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第三章 10

 顎に手を当て、今後の展開を推測する暗人。

 されど――“妨害者”によって、その思考は中断させられてしまった。

「よぉ。さっきは祝辞の賞賛をどうもありがとう。今後の指針まで示してくれて本当に感謝している。悪の秘密結社だったか? それの首領、なってやろうではないか。その時は貴様を真っ先に改造人間にしてやるゆえ楽しみにしておれ。どんな風に改造されたい? ゴキブリ人間か? はたまた皮膚の代わりに全身を蛆が這い回る蛆虫人間か? なぁ、どれにするんだ? く・ら・と・くぅぅぅぅぅん?」

 肩を抱きながら耳元でそう尋ねてくる妨害者。その声は、京香のもので間違いない。

 密着する彼女を横目で見やりながら、少年は嘆息混じりに応答した。

「あぁもう、なんなの君は? キレてるの? ねぇ、キレてるの? 人に散々悪口言うくせに自分が言われたら怒るとか、人としてどうかと思うよ、僕は」

「別に怒ってなどいない。もし私を怒らせたなら、貴様などとうに細胞の一片すら残っておらんわ。それにしても、悪の秘密結社の首領とは私にピッタリなポジションだなぁ? 貴様もそう思うだろう?」

 その問いは、少年とは違う別の誰かに向けられたものであった。

 彼女が口を向けた方向を見やる。と、そこには、二人の男と一人の女がいた。

「……あー、それは私宛てかしら? 京香サマ」

「貴様以外に誰がいるというのだ? 貴様、その両脇に侍らせた男二人よりも先に話しかけようとしたな? 二度目ゆえ慣れたか、はたまた私に怖じぬだけの人間となったか。まぁいずれにせよ再会を喜んでやろう。鳳龍院沙耶よ」

「あら? 私のこと覚えてらっしゃったの? それは光栄の至りだわね」

「無論だ。私は口説いた女のことを忘れない。ちなみに、今でも諦めてはおらんぞ? 気が向いたならいつでも私のもとへとくるがいい。死してもなお可愛がってやるゆえ」

「残念ながら、前回同様ノーと言わせていただきますわ。まだまだやりたいことがたくさんありますからね。それに、私が全てを捧げるのは鬼龍院香澄を置いて他にいない。私が貴女のものになることは未来永劫無いでしょう」

「くはははは。見事な振り方だ。ますます欲しくなったぞ」

 京香と沙耶の語り合いに、暗人を除いた周囲の者達全員が冷や汗を流す。

 黒髪の美少女の言動は、一回り近く歳の離れた相手にするものではない。されど、彼女の全身から放たれる絶対強者としてのオーラが、それの違和感を消していた。

 普通なら、それに屈してしまうだろう。さりとて、沙耶はまるで動じることがなかった。涼しい顔をして堂々と言葉を返す。

 京香に対し、これだけ落ち着いた状態で相手ができる者は珍しい。暗人も内心驚いていた。

 ――さすが、女帝と呼ばれるだけのことはあるね。京香並ではないけど、下手をすれば劉煌もといお父さんよりもオーラが強い。……で、近くにいる二人は虎龍院大我に、獅龍院鉄斎、か。僕の中の容疑者候補勢揃いだな。

 大我、鉄斎、両者の顔を交互に見る。どちらも冷や汗をかいてはいるが、内面を表情に出してはいない。

 それを少しは評価したのか、京香は二人に対し、気だるげではあるが声をかけた。

「で、そこな二人は何者だ? 名を名乗るがいい」

「わ、私は虎龍院大我。虎龍院家当主を務めております」

「ワシは獅龍院鉄斎。獅龍院家の当主ですわ。よろしゅう頼んます」

 大我の方は未だ彼女の圧に慣れていないらしく、ぎこちない口調であったが、鉄斎はそうでもなかった。

「ふむ、鉄斎の方はでかい図体に見合った肝を持っておるらしいな。沙耶に比べればまだまだだが」

「がははは! そりゃそうですわ。なんせ沙耶は鬼子母神が人の形をしたような女ですからなぁ!」

「ちょっと、誰が鬼子母神よ! それを言ったら、あんたなんかレザーフェイスそのものでしょうが!」

「おいおい、せめてターミネーターと言ってくれへんかな? ワシ、シュワちゃんめっちゃ好きやもの」

「鉄斎はせいぜいソニー・ランダムぐらいじゃない?」

「誰やっけそれ?」

「ほら、プレデターの終盤でやられたあいつを演じた人だよ」

「あーあー、あのバトルシーン全面カットされて再登場時にはドクロになっとったあいつか」

 京香の前で楽しげに会話する三人の当主。やはり、彼等は普通の人間とは格が違うらしい。彼女の前で自然に笑える。それは凡人には絶対にできぬことだ。

「やれやれ、この三人は随分と仲が良いな。我々とは大違いだ。なぁ? 暗人よ?」

「そりゃそうでしょ。僕等に仲が良くなるような思い出があった? そもそも、今は敵同士だし」

「くははは。それもそうだ。……で? 貴様のお目当てはどこのどいつだ?」

「……そんなの、君に言うわけがないでしょ」

 小声で放たれた問いかけに対し、少年は拒絶で返した。

 それ以外に、答えようがなかったのだ。何せ現段階においても、犯人を断定していないのだから。

 ――誕生祭当日に至るまで、僕は和也と鬼龍院さんに内緒で独自に調査をしてた。その結果、容疑者を目の前の三人、沙耶、鉄斎、大我まで絞ることができたわけだけど……そこから先に進むことができない。だって、三人共事件を起こす“動機”があるんだもの。

 考えを巡らせながら、まず沙耶に目を向けた。

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