平気なのですか?」
「私は、楓の事信じてるから」
エルシオの質問に、即答するエフィルロ。
まるで、そう質問された時の答えを用意していたかのように答えたエフィルロの目は、至って真剣だ。
少し納得のいかない表情を見せるエルシオだったが、信じてるからと、エフィルロが真剣な眼差しで言い切ったのを見て安堵した表情に切り替わり、一息つくと、
「なら良かったのです。私も、楓君なら信じられるかもしれないのです。
アレシアのお墓参りに行ってくるのです」
先ほどの冷たく重い雰囲気とは少し変わり、両者ともに笑顔が見えるようになってきた。
エフィルロの返事を待つことなく、ゲートを開いたエルシオはそこに飛び込む。
ふぅとため息をついたエフィルロは、寝ているはずの楓に話しかける。
「聞いてたんでしょ? これが、エルシオの答えよ」
ため息をつき、頭を掻きながらゆっくりと起き上がる楓。エフィルロから貰ったパジャマを着ているが、寝るつもりなど、はなっからなかった。
「知ってたのかよ・・・・・・まあ、答えは聞いた。けど、その回答があってるとも限らねえ。もちろん、模範解答なんて便利なもんはねえけど、それでも、エルシオの答えは赤点レベルだ」
それを聞いたエフィルロは、嬉しそうなニコッとした笑顔を楓に見せると、そうだねと応える。
「期待してるから。楓が、エルシオを変えてくれるって。エルシオの知らない自分自身の本音を、エルシオに気づかせてくれるって」
「自信はねーけど・・・・・・俺は言われなくてもそのつもりだぜ。あと、壺ってなんかあんのか?」
「そんなの、気にしなくていいわよ」
そうか。と納得しきれない部分もあったが、追求することなく渋々そう答えた楓。
壺のことよりも、エルシオの事が気になっていたからだ。
救ってあげたい。そう他人に思いを抱いたことは、楓にとってとても珍しい事であった。
エルシオに、人間を好きになってもらいたいとか、人間を恨むのをやめて欲しいとか、そんな事ではない。
「俺はエルシオを幸せにしたい。それだけだ」
まだ会って数日しか経っていない少女に対してそんな思いを抱くのは、不自然な事なのだろう。
だが、そんな不自然を覆し、自然な事にしてしまうのには理由がある。
エルシオが人間の事を嫌っている。そんなエルシオに、人間を好きになってもらいたい。その願望は、楓の自己中心的な考え方であり、エルシオの幸せではない。よって、楓はそんな事はしない。
だが、今のエルシオは人間を嫌ってはいないのだ。
エルシオは人間の事が好きだ。それなのにエルシオは、人間を好きにならない、いや、なれないのだ。
矛盾しているようでしていないその説は、楓がエルシオを助けたくなる理由になった。
なぜならそれは、とても辛い事だから。
そして、もう一つ理由がある。
好きなのに好きになれないと言う状況を、楓は経験したわけでない。
しかし、大切な人を、人間に殺されたという痛みは同じほど味わったはずだ。
今は罪悪感しか残っていないとしても、そのせいで人間に恐怖心を抱くようになってしまった事には変わりない。
そして、 中学、高校の生活で周りの人との必要以上の関わりを捨ててしまった。
後悔なんてしていない。
だが、エルシオにはそんな、人間のせいで辛い思いをするという未来を送って欲しくない。
好きなのに好きになれない辛さを、今すぐに吹き飛ばしてやりたい。
エルシオを、幸せにしてやりたい。
「他人にそんな事を思うのは不自然か?」
「そんな事ないわよ。私だって、赤の他人に幸せを振り撒いてるのよ?」
そうだな。と、思わず笑顔を見せた楓。
そんな楓を見てエフィルロも微笑したところで、エフィルロはあることを提案する。
「エルシオ、アレシアに会いに行ったら暫く帰ってこないの。だから、昔話をしてもいい? 気になってると思うから」
「エルシオとアレシアの事か?」
「そう。私の愛するふたりの天使のお話」
