Code・fairy
崩れ去ったビルがまるで幼い子供が無理やり積み上げた積み木のように、
無茶苦茶な体勢で積み上がり、普段は綺麗な道路も今はどこを見ても、
大きな穴がボッコリと開いている。
普段の日常が非日常に変わったのはこの世界に現れる”奴ら”のせいだ。
“奴ら”は幸せを打ち砕き、絶望を与える存在……つい数分前までは、
そう考えていた。
「ねえねえこれ何!?」
俺の近くをビュンビュンと飛びまわっている存在……それが、
つい数分前まで絶望を与える存在だと思っていた”奴ら”。
何故、全世界で常識となりつつある考え方が、
変わるに至ったのかは時間をさかのぼれば分かる。
9月7日。真夏真っ盛りのある日、俺――――風間大輔は電車に乗って、
学校の最寄駅へと向かっていた。
長かった夏休みも終わり、学校が始まってまだ数日しか経っていない。
夏休みの不摂生が祟ってなのか真夜中の2時になっても全く寝付くことができず、
ベッドに入って眠ることができたのは早朝5時。
そして起きて家を出たのが8時半という実に3時間半という短い時間しか、
睡眠をとっていないせいで非常に眠たい。
電車の窓にもたれかかりながらスマホの電源をつけると、
メッセージが届いていることに気付き、アプリを起動して受信欄に行き、
さっき届いたメッセージを開くと妖精に関しての注意喚起だった。
妖精―――――今から200年以上前に初めて存在を確認された化け物で、
人類の目の前に姿を現した2体の存在は人知を超えた力で持ってして、
人間を狩り始めた。
2体が地球に出現して消失するまでの僅か、
1時間の間に全人口の半数以上を殺しつくした。
被害にあったのは多くは軍備などが整っていない発展途上国が多く、
先進国でも被害はあった。
その人知を超えた力を扱う物を人は皆、妖精と名付けた。
そして200年経った今、
人類はただただ出現する妖精に狩られるだけではなくなった。
対妖精武装――――Killa。
人間でありながら妖精に近しい能力を扱うことができる唯一の武装で、
今までに多くの妖精を狩り続けてきた。
ただこの武装には一つ、大きな欠点があった。
――――――それが
「ちょっと! ここは女性専用座席よ! 男はあっち行きなさいよ!」
「あ、足がいとうての。あと1駅じゃから」
「ダメダメ! ここは女性専用座席なの!」
そう言い、美人でもない勘違い女子略して勘女が杖をついている年配の男性を、
無理やり座席から離れさせて、友人数名と座った。
退かされた年配の男性は小さな声で、
住みにくい世界になったのうと悲壮感を漂わせながら、
杖と手すりを使って揺れに耐えていた。
この通り、対妖精武装――――Killaは女性にしか高い適合率を発揮せず、
男性が使用しても限りなく0に近い数字しか出ない。
よって、日本……いや、全国家は女性優遇策を取らざるを得ないことになった。
民法、刑法などの法律、女性専用病院の普及、女性専用車、女性専用公園、
会社での地位、女性だけ給料を大幅に上げるなど。
優遇策を取った当時は良い意味での優遇策が多かったのだが、
時が経つにつれてその優遇策が暴走を始め、
今に至っては男性は肩身狭い思いをしながら生きている。
人類は過去に黒人差別という犯してはならない罪を犯してしまい、
反省し、新たな一歩を踏み出したはずが、
今では同じ過ちを犯していることに気づいていない。
最寄駅へと到着し、降りると改札口へと繋がる通路の上に男性専用、
女性専用という看板がぶら下がっているのが見え、女性専用は複数あるのに対し、
男性専用は一つしかなくしかも狭いために一人づつしか通ることができない。
とはいってもこの通路を使うのは学生くらいしかいない。
二十歳を超えた男性はそのほとんどが家で、
