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エピローグ二

 事件終了から二週間後。

 外観も内観もザ・適当、といった自宅内にて、暗人は日課のトレーニングを行っていた。

 運動前のストレッチ。体を伸ばし、軽く動かし、準備を整える。

 そんな作業の最中、少年は大きなため息をついた。

「はぁ……」

 これで本日一〇〇回目である。記念に何か欲しいところだが、景品をくれる者などどこにもいない。

「鬼龍院さんと結ばれるのは、もう不可能だなぁ……日に日にイチャつき具合が強くなってるもの……そんでもって日に日に僕のストレスも上昇していくっていう……このままじゃ胃に穴空いちゃうよ……」

 体をグニャグニャと曲げながら、暗人は愚痴り続ける。

「はぁ、これはもう、新しい恋を見つけるしかないのかなぁ……でも僕が結ばれたいのは、二次元ヒロインみたいな子なんだよなぁ……そんなの、全国探しても中々いないよねぇ……」

 彼は忘れていた、というか意図的に脳内から爪弾きにしていた。

 身近にいる、二次元ヒロインそのものとしか言えぬ少女を。

 そんな彼女の声が、突如室内に響く。

「相も変わらず腐っておるな、貴様。ふふん、そういう顔をしていこそ、淀川暗人というものだ。名というものはやはり体現してこそだな」

「……君も相変わらずだね。いきなり出てくるのやめてくれない? 神出鬼没ってレベルじゃないよ、マジで。後、僕の名前は暗い人って意味じゃないって前も――」

「さて暗人よ、暇そうな貴様に朗報だ」

「やっぱり聞かないんだね、人の話」

 少年の嘆息を見事に無視して、京香は要件を話す。

「貴様、“迷いの森”のことは知っているか?」

「……隣の県にある心霊スポットのことでしょ? 全国でも一番広い森林地帯で、入ったら呪われるって噂の」

「うむ、まさしく。で、その迷いの森にて、おかしな事件が発生した。なんとなしに魔術師絡みのような気がする」

「気がするって、随分と曖昧だね」

「何せ今回のは鬼龍院の一件とは違って、はっきりとしたものではないからな。色々と複雑なのだ。よって、私でも魔術師によるものなのか否か、判別がつかん。とはいえ、どちらにせよ面白そうではある」

「ふーん。じゃ、行ってくれば?」

「あぁ行くとも。貴様を連れてな」

 ニヤリと唇を歪ませる京香。次いで、外からバババババ、という連続的な音が聞こえてくる。

「ヘリを用意してるなんて凄いやる気だねぇ、ご苦労さん。僕は日課のトレーニングで忙しいから、勝手にどこへなりと行ってきなよ」

「同じことを二度言うつもりはない」

 京香はポケットから無線らしきものを取り出すと、相手に向けて命令を下した。

「玲奈、リディア。こっちへ来て阿呆を一匹引っ立てよ」

 直後、二人の侍女が窓ガラスを割って室内に侵入。

「はっ!? ちょ、ちょっと!?」

 ド派手に登場した金髪メイドと、銀髪褐色肌のメイド。

 彼女等の俊敏な動作と戦闘能力に、暗人はなすすべがなかった。

「ちょっ、は、離してよ! 僕は行かないってば!」

 簀巻きにされ、二人の侍女に担がれた少年。

 その必死な声を、侍女達は片方だけ聞き入れた。

「そぉい!」

「ぐぇっ!」

 二人同時に、暗人を床に叩きつける。

 潰れたカエルのような声を出す暗人に、侍女達は嘲笑を送った。

「ちぐそう……てめぇら覚えとけよ……」

「申し訳ございませんが、貴方様如きのために脳の容量を使う気はございません」

「京香様のおっしゃることを大人しく聞けば痛い目に遭わずに済むものを。もしや糞虫様はマゾヒストでいらっしゃる? でしたら半径一メートル圏内に入らないでくださいませんか。キモいです」

「ぐががががががが! なんなのこいつら! もうどっからツッコんでいいのか全然わかんない!」

 怒りの声が放たれるが、恐れる者などどこにもいない。

「さっさと連れていけ。私は早く現場へ行きたいのだ」

「は、仰せのままに」

 二人同時に返事をすると、侍女達は暗人を再び担いで連行する。

「あああああもおおおお! なんなの!? なんで僕をいつもいつも巻き込むの!?」

 黒髪の美少女に向けて放たれた言葉。それに対し、彼女は口端を吊り上げた。

「貴様が私の障害だからさ。我が人生は、まさに約束された勝利の道を行くが如し。はっきり言って、そんなものはなんの面白みもない。誰も彼も私に挑まないし、超えられる者もいない。……貴様を、除いてな」

 最後に、京香は暗人にとって絶望的な台詞を送って、ドタバタ劇を締めくくった。

「貴様は誰にも渡さん。ゆえに、誰かと共に幸福となれる人生など歩めんと思え。もし万一そのようなことが起こりうるタイミングが来たなら、私が全力をもってフラグを叩き潰す。貴様は死ぬまで私の玩具だ。この腐れ疫病神が」

 ある意味では逆プロポーズとも取れる発言。さりとて、少年にとってはなんのありがたみもない。

「ちくしょう……ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 叫び声が、虚しく響き渡った。

 

 努力家なクズ野郎と口が悪すぎる魔術師。

 二人の物語は、まだまだ続く――

 


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