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「エルシオー! 今日はエフィルロの仕事について行く日よ! 早く支度をして!」
そう叫んだのは、寝巻きを着た天使だ。
藍色の長い髪の毛を頭の後ろでまとめてポニーテールを作りながら、まだ寝ているもう一人の天使に向かって叫んでいる。
目を擦りながら、ゆっくりと体を起こしたもう一人の天使は、ぐるりと周りを見渡すと、太陽の位置が変わることによって動く時計のようなものを見て余裕を感じ、二度寝しようと体を横にする。
「こら! 早起きは大事なの!」
「まだ眠いのです。 時間があるなら寝させてくださいなのです」
「もう~私は楽しみでしょうがないの! 先に支度してるからね!」
エルシオの事は放っておき、寝巻きを脱ぎ捨て、戦う魔法使いのような格好に着替えたアレシアは、すぐさま自分のカメラを手に取り首にかけると、朝ごはんを作り始めた。
エルシオとアレシアの両親はそれぞれ、ふたりの物心がつく前に、死神との戦闘で亡くなってしまっていた。そして、その日からはずっとふたりで暮らしている。
お金がほとんどない子供ふたりの生活で、途方に暮れていた時、エフィルロと言う天使から声をかけられた。幸せを人間に与えるという仕事のお手伝いをしてくれないか。という内容で、断る理由などなく、エルシオとアレシアの2人で、エフィルロの助手のような立場で仕事をしていた。
「はぁぁ~、よく眠れたのです・・・・・・ってもうこんな時間!!」
目を擦る事もなく、勢いよく飛び起きたエルシオは、食卓へと焦りながら走る。
「だから言ったでしょ?? 早起きは大事だって」
「ご飯はどこなのですか! アレシア、ご飯が欲しいのです!」
バタバタと走りながら食卓に向かってくるエルシオの要求を聞き、アレシアは花に水をやるのを中断し、エルシオの朝ごはんを用意する。
「はいはい。ちょっと待ってて、もう出来てるから」
一緒に暮らし始めてから、アレシアはエルシオの姉、いや、母のようだった。面倒見のいいアレシアにはピッタリで、しっくりくる立場。
ただの友達だったふたりだが、暫く一緒に暮らしていく内に家族のようになっていいった。
元々、性格が大人しくしっかりした女の子と、騒がしくちゃらんぽらんな女の子だったため、少し年上だったアレシアが、エルシオのお世話をする事は、もはや確定事項だった。
エルシオもエルシオで、母のように家事をしてくれるアレシアには感謝をしているし、お手伝いを進んですることも多々ある。だが、
「ちょっと! エルシオ! オゴーメに塩をかけるのはいいけどそれは砂糖! あと、私のにもかけてくれてエルシオが優しいのは分かったけどそれ砂糖だから!!」
「甘くてまずいのです~!!」
天使の朝ごはんは基本、日本でいう白米と似たような味と食感をした、オゴーメだ。
とは言っても、天使は毎日食べるわけでもなく、3日に一回程でいいのだが、エルシオとアレシアは毎日朝ご飯は食べるようにしていた。
それにしても、
オゴーメに砂糖をかけるなど、よっぽど物好きな人ではないとしない。
そして別に、エルシオはよっぽどな物好きではない。ただただ、ちゃらんぽらんなのだ。
そんなこんなで、エルシオに家事を任せると大変な事になる。
それはエルシオ自身もわかっていた。
だから、
「とうっ! やー!」
「またそんな戦いごっこしてるの?」
食後すぐに始まったエルシオの日課。それは戦闘力を向上させるための稽古のようなものだ。
「戦いごっこじゃないのです!!! アレシアは弱いので、私が助けなければならないのです!」
アレシアは非力で、家事が出来たとしても運動がまるでダメだった。
一方エルシオのほうは、家事はめっぽうダメだが、運動能力は高かった。
エルシオは、強くなれるよう努力した。自分をまるで母親のようにしたってくれていたアレシアを守るために。
「わ、私だって少しは強いんだから! でも、もしもの時は頼んだよ」
うん!と元気よく頷き、返事をするエルシオ。