奴隷のように働かされていることが多い。
面倒なことに女性の就職率はほぼ100%なのだが、
男性の就職率は二桁も行かない。
その理由はどこの会社の面接に行っても口汚く罵られるだけ罵られ、
就職できないから。
そこで行きついたのが男性を奴隷のようにこき使うという仕事。
「おはよ、大輔」
振り返ると脇腹を押えた俺の友人第一号である三直がいた。
……脇腹を押えているところを見るなり、運悪く大量の女性が乗り込んできた、
車両に乗っていて絡まれて殴られたっていうところか。
「あぁ、おはよ。大丈夫か?」
「まあ、殴られただけだしな。にしてもあいつらもう、
キチガイとしか言いようがないだろ。
だって俺、何もしてないのに急に殴りかかってきたんだぜ?」
三直は周りに聞こえないくらいの小さな声で話しながら、改札口を通過し、
学校へとつながっている一本道を俺の隣を歩きながらゆっくりと歩きはじめた。
周りを見渡し、男子生徒を探して見るが、
どいつも気分が悪そうな表情を浮かべながら、
学校へと続いている一本道をゆっくりと歩いている。
「そんなキチガイの中で俺達は飼われるしか生きられない世界になったんだよ」
「ほんとそうだよな。今じゃ子供も人工妊娠とかできるようになってきて、
ますます男の存在価値が下がって来てるんだろ?」
「しかも自殺率も上がってるしな……ほんと嫌な世界に生まれたよ」
その時、ふと視界の端に何か光輝くものが、
ひらひらと奥の方へ飛んでいくのが見え、
思わずその方向を二度見すると路地を曲がっていく姿が見えた。
…………なんなんだあれは。
「どうかしたか?」
「……先行っといてくれ」
三直を先に学校へと向かわせ、俺は光輝く物体が曲がった路地へと向かうと、
今度は右に曲がる姿が一瞬見え、その後を追うように小走りで俺も、
少しまっすぐ行ったところを右に曲がるとそこは壁だけがある行き止まりだった。
「見間違い……なのか」
光輝く物体の姿が見えず、見つけるのを諦めて後ろを振り返ると、
俺の真後ろに光り輝いている物体が浮かんでいた。
突然のことに驚いてしまい、思わず後ろに飛び下がるとその光輝いている物体は、
俺が下がった分だけ俺に近づいてきた。
「妖精……なのか」
その光輝いている物体は徐々に輝きを消していき、
数秒もすれば人差し指くらいの背丈をし、真っ赤なドレスを着た少女に、
真っ白な二対の翼が生えた存在に変わった。
間違いなく妖精なんだろうが……普段からニュースなどで、
目にしている奴らと比べて背丈が小さすぎるような気がするが。
そして少女の目が開き、俺と目があった。
『……人間さん?』
「あ……あぁ」
『スゴーイ! 本物だー!』
突然、嬉しそうに大きな声を出したかと思えば笑い声を上げながら、
俺の周囲を飛びながら回り始めた。
数回まわったかと思ったら今度は俺の頭の上にちょこんと乗っかり、
髪の毛を数本まとめて持ってグイグイと引っ張り出した。
『人間さん人間さん!』
「……とりあえず痛いから髪の毛は引っ張るな」
そう言うとすぐに髪の毛を離し、俺の目の前に浮遊した。
『ねえ、人間さん。他の子も来るよ!』
「他の子?」
俺がそう呟いた瞬間、上の方から紙が破れるような音が聞こえ、
空を見上げると横一直線に穴があき、そこから一体の妖精らしきものが出てきて、
周囲の建物めがけてか青いビームらしきものを放ち始めた。
大地が揺れ、人の悲鳴やビルが瓦礫となって崩れ落ちる音、
そしていくつものガラスが砕ける音が耳に入ってくる。
「っ!」
『わぁ! 真っ暗!』
俺の真上から大小様々な瓦礫が降り注ぎ、妖精の少女を手の中に納めて、
その場から離れると瓦礫が地面に衝突し、砕け散った。
俺も早くここから離れて地下の避難用のシェルターに移動しないと。
