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第二章 5

 ――とりあえず、家に着いたらそれを確かめよう。今日は容疑者名簿が作れれば御の字って感じだな。

 展望に思いを馳せながら歩く少年。その少し後ろから、彼に声がかかった。

「な、なぁ、淀川君、ちょっといいか?」

「……まず、君は僕を君付けするのをやめようか。友好的な君付けならまだしも、勘違いされて恐れられての君付けはムカつくだけだから」

「えっ? で、でも……」

「でももへったくれもない。君さ、僕のことをちょっと気に障ったらすぐに暴力振るうDQNか何かだと思ってるでしょ? 昨日も言ったけどね、君は僕の表面しか見てないから僕のことを怖がるんだ。僕は人助けのために暴力を振るったことはあっても、好き好んで喧嘩をしたことなんか一度だってない。……だから僕をあんな奴等と一緒にしないで。僕にとっては一番傷つく」

「……悪かったよ。じゃあ、淀川。一つ聞いていいか?」

「はぁ、何?」

「逢魔さんの姿が見当たらねぇけど、なんかあったのか?」

「……あの子とは別々に調査することになったんだ。その方が効率がいいからね」

「ふぅん、そっか」

 何がどう効率が良いのか。そういったツッコミをされたらアウトだったが、和也は素直に納得してくれた。

 ――さすが学年でビリっ欠の馬鹿。疑うことをしないから騙しやすいや。

 胸中で嘲笑う少年。

 そして、三人は暗人の自宅前へと到着した。

 彼が住まう家宅は、一〇年前の災厄に被災した者達にあてがわれた二階建ての簡易住宅である。外観からして、内部がいかに適当な造りとなっているか丸分かり。けれども金銭に余裕がない淀川家は新しい住居を得ることなどできぬため、ここに住み続けているというわけだ。

 門扉を開き、玄関に繋がるドアに手をかける暗人。そうして見慣れた空間を確認すると、

「じゃあ入って」

 後ろの二人に、入室を促した。

「お、おう」

「お邪魔します」

「……挨拶はしなくていいよ。この時間は僕しかこの家にいないし」

 母は家計を助けるため、朝から晩まで働いている。それゆえに、暗人は幼い頃から、帰宅時家族に出迎えられるという当たり前を経験したことがない。

 二人は靴を脱ぐと、先に上がっていた少年についていった。

 階段を上り、二階へ。

 この家宅には、はっきり言って最低限のデザイン性や利便性すらない。階段を上った先には洗面所があり、その角を曲がったら広いスペース。四角形の二階には、その空間が四つ存在するだけである。各部屋を仕切るのはふすま。ドアという名のプライバシー保護装置等はなない。

 とはいえ、この家に住むのは母と暗人の二人であるため、二階は実質彼専用の空間。今のところ文句などはなかった。

 いや、むしろ好都合というべきだろう。広々とした“トレーニングルーム”を作ることができたのだから。

「こ、これって……」

「すげぇな、おい」

 目に入った光景に、和也と香澄は驚嘆した。

 二階に存在する四部屋のうち、三部屋はトレーニングに使用する器具置き場である。そこにはウェイトトレーニング用のダンベル、バーベルセットと重量プレート、チンニングバーに、腹筋用のスタンドなど多種多様な器具があり、エアロバイクやサンドバッグまで完備している。

 内装も激しいトレーニングに耐えられるよう改装されており、二階はちょっとしたジムの様相を呈している。

 これだけの環境を作るには想像を絶する労力を費やしたものだが、暗人はそれについて何も語らなかった。

「二人共、僕の部屋に行くよ。こんなの君達にとってはどうでもいいでしょ?」

「あ、あぁ」

「そ、そうね」

 そうして、暗人は和也と香澄を引き連れて自室に繋がる麩を開けた。

 彼の部屋は、非常にすっきりとしたものである。別段無機質ではないが、年頃の男子としてはどこか寂しい。そんな空間だ。

 さりとて、適当且つ乱雑に置かれた漫画雑誌や、散乱するアニメDVDとゲームソフトを見るに、やはりここは男の部屋だなと実感する。

「悪いけど、クッションとかはないんだ。固くて痛いとは思うけど、畳の上であぐらでもかいてね。あ、でも鬼龍院さんはそんなことしなくていいんだよ? 一応パソコンの前には椅子があるから、そこに座って。座り心地はそんなに良くないけど、畳よりかはマシだから」

「う、うん。ありがとう」

 おそるおそるパソコン机の前にある椅子を引き寄せると、香澄はそこにちょこんと座った。

 制服のブレザーを脱ぎ、適当に放り捨てながら、暗人は思う。

 ――鬼龍院さんが、あの鬼龍院さんが、僕の部屋にいて、僕が普段座ってる椅子に座ってる……あの鬼龍院さんがッッッ! ……あぁやばい、感動しすぎて泣きそう。本当、邪魔なクソ野郎さえいなきゃなぁ。ま、いずれこの腐れ外道を排除して、また鬼龍院さんを家に招こう。今度は二人っきりでネットサーフィンやらなんやら色々やるんだ。グフフフフ……。

 気持ち悪い妄想を脳内で垂れ流す少年。そんな彼に、香澄が言葉を投げる。

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