自分は不器用でちゃらんぽらんだから、家事なんて出来ない。そう判断したエルシオは、アレシアを守るために全力を尽くした。
攻撃するための魔法も少しずつ覚えた。
毎日、アレシアが家事をする中、外で武器を振り回した。
そのおかげで、後々ある程度の死神が倒せるほど強くなれたわけだが。
「もうこんな時間!! はやくエフィルロの所にいくわよ!」
「そうだったのです! 早く行かないと!」
木で建てられた、小屋よりも大きく、一軒家とも言い難い家を出た後、エフィルロの所へ行く途中だったふたりは、本来の目的を思い出し、急いでエフィルロの元へ向かう。
「こらこら。また遅刻?」
「ち、違うのです。アレシアがご飯をなかなか食べないから・・・・・・」
「それは砂糖がかかってたからでしょ!? それに、遅れたのはエルシオが戦いごっこしてたからじゃない!!」
ゲートの前で待っていたエフィルロは、遅れてきた天使2人に説教をする。
そんな事は日常茶飯事で、遅れた理由を押し付け合うのも、もはや決まり事のようなものだった。
「じゃあ、今日もお仕事がんばろう!」
そう掛け声をしたエフィルロに続くように、エルシオとアレシアはゲートに飛び込んでいった。
人間界に着いた一行は、仕事内容について確認する。
「今日のターゲットはどんな人間なのですか?」
「あなた達のアイボーンにも今日のターゲットの詳細を送っておいたわ。かける分の粉をそれぞれ渡すから、ターゲットに決まった量かけてきて!」
「了解なのです!」
「今度は砂糖かけないでね?」
「そ、そんな事しないのです!!!」
揶揄うアレシアに対して必死に対抗しているエルシオをみてクスクス笑うエフィルロ。
エフィルロの仕事のある日にはいつもこうして、三人で人間界に行き仕事を全うしている。
様々な所をまわり、アイボーンに写った人間を見つけては、粉を決まった量かけていく。
そんな作業をしていくうちに、朝だったはずが、いつの間にか夕方になっていた。
「終わったのです~!」
本日のターゲット全員に粉をかけ終わった天使達は、天界に帰ろうとゲートを開く。
「ちょっと待って! まだ今日は写真を撮ってないから、あの太陽を撮ってもいい?」
「綺麗な夕日ね。行ってらっしゃい」
大事そうに抱えていたカメラをエフィルロに向けて、目を輝かせながら許可を得たアレシア。
それを見ていたエルシオも、目をキラキラさせながらアレシアについて行く。
「私も写るのです!」
「じゃあエルシオ、そこに立って」
綺麗な夕日と共に映されたエルシオは、満足気にし、綺麗に撮れたとアレシアも満足。開かれたゲートに三人は順番に飛び込んだ。
こうして、帰った天使達は疲れきってしまったのか、直ぐに眠りについてしまった。
これが、エルシオとアレシアの日常。いつも通りの生活。
両親を失ったとしても、ふたりで様々な困難を乗り越えてきた。
初めの方は仕事にも、ふたりでの生活にも慣れておらず、グダグダな生活を送ってきたが、今ではしっかりと生きていくことが出来るようになっていた。
「おっはよー!」
すっかり夜もあけ、昼過ぎになっても起きないエルシオを起こしに来たアレシア。
こうしてまた、ふたりの天使の1日が始まる。
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「ちょっと買出しに行かない??」
その日は仕事がなく、暇だったふたりは商店街へ買い物へ行くことにした。
ゲートをつかって、商店街へとむかう。
商店街は人間界のそれと似ていて、様々なお店が立ち並んでいる。
食べ物のお店や、服のお店。
そんな商店街を目にするや否やエルシオはこう感想を述べる。
「やっぱり多いですね・・・・・・」
そこは、たくさんの天使達で溢れていた。
「セールの日なんてそんなもんよ! 行くわよ。」
エルシオ達は比較的天界の田舎の方にある、ハクシュウ村に住んでいるため、コハクリア、つまり都会まで行くといった遠出はゲートを使うのが一般的だ。この商店街も都会にあり、ゲートを使うのがベスト。
