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第一章 6

「え、えっとね、全部を話すと長くなるから、多分鬼龍院さんが知りたがっていることについてだけ話すね。魔術っていうのは、“基本的”には“別世界からの召喚”なんだ。例えば、永遠に燃え続ける炎なんてこの世界に存在しないよね? でもそれが存在する世界はあるかもしれない。パラレルワールドって無限にあるらしいから、その内の一つに、無限に燃え続ける炎があるかもしれないんだ。で、それを魔術師は自分の中にある魔力を媒介にして“召喚”する。それで対象を燃やしたりとかするわけなんだけど、ここで“世界の改変”が関わってくるんだ。例えばね、炎で建物を燃やすとしようか。その後、目的を果たしたら召喚物は元の世界に帰っていくんだ。そのタイミングで世界が改変される。“建物を燃やしたのは無限に燃え続ける炎ではなく、何者かの不注意によって発生した火事が原因だ”、みたいな風に」

「な、なんでそんなことが起きるの」

「そ、それはだね、召喚物が別世界の存在だから、だそうだけど、僕も詳しくは知らない。京香は適当な説明しかしてないから、僕の解釈になるんだけど……“世界は別世界からの召喚物を異物としてみなし、反発しようとする”んだ。世界は別世界と交わるようなことを嫌うから、別世界からやってきた何かが起こした現象を、この世界の何かが起こした現象として書き換えようとする。だから、かず……クソ野郎みたいなことが起きるんだよ」

「言い直す必要あったか……?」

 呟く和也を無視して、話は進む。香澄はさらに突っ込んだことを聞いてきた。

「うーん……なんでカズ君が犯人扱いされるような改変が起きたの? 実行犯は魔術師なんでしょ? だったら魔術師が魔術以外の何かをして、殺人をしたって風に改変されてもいいんじゃない?」

「そ、それがそうでもないんだ。世界には、“世界から見放された存在”っていうのがいるらしくてね。詳しく言うと、魔術師、魔術師になれる素質の持ち主、魔術師と深く関わり続けた人間、この三種類は、世界から見放されるんだ。そうなると、魔術による世界改変の影響を一切受けなくなる。例えば、僕なんかは京香と一年ぐらい深い関わりを持ってるから、クソ……全身縮れ毛野郎=犯人っていう情報を受け付けてない」

「どんどんランクが落ちてくな……」

「えっと、じゃあつまり、魔術師は自分が使った魔術で何をしても犯罪者にはならないってこと?」

「うん、そうなるね。大体の場合、第一発見者か、もしくは近場にたまたまいた人間が犯人にされるんじゃないかな」

「それで犯人として改変されちゃった本人は、冤罪を受け入れざるを得ない……なんだか、気分が悪くなる話だね」

「う、うん」

 言えない。和也が犯人扱いされて超ハッピー、だなんて、彼女には口が裂けても言えない。

 偽りの返事が終わると、話を締めくくるべく、京香が声を上げた。

「さて、これで話は終わりだ。我々はこれからすぐに調査を開始する。まぁ、長引いても解決までに三日とかかるまい。貴様等は何も考えず、じっとしていろ」

 言って、暗人の耳を掴み立ち去ろうとする京香。

 その背後から、二人が声をかけた。

「あ、あのさ! 俺達にも……何かできることってねぇのか?」

「助けてもらうのを待つだけって、なんだか悪いし……手伝えることとかあればなんでも言って欲しいな」

 その申し出に対し、京香は振り向くことなく言った。

「例えばだ。あらぬ罪を擦り付けられた者がいたとしよう。そいつが真相を知った時、抱く感情などは容易に想像がつく。貴様等の感情もそうだ。顔を見れば瞭然に過ぎる。私としては、それに配慮するつもりなど一切ない。素人二人が首を突っ込んできても危険な目に遭うだけだ。私は逢魔家当主。一般人を魔術師絡みの事件に巻き込まぬよう尽力することはあっても、その逆などありえん」

「……ねぇ僕のことはいいの? 君この一年間、僕の首をずっと突っ込ませ続けてきたよね?逢魔家当主の役目とかどこいったの?」

「貴様は例外だ」

 断言である。迷いなき言葉に、暗人は嘆息するしかなかった。

「とにかく、貴様等バカップルは指をくわえて大人しくしていろ」

 念を押すようにそう告げると、京香は暗人を引き連れて屋上から去っていった。

 

 取り残された二人は、一言も喋らず顔を見合わせる。モヤモヤとしたなんとも言えぬ感情。互いの表情を確認し、和也と香澄は頷く。

 主人公とヒロインが、舞台を降りることなどありえない。

 

   ◆◇◆

 

 天原市は本日も平常運転だった。

 午前九時過ぎ。多くの者にとって出勤や登校が既に完了しているこの時間帯は、人通りが少ないのが普通である。さりとて、ここのように道行く者が一人もいないなどということはありえない。

 市全域が廃墟と言っても過言ではない、この空間。その只中に立つ、二人の少年少女。

 周囲の環境を確認しながら、“被災者”たる暗人は複雑そうな顔となる。

 ――できれば、ここには来たくなかったんだけどな。もう一〇年は経ってるけど……それでもまだ、ここは気分が良くなる場所じゃない。

 彼にとって、天原は始まりの地だ。

“二つの意味”で、少年は天原で生まれた。

 赤子として。救済者として。

 今の己を形作った天原の景観は、彼の記憶にある映像のどれとも一致しない。活気ある人の群れ、炎と悲鳴が上がる地獄。今はそのどちらも存在せず、ひたすら続く静寂のみがある。

 ――ここが元に戻ることなんてあるのかな。……あったとしても、僕はここに帰るつもりはないけど。この土地は、嫌なことばかり思い出させるから。

 はぁ、とため息を吐く少年。

 その傍で腕を組み堂々と佇立する黒髪の美少女は、彼の心情をおもんぱかる――

「なにをアンニュイになっているのだ、貴様は。これから調査なのだぞ。しゃっきりせんか、馬鹿者め」

 わけがなかった。

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