プロローグ
「なぁ、どう思う?」
一人の少年が問いかけた。
「何がだい?」
その問いに、隣にいる少年が答える。
「決まってるだろ?国王が決めた、例の条約の事だよ。」
どこからともなく林檎を取り出し、一口齧ってから少年は続けた。
そして、もう一人の少年に投げる。
「っと。そんな事聞かれてもなぁ。僕に条約なんて物は語れないさ。」
林檎を受け取って、少年は言った。
「そんな事を言っているんじゃぁない。ただ、どう思うか聞いてるんだ。」
「………これはあくまで僕の意見だけどね。まぁ、もう目に見えているんだけれど。」
シャリッと林檎をかじり、飲み込んでから少年は告げた。
「――この国は終わりだ。」
国が終わる時、二人の少年は屋根の上でそんな話をした。
眼下には逃げ惑う人々。
自分の故郷がなくなるというのに、のんきに林檎を齧りながら話していたのだ。
しかし、それほどに少年達は、自分の国を想ってはいなかった。
それどころか、『こんな国……消えてしまえばいい。』とまで思っていたのだ。
これが、5年前の記録。
そこで記録は途絶えている。
しかし、一寸の狂いもない運命の歯車によって、少年たちは新たな頁を開くことになるのだ。
その序章はもう、すぐそこにまで迫っていることも知らずに……。