エフィルロの家もハクシュウ村にあるため、そこへは徒歩で行くことが出来るのだが、この商店街は別だ。
「とりあえず、オゴーメはたくさん買っておくわよ!」
「このフルーツも沢山欲しいのです!」
買い物にはたまにしか行かず、一度にたくさん買っておく必要があった。
たまにしか行かない。と言うのには理由があり、それは簡単なことだ。
エルシオ達は決して裕福ではない。
かと言って貧乏というわけでもないが、セールの時に買い物を済ませると言った節約が必要なくらいの生活を送っている。
その日も沢山の買い物をしてお店を出ると、アレシアは帰ろうとエルシオに告げる、しかし、エルシオはもぞもぞしながら一つのお店を指差した。
「ちょっと、あそこに行きたいのです」
エルシオが指を指した先は、何やら怪しげなお店。看板には、剣や弓、魔法に関する用具などが描いてある。
それは間違いなく武器のお店だった。
武器のお店など、これまで行ったこともなかったアレシアは、少し戸惑いつつも、エルシオの好奇心に溢れた目を見て渋々承諾する。
武器のお店に向かう間、アレシアは薄々感じ取っていたエルシオの気持ちを再度確認する。
「天界騎士に・・・・・・なるの?」
天界騎士、それはエルシオとアレシアの両親と同じ職業であるという事で、その過酷さを思い知らされる。
天界騎士はその名の通り、天界の騎士の事である。
天界騎士の仕事はただ一つ、死神を倒すことだ。基本、死神から天使を守るため、天界には結界が張ってある
しかし、星域などの、天界から少し離れた場所には、結界を張ることが出来ていない。
つまり、死神が入る事が出来るのだ。
たまに、天界に結界を壊して入ってくる死神がいることもあり、天使を襲う死神の存在が天使達の脅威である事は間違いなかった。
そこで、天界や星域などで死神から天使を守るためにそれぞれの場所に配属された戦う事に特化した天使。それを天界騎士というのだ。
その集まりは天界騎士団と呼ばれている。
アレシアは、天界騎士という職業がどんなものかなど、両親の件で痛いほど分かっていた。
死神と闘うと言うことは、常に死と隣り合わせだという事なのだ。
「天界騎士に・・・・・・なりたいのです・・・・・・」
オドオドと答えるエルシオ。
それを聞いたアレシアは、やっぱりねと、一息つくと、
「そっか。じゃあ武器が必要ね!」
アレシアの返事を聞いたエルシオの足がその場でパッと止まり、アレシアの方を振り返ると、
「止めないのですか? 天界騎士なんてやめろと言わないのですか?」
顎に手を当て空を見ながら、少し考えるような態度をとった後、エルシオの方を向き口を開く。
「止めないよ。エルシオがやりたい事を私は応援したい。そりゃあ危険な仕事だと思うけど、エルシオならやれるよ!」
「アレシア・・・・・・」
潤んだ瞳がバレないように、また進行方向へ振り向くエルシオ。
潤んだ瞳に気づいたが、その事には触れずに一人でホッコリしているアレシア。
そんなふたりの天使は、武器屋の前で立ち止まる。
初めての武器屋は新鮮であり不安でもあったが、意をけして、恐る恐る店のドアを開ける。
お店に入ると、読んでいた新聞から目をあげ、睨むような鋭い目つきでこちらを見つめる、歳をとった男の天使と目が合った。
目を細めるようにしてふたりの天使の様子を伺っている。
「いらっしゃい」
素っ気ない声でそう告げた店主は、先程まで見ていた新聞のページをめくる。
店内には高くて長い棚がいくつも平行にならんでおり、そこに武器が大量に並んでいる。
その棚の間を縫うようにして進んでいくような造りだ。
棚が高いため、店内は薄暗い。オレンジ色の照明に、キラキラと様々な武器が照らされている。
「なんか怖いね」
不安を通り越して恐怖までもを感じていたアレシアを放って、エルシオはグングンと奥へ進んでいく。