移動しようとした瞬間、すぐ目の前を青い閃光が通り過ぎたかと思うと、
近くにあった車が大爆発を上げ、その衝撃波を横から急にくらったせいで、
ろくに姿勢も取れずに吹き飛んで地面に背中から落ちた。
「げはっ!」
すぐに立ち上がろうと足に力を入れた瞬間、全身に激痛が走り、
腹の奥底から何かが上がって来て口の中からツーっと流れおちた。
痛みを我慢しながら指で液体を拭って見てみるとそれは、
真っ赤な液体―――血だった。
多分……さっきの爆発で車の破片が刺さったんだろうな。
『ん~? どうして人間さんは楽しくないの?』
少女は心底不思議そうな表情を浮かべ、俺に問いかけてくるが既に、
その問いかけに返答する気力はなかった。
……この惨状を見て楽しいなんて思うかよ。
『どうして? 遊ぼうよ!』
……お前たちからすれば遊びでも俺たちからすればただの虐殺なんだよ。
それにこの状況を見ろ。
『…………ふ~ん。だったら私と遊ぼ。ずーっと』
唇に何かが当たった感触を感じた直後、さっきまで全身を駆け巡っていた激痛が、
一瞬にして消え去ったかと思うとまるで何もない水槽に大量の水が、
満たされていくような感覚が足先から徐々に上がってくる。
それと同時に全身に力が入っていき、起き上がるとさっきまで、
突き刺さっていた車の破片が消え、空いていた穴も消えて、出血も止まっていた。
『レッツゴー!』
「うぉ!」
頭の中に少女の声が響いた瞬間、突然俺の身体が宙に浮かび、
そのまますさまじい速度を出して、
町を破壊している妖精のもとへと向かい始めた。
そして前方に暴れている妖精の姿が見えた瞬間、
向こうも俺の存在を認識したのか青いビームを俺に放ってきた。
『ガードだもん!』
勝手に右腕が動いて手のひらを奴に見せるような形になると目の前に、
青色の円陣が出現し、迫って来ていたビームを完全に防御した。
「貴様……人間じゃないな」
暴れていた妖精が俺の目の前にやって来て、
ようやくその姿をはっきりと認識できた。
西洋のナイトが着ているような甲冑に身を包み、
顔だけ何もかぶせていない女性の姿をした妖精……まあ、
女性の姿をした個体しか確認されていないんだけどさ。
「いや、人間だよ」
『ボールアタック!』
右手の手のひらに青いエネルギーが集まり始め、球体上に形をなすと、
腕が勝手に動いて奴めがけて投げた。
それと同時に奴もビームを放ち、
球体とビームが直撃するが球体がビームを掻き消し、
そのまま妖精へと突っ込んでいく!
「バカな!」
逃げる間もなく奴に球体が直撃した瞬間、空に向かって青色の光の柱が上った。
爆風がやみ、青色の光の柱が消えると既にそこには妖精の姿はなかった。
この状況を考えるよりも先に姿を隠す方が先だと思い、
その場から離れようとした瞬間、
静電気が起きた時に聞こえる音が連続して聞こえた。
その音は上の方から聞こえ、空を見上げた瞬間に真っ青な空に、
縦一直線に線が入ったかと思うとそこを中心にして膨らみ始め、
まるで動物が卵を産み落とすように空が巨大な飛行艇を産み落とした。
……飛行艇というかまるで空を泳ぐ巨大な船だな。
巨大な船に二つの鉄の翼をつけた物体。
『スゴーイ! お船だー!』
余りの光景に呆気にとられていると船首に誰かが乗っているのに気づいた。
直後、船首から飛び降りたかと思うとその速度はゆっくりとしたもので、
とても数メートル上から飛び降りたとは思えないくらいの速度で、
地上に降り立った。
ツカツカと歩いてくる女性……スーツの上から、
男子が着るような学ランを羽織ってる。
「……ようこそ。歓迎するわ、Code4」
――――――――こうして俺の非日常生活は始まった。
なんとなく書いてみた。




