間章三
【間章三】
魔術。
異世界から“望む何か”を召喚する力。
“奴”から教えられた知識はその程度のものだ。実際は他にも多種多様な要素があるらしいが、自分には扱えない。何ぜ、自分は奴とは違い純正の魔術師ではないのだから。
それにしても、このようなオカルトが実在するとは夢にも思わなかった。魔術などというのは創作物の中限定の妄想話。そのように考えてきた。
が、自分のような一般人が魔術を知らなくとも、無理はない。術の行使に伴う世界改変。これによって、凡人は記憶を書き換えられてしまうのだから。
自分にとって、これは非常に都合がいい現象だ。初めて聞いた時の興奮は、未だに忘れられない。もう数ヶ月前だというのに、つい数分前のことのように思い出すことができる。
それぐらい、自分は嬉しかったのだ。ノーリスクで殺人を行えることが。
魔術のおかげで、自分は逮捕されることがない。そうなるのは、不運にも身代わりとなってしまったあの少年だ。
鷹峯和也、だったか。彼は本当に不幸な人間だ。やってもいない殺人の犯人にされ、しかも、これから“恋人”まで失うことになるのだから。
鬼龍院香澄はついさっき殺した“彼女”にとっても、自分にとっても妹のような存在だ。始末するのは心が痛む。
が、それでも殺す。
彼女も運が悪かった。鬼龍院の一人娘として、次期当主として生まれてしまったのが、彼女の不幸だ。
自分は絶頂へと登らなければならない。それが父の遺志なのだから。
“あいつ”じゃなく、この自分が、頂点へと登らねばならないのだ。
そのためならなんだってする。誰だって殺す。
家族も恋人も友人も。邪魔者は誰一人として生かしてはおかない。自分と同じか、それ以上に優秀な者は、この世にいてはならないのだ。
――さて、では次のターゲットを消すことにしよう。
奴の“オーダー”を聞き入れての殺人。わざわざ殺害方法を取り決めてその通りに実行するというのは、中々面倒なものだ。さりとて、自分は奴に服従する以外にない。
全く、なぜわざわざこのようなやり方をさせるのか、理解に苦しむ。
だがまぁ、利害の一致はしている。大人しく従ってやろう。
そして、※※は“彼”に声をかけた。
オーダー通りの殺し方をするために――