「うわー! すごい! この剣すごいのです! アレシア! これはランデリアという武器で、雷系の魔法と組み合わせるとすごく強いのです! 雷系に弱い死神はこれで一発撃退なのです!」
緊張していたアレシアも、エルシオの健気さを見ると頬が緩む。
それと同時に、早口で武器について述べたエルシオをみて、エルシオがこんなにも武器に対しての知識があるなんてことは、アレシアはこの時初めて知った。
「そんなに頑張ってたんだね・・・・・・」
いつもの戦いごっこはエルシオにとって、死神との闘いの練習だったのだ。
遊びなんかじゃない。そんな気迫が伝わってくるようになったのは、最近の事じゃない。
ーーーーーーーーーーーー今までずっと、ドジでマヌケで家事なんかろくに出来てなかったのに・・・・・・
「すごいねエルシオ。これならいつか、天使みんなを守れるようになるよ!」
「そうなのです! 私は賢いので! でも、アレシアを守るのが最優先なのです!」
エルシオの無邪気な笑顔と優しさを受け取ったアレシア。
少しばかり潤った瞳を見せるべからずと、下を向く。
「ありがとね」
そう、エルシオに聞こえないように感謝を述べる。
何も気が付かないエルシオは、きょとんとした表情で、俯くアレシアを眺めている。
そこで、アレシアの奥にある武器に目が止まり、走ってそこへ向かっていった。
「これは、なんていう武器なのですか?」
「嬢ちゃん変なのに目ぇつけたね。そいつの名前は俺はぁ知らねえ。どこで作られたかも誰が作ったのかも分からねえ。だから価値があるかさえ分からねえんだ。二本でセットの二刀流ってやつだ」
「もっとカッコイイのあるわよ! あっちのとか!」
武器の事など全くと言っていいほど知識のないアレシアがほかの武器の話を持ちかけるが、エルシオはその、二刀流の武器に釘付けになり、離れようとはしない。
「これ、おいくらなのですか?」
「もってけ。ここにあったっていつまで経っても値段はつかねえ。それに、嬢ちゃんは大物になりそうだからな」
「いいのですか!? やったぁ!!」
「いいんですかそんな・・・・・・」
「あぁ。大事に使えよ」
「ありがとうございます!!」
肌身離さず武器を抱えるエルシオと、大量の食料が入った袋を手に下げているアレシアはゲートに入り、無事帰宅した。
帰るやいなや、貰った武器をふりまわしているエルシオの姿を窓から遠目に見ながら、アレシアはお昼ご飯の支度を始める。
エルシオを見ていると、やはりしっかりと練習しているのが分かる。
本当にそこに死神がいるように動き、剣を振るう。
ふたりでご飯を食べた後も、エルシオは外へ走っていった。
貰ったばかりの短剣二本を抱えながら。
数時間が経った頃、練習を終えて戻ってきたエルシオは目をキラキラさせながらアレシアに近づく。
「武器を一旦消滅させて、戦う時になったら出す事が出来る魔法を習得したのです! ほら! ほら!」
武器がキラキラと消滅し、また現れる。そんな魔法をエルシオに見せつけられたアレシアは、すごいねえと、棒読みで返事をする。
「真面目に聞くのです!!!」
「頑張ってね」
エルシオのツッコミが炸裂した後、直ぐに真面目な顔になり、そう告げるアレシア。
少し間が空き、座った姿勢を正した後、エルシオは返事をする。
「はい。頑張るのです! 天界騎士になって、死神から天使を守るのです!!」
明日はエフィルロのお手伝いがあるという連絡を受け、早めに寝ようと電気を消す。
暗くなった部屋で、平行に隣り合わせで並べられたベッドにそれぞれ横たわる。
「今日。エルシオの嬉しそうな写真いっぱい撮れたよ」
「今日は武器が貰えて嬉しかったのです! その写真の題名は初めての武器。ですね」
そうね。そう微笑しながら応えると、スヤスヤとエルシオの寝息が聞こえ出す。
「疲れちゃったのね、おやすみ」
次の日のエフィルロのお手伝いに向けてふたりははやめに就寝。
こうしてまた、ふたりの幸せな1日が幕を閉じた。
闇の中で、星の光に照らされて輝く二本の剣は、とても美しかった。
まるで、星域の星々のように。




