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第三章 2

「必死こいただけあって、まぁ、色々と情報は手に入ったんだけどね! 決定打が……」

「ちょ、ちょっと待って、淀川君。その話はカズ君が戻ってきてからにしようよ。三人揃って、お昼食べながら話そ? ね?」

「う、うん」

 思い人の提案を断ることなどできない。例え、クソ野郎と食事を共にするという不快に耐えろという命令であっても。

 そして数分後、無個性な少年が昼食を持って帰ってきた。

「ほい、これ淀川のリクエストな。後お茶」

「……ありがと」

 暖かい牛カルビ丼と冷えた緑茶を貰い、素直に礼を述べる少年。

 和也は香澄にペペロンチーノを渡し、自分はミートソーススパゲッティを取り、暗人の隣に座る。

 ――あぁ良かった。これでもしバ和也が鬼龍院さんの隣に座ったらガチで殴りに行ってたし。

 物騒なことを考えながら、昼食の蓋を開け、割り箸を割る。

「いただきます」

 三人同時に食前の挨拶。そして、少年は一口目を頬張り、咀嚼。それを飲み込むと、先程香澄に言おうとしたことを口にする。

「和也が帰ってきたから、今回の成果について話すね。食べながらでいいから聞いて。まず、犯人が召喚しようとしてるモノについては、候補が八種類にまで絞り込めた。でも、その中のどれなのかは判然としてない。何せ、第一の殺人と第二の殺人は情報が少ないからね。しっかりとした情報があるのは第三の殺人だけっていう状況は、結構厳しいものがある」

「ごめんね。あたしがもっと虎龍院さんと臥龍院さんの件について覚えてれば、もっと違ったのに……」

「気にしないでよ。さすがに数ヶ月前のことは仕方ない。魔術による世界改変の影響もあるだろうし」

「それで、どんなやつを召喚しようとしてんだ? 黒幕の魔術師ってのは」

「……おそらく、神話上の登場人物の中でもかなり高位だと思う。もう最低三人殺されてるのに、未だ大召喚が行われていないってことは、僕の推測が間違ってるか、それだけとんでもないやつを呼ぼうとしてるかのどちらか。……で、肝心の召喚物なんだけどね、僕は被害者の死に方にそれの特徴があると睨んでるんだ。まず最初の犠牲者はおそらく炎による焼死。第二の被害者はミイラ状で発見されたことから、全身の水分を抜かれたんだと思う。第三の被害者は、和也の証言から、落雷による感電死で間違いない」

「つまり……召喚物は炎と雷が関係してて、後、水分を抜き取るような奴、ってことか?」

「水分に関しては、抜き取るって意味じゃない可能性もある。もしかしたら、乾燥させるって意味かもしれないし、水そのものを意味してるのかもしれない。なんにしても、雷と炎が関係してるのは間違いないから、そういった属性を持ってる神々とか怪物ってことになるね」

「それって、具体的にはどんなものが挙がるの?」

「そうだね……雷や炎にまつわるエピソードや特徴を持ってる連中はかなりいるけど、有名どころとしては北欧神話の雷神トールだね。彼の持つ武器であるミョルニルは常に燃焼しているらしいから、炎と雷の両方の属性を持ってることになる。後は……」

 暗人は次々と候補を並べていくが、最終的に、

「以上が召喚物の候補なんだけど……やっぱり、これ以上の絞込みは不可能だと思う」

 そう言って、話を締めくくった。

 しかし、その濁った瞳に絶望感はない。なぜなら。

「どれを召喚するかはわからないけど、これだけ絞れれば十分だと思う。次にどんな方法で人が死ぬかは推察できるし、狙われる人は召喚物を特定しなくても予想できる」

「それは……あたしの親戚、だよね?」

「そう。犯人の動機からして、狙われるのは分家の当主、もしくは鬼龍院の当主である可能性が高い。問題なのは犯人がいつ殺人をするかってことなんだけど……これが全然わからないんだ。鬼龍院関係者が一堂に集まる機会があるっていうのなら、話は別なんだけど」

 悩ましげに頭を掻く少年に、香澄は静かに言葉を放った。

「ある。あるよ。関係者全員が集まる機会」

「えっ?」

 驚く暗人に、栗髪の少女は説明を開始する。

「あたしの家ね、誕生祭って行事があるんだ。鬼龍院宗家の親族の誕生日に分家の人達や各界の人達を呼んで会食パーティーをするの。分家、というか親戚の人達は絶対参加で、もう各家の当主さん達は家に来てるよ」

「そういや、そんなのあったなぁ。俺も一回だけ特別に参加させてもらったんだけど、とんでもねぇ面子が集まっててびっくりした記憶があるぜ」

「……もしかしたら、犯人はその誕生祭当日に殺人を実行するかもしれない。ねぇ、鬼龍院さん。僕も誕生祭に参加できるかな?」

「うーん……頼み込めば、なんとか許してもらえるかも。カズ君は魔術の影響とかで難しいかもしれないけど……できるだけのことはするよ」

「うん、お願い」

 胸中の本音を隠しながら、暗人は思い人に言った。

 和也はなんの役にも立たないので無理はしなくていい。むしろ交渉しなくていい。香澄と自分だけで事件を追いたい。

 ――でも、どうせこいつもくっついてくるんだろうな。主人公補正が発動するに違いない。あぁ腹立たしい。死ねばいいのに。

 眉間に皺を寄せながら、内心で呪詛を吐く。と同時に、近くで本を抱えた中年の男が滑って転び顔面を痛打したが、気にする者は誰もいない。

 

“二人”は、真相へと着実に迫っていた。

 

   ◆◇◆


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