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第1話 卵から孵った竜

なんだか暗くてあったかいところでわたしはじっと静かにすごしていた。




なかなか長い間そうしてすごしてきたような気がしていたけれど、この部屋はもう狭くなってきたし、もうすぐ外の世界に出なきゃいけない。



それにしても、さっきから外が騒がしいみたいだ。







◆◆◆◆







その晩、わたしは自分の頭のツノを使って部屋の壁に穴を開け、はじめて外の世界の空気を吸った。




教えてもらったわけじゃないけれど、このツノを使うってことはわかっていた。




そしてまず思ったことは、そういえば、なんで自分は卵から生まれたんだろうということだった。




自分の知ってる限り卵から生まれる生物なんて鳥とか蛇とかだ。



なにかおかしい、だって、わたしは鳥でも蛇でもないんだから。







卵のからからぐいっと身体を脱出させようとすると背中の何かがつっかかって上手く出られない。なんだこれ。背中になにか付いている。しかもそれは感覚がある。




どうしたことだろう?わたしが色々考えていると、上から大きな声が降ってきた。




「しまったドラゴンが!卵が孵ってんぞ!」





───え?ドラゴン?

わたしは驚いてあたりを見渡した。




バタバタと男が走ってどこかに行ってしまい、部屋には誰もいなくなってしまった。そしてさっき男が言っていた言葉の意味を考えていた。




やっぱり、きょろきょろと周りを見渡してみてもあたりにドラゴンなんていないようだ。何かあるとすれば、さっきわたしが出てきた卵が転がっているだけだ。




いや、まさかね。わたしはおそるおそる自分の手を見てみた。




なんとなく、人間の手が見えるような気がしていたのに、見えたのは黒い鱗に覆われた爬虫類の前脚だった。




わたしは驚いて、何度か握ったり開いたりを繰り返した。そして自分の命令で動くそれがようやく自分の手だということを認識した。




顔を前脚で触ってみると、なんとなく鼻とか唇があるような気がしていたのに、あったのは長い鼻ヅラとか牙だとかツノだった。





え?うそ?どうして?なんで?




自分の身体をあちこち触っていると、さっき出て行った男と、知らない男が何人かバタバタと部屋に入ってきて自分を取り囲んだ。




自分よりずっと身体の大きな男たちに取り囲まれて、わたしは恐くなって身体を縮こませた。男たちは縄とか網とか、鉄の棒を持っていたりしていた。


こわい‥!


男たちはわたしを取り囲むように散らばると、腰を低くして各々武器や縄をわたしに向けて来た。




「逃すなよ」



「孵っちまうなんてついていないぜ。」



「食費がたんまりかかるぞ、儲けが薄くなっちまう」




男たちが何やら喋っている。わたしはパニックに陥りながらも、なんとか男達の言っている内容を飲み込もうと必死だった。



どうやらこの男の人たちはドラゴンで商売をしている人たちらしい。・・・ドラゴンで商売・・・ドラゴンで商売・・・?頭がおかしくなりそうだ。




「時期が遅かったんだ。」



「しょうがないだろう。それに問題はない。戦争中だ、ドラゴンを欲しがるやつなんてすぐ見つかるさ。」



「違いない、いくらいても足りないくらいなんだ。」



「ようし、いっきにいくぞ。今だ、それっ!捕まえろ!」




わたしは包囲を縮める男たちに唸り声をあげて牙をむいて威嚇をした。



男達は一瞬たじろいだ。



冗談じゃない。人身売買(人じゃないけど)なんて!




若い娘を攫って売りとばそうなんて、この・・・変態!




わたしは口をあけて目の前の男に噛みつこうと跳び上がった。ところが牙が届くより先にガツーンと首後ろに衝撃があり床に叩きつけられてしまった。どうやら後ろから鉄の棒で叩き落とされたらしい。




「ふん。赤ん坊でもドラゴン。流石に気性が荒いか。」


「でも赤ん坊だな、ははっ。勝てるわけないだろう」


「舐めてかかると怪我をするぞ。」




こっちは必死なのに、男達はちょっと砕けた雰囲気すらある。慣れた手つきだ。わたしは「やめて!離して!」そう叫んだつもりだった。でも喉から出てくるのはギイギイ、とかグルルという音だった。相手に言葉が伝わらない。こちらに言葉は通じるのに、相手には通じない。なんてもどかしいんだろう。




暴れてるうちにタオルを被せられ、目の前が見えなくなった。と思ったらいつのまにか鉄の口輪をガチャガチャとはめられてしまい、更に鉄縄で縛りつけられてしまった。



嫌だ、こんなの保健所に送られる犬みたいじゃない!外してちょうだい!



ギイギイ叫んで、爪で縄や口輪を外そうとしても、逆に爪がいたむだけでどうしようもなかった。悔しくて男たちを睨んでみるけれど、男たちは全く意に介してないみたいだった。






「逃げられてはいけない。おい、オリをもってこい。鉄製のやつだ」




「うぃす。オイラ行ってきやす」






あぁ、もう無理なんだ、というのが分かった。とても悲しい気持ちだ。とにかく嫌な気分で、胸がつぶれそうだった。気付いたら自分はなぜかドラゴンになっていて、なぜか捕まっていて、売り飛ばされそうになっている…。




縄と金属製の口輪をはめられて、なんて惨めなんだ。




親ドラゴンが助けに来たりしないかなぁなんてちょっと考えてみた。でも男の人たちのあまりに手慣れた様子や専門の器具やらなんやらから、ドラゴンの商売にすごく手慣れてるようだった。助けに来てくれる存在なんて期待しても無駄だろうな。




言葉も通じないから、どうすることもできない。



この人間たちはわたしをドラゴンとして扱う。それはそうだ。だって、いま、わたしはドラゴンだから。




きっと人間はドラゴンを隷属させたり、ペットのように扱っているのだろう。







◆◆◆◆






下っ端が鉄のオリを苦労して持ってきた時も、ドラゴンを数人がかりでオリに入れる時も、鍵を閉めるときも、男たちが部屋を小屋を出て行く時も、ドラゴンはずっと大人しかった。




最後に出て行く男がろうそくの火を吹き消しても、暗闇の奥で光る紅い光は見開かれたままだった。



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