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プロローグ二 2

「でも今回は大丈夫。入念にやったんだから。今までにないぐらい念入りに計画を練ったんだから。毎日毎日リア充共が糞の海に沈むところをイメージし続けてようやくここまで辿り着いたんだ。失敗なんかしてたまるか。この計画のためにかかった費用も馬鹿にならないし、成功させなきゃ何もかもが台無しだ。……こうやって人が不安で苦しんでるっていうのに、通り過ぎるボケリア充共はどいつもこいつも笑顔でいやがる。あぁ腹立たしい、妬ましい。見てろよテメェ等、絶対にこの日を忘れられない日にしてやるからな……!」

 感情が昂ぶり、顔が憎悪で歪む。噛み締めた下唇から血が流れ、地面に落ちた。

 その瞬間。

「うおっ!?」

「わっ!? ちょ、ちょっと大丈夫、まー君!?」

 中性的な顔をした、見るからにハーレムタイプの主人公といった少年が、道の真ん中ですっ転んだ。

 隣を歩いていた恋人と思しき少女――当然のように可愛い――が心配げに声をかけている。

 その様を見て、暗人は顔を輝かせた、まるで瀕死の人間を救った直後のように。

「あぁ、本当にスカッとするなぁ。ざまぁみろって目の前で言ってあげたい。でもまぁそれはやめにしよう。代わりにあの淫売ビッチと一緒に糞だらけにしてやる」

 暗人は口元を邪悪に歪め、計画決行を決めた。

 スイッチを押す前に、一通りこれから自分のすべき行動をおさらいする。

 まずは移動だ。ここにいては自分まで被害に遭う。よって彼はすぐ後ろにある路地裏に入り、奥の方まで非難せねばならない。計算では一〇メートル程度。それだけ進んだら爆弾を起爆し、リア充共の悲鳴を楽しむ。その後、酷い有様となった連中を見て笑ってやるのだ。

「グフフフフ……さぁ、念願の時来たれり、だ」

 そして、彼は予定通り移動を始めようとする。

 だが。

「……ん?」

 暗人の濁りきった瞳が、“それ”を捉えた。

 向かい側の路地裏。その内部で、複数の人間が一人の人間に暴行を加えている様子を。

「ついさっきまであんな奴等いなかったんだけどな。向こう側から来たのか。……やれやれ、邪魔くさい奴等だ」

 言いつつ、彼は最優先事項変更した。

 虐げられている者が目の前にいる。ならば、淀川暗人が成すべきことはただ一つ。

 少年は走り出した。静かに、それでいて素早く。標的に悟られぬよう気配を殺しながら、人混みをかき分け接近していく。

 段々と、奴等の声が聞き取れるようになってきた。内容などはどうだっていい。どうせ吐き気がするようなものに決まっている。

 許せない、という気持ちが心を奮い立たせた。加害する者達も、それを見て見ぬふりする往来の連中も。

 被害者以外の誰も彼もに、心中で唾を吐きながら――暗人は、救済者として現場に到達する。

 そして、未だこちらの接近に気付かぬ愚者の後頭部に、思い切り右ストレートを叩き込んだ。

「ぐぁっ!?」

 うめき声を上げながら、男が倒れる。残り人数、四。

「な、なんだてめ――」

 倒れる男のすぐ近くにいた、いかにもな人相をした彼。その口から言葉が最後まで紡がれることはなかった。

 鋭い踏み込みからの左フックが、顎を的確に打ち抜く。脳震盪を起こし、倒れこむ男。残り人数、三。

「く、くそッ!」

 ここに至り、ようやく迎撃姿勢に入ろうとする者が現れる。ポケットに手を突っ込んだところからして、ナイフでも取り出そうというのだろう。

 それを許すほど、暗人はノロマではない。

 相手との距離はおおよそ一メートル半。状況からして拳による打撃は危うい。ならば。

 瞬時に最適な攻撃法を導き出す。少し踏み込んでからの前蹴り。下腹部を狙ったそれはものの見事に直撃。

「うっ……」

 顔が一瞬で青くなり、倒れこむ男。下がった頭部を容赦なく踏みつけ(スタンプ)、止めとする。

「や、やべぇよこいつ!」

「逃げるぞ!」

 残った二人は勝ち目なしと悟ったか、悪臭がにじみ出ている人相に恐怖を浮かべて逃げ出した。

 それを追うことなく、暗人は被害者の様子を伺う。

「……こりゃ酷いや。失神してる」

 壁際にもたれかかる形で崩れ落ちている彼。その顔は赤黒く腫れ上がり、とても見れたものではなかった。

「……ごめんね。僕がもっと早くに気づいてれば、ここまでされなかったのに」

 おそらく聞こえていないであろう謝罪。それを紡いだ口が、悔しさで引き結ばれる。

 こうして、暗人は“いつも通り”誰かを救った。そして、いつも通りに憤りを感じる。

 彼をこのような目に遭わせた者達に対して、それを看過する者達に対して、早期発見ができなかった自分に対して。

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