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プロローグ二 3

「とりあえず、救急車を呼ばないとな。……はぁ、今回も計画は失敗か。本当、あんな連中、この世からさっさと消えればいいのに。誰かを傷つけて楽しむ奴なんか、どいつもこいつも死ねばいいよ」

 言って、携帯電話を取り出す暗人。

 その背後から、声をかける者がいた。

「例えば、だ。悪事を秘書のせいにした政治家を批判した人間がいたとする。そいつが悪事をした際、批判した相手同様、何者かに罪を擦り付けた場合、これはブーメランと呼ばれることになるわけだが……貴様はこのことを知っているか?」

 凛然とした声。揺るぎない自信と、不動の精神力を感じさせる、その音色。

 ゆっくりと後ろを向く暗人。果たしてそこには、見知った顔があった。

「君は……逢魔京香おうまきょうかさん、だよね? 同じクラスの」

「ほう、これは驚いた。貴様のミジンコ並と思しき脳みそでも、私の名は覚えられるのだな。どうやら貴様のことを過小評価していたようだ。今後は蛆虫並とみなしてやろう」

 ありがたく思え、と言わんばかりに胸を張る少女。

 逢魔京香。その名、その容姿。同じ学園に通う人間であれば、知らぬ者はいない。

 富豪一族逢魔家の一人娘。齢一六にして家中の全権を掌握しつつあるという人間離れした才覚。それだけでも十二分に異常であるというのに、彼女の容姿はそれに輪をかけていた。

 背丈は暗人とほぼ同じ。女にしてはやや高い部類に入る。その肉体はしなやかさと柔軟さ、そして艶美さが結集したような、究極の形。

 そんなボディの上にある頭部もまた、神が気紛れて作り出した芸術品のようである。長く艶やかな黒髪は光を受けずとも常に輝きを放ち、切れ長の紅い瞳はおおよそ人のそれとは思えぬような妖しさを持つ。

 肌は透明感ある純白。その身に纏うは、肌色に反した漆黒の和服。きめ細やかな白が美しい黒を際立たせ、且つ、美しい黒がきめ細やかな白を際立たせる、理想的相乗効果を生み出している。

 と、まぁ、なんともおかしな人間、いや、そもそも本当に人かどうかも怪しい。それが、逢魔京香という少女だ。

 ――今日も相変わらず綺麗だな。でも全然惹かれることはないけど。なんせ僕には心に決めた人がいるし。……まぁ、好きな人がいてもいなくても、この子とはあまり関わりたくないんだけどね。

 目を眇める少年に、京香は憮然とした態度で言う。

「なんだ、その面倒くさいものを見るような目は。貴様せっかくこの私が声をかけてやったというのに嬉しくないのか。繰り返すが、わざわざ声をかけてやったのだぞ? この私が。貴様のような不良のレッテルを貼られて誰からもまともに相手をされない、孤独死確定な悲惨人生爆進野郎にな」

「……ぶっちゃけ全然嬉しくない。大体ね、君、その性格はどうかと思うよ? ずけずけものを言いすぎ。もうちょっと相手への配慮が必要なんじゃないかな? そんなんで社会に出てやっていけると思ってるの?」

「例えばだ。井の中に蛙がいるとしよう。そいつは大海を知らず、また、蛙以上の強者はいないと勘違いをしている。まさに今の貴様がそれだ。私は社会進出などとうに果たしているし、頭を下げさせたことはあれど下げたことなど一度たりとてない。つまりは常に絶頂を維持しているというわけだ。私を貴様如きちっぽけな物差しで図るな、雑種めが」

「あぁそう、それは悪ござんした。で、そんなパーフェクトお嬢様(笑)が僕になんの用? どうせ街の野良犬を見て笑ってやろうと思ったとかそんな感じなんでしょ。だったら思う存分笑ってくれていいから、勝手になんでもやってなよ。僕は救急車呼ばなきゃいけないから」

 言って、暗人は携帯を取り出し、操作。病院に連絡を取る。

 それを見やりつつ、黒髪の美少女は宛然とした桃色の唇を動かす。

「ほう、貴様が私の意図を読めるとは思ってもみなかったぞ。まさしくその通り。以前より注目していた見所のある雑種がまたもや何かを企んでいるゆえ楽しそうな臭いを感じ取り監視していたというわけだ」

「ふーん。……あ、すみません、人が倒れているので救急車をお願いできますか? はい、台数は四人分で。えっと、場所はですね――」

「私の言葉を無視するとはいい度胸をしているな、貴様。だがまぁいいだろう。そのまま聞け。貴様がやらかそうとしていたことはついさっきブツブツと吐き出していた独り言で把握している。なんとも醜い、それこそ貴様の腐った性根以上のおぞましさを覚えさせる計画だ」

「あ、はい、じゃあよろしくお願いします。お手数かけて申し訳ございません。はい、では失礼します」

「ようやく終わったか。ならば私の声に全神経を集中させろ。またも無視などしようものなら家の総力を挙げて後悔させてやる。――さて、話の続きだ。貴様の計画は確かに汚らわしいが、中々に面白そうではある。私も周りの目を憚ることなく発情する雌豚、雄豚の群れには不快を感じていたところだ。よって、貴様が見たかったものを見せてやろうではないか」

「はぁ、それはどうも」

「なんだ、その返事は。そしてなんだ、その阿呆を見るような目は。くり抜かれたいか貴様」

「……あのね、この状況でどうやって僕が見たいものを見せてくれるっていうのさ? 一応言っとくけど、僕の計画を無理やり実行させるってのはなしだよ? リア充共を糞塗れにできたら確かに最高だけど、そうなるととんでもないパニックが起こって、下手をすると救急車の到着が遅れるかもしれないんだから」

「己の悦楽よりも人助けを優先するか。なんとも中途半端なクズ野郎だな、貴様は。まぁそれもよかろう。……話を戻すが、貴様の計画に乗っかるなどというせこい真似はせん。私のやり方で豚共の情欲を萎えさせてやる」

「はぁ、どうやって?」

「簡単なことだ。“魔術”を使うのさ。何せ私は――」

 威風堂々とした笑みを湛えた唇から、少女の正体が発せられる。

「“魔術師”だからな」

 そして、暗人がリアクションするよりも前に、“それ”は起こった。

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