夏の日
蝉の声を聴きながら縁側で涼む。扇風機だけでは正直暑かったが、寝そべって見上げる太陽の光に、そんなことはどうでもよくなる。
青い空に雲が流れ、緑の葉はかすかにざわめいていた。
俺がこの家に戻ってきたのには理由が二つある。一つはお盆。実家に親戚一同集まって先祖たちのお参りや、墓掃除に勤しむのだ。
そして二つ目が、理由になっていないかもしれないが、この綺麗な田舎を見たかったからだ。
小さい頃あれほど嫌だったこの村が、今はたまらなく愛おしい。至る所が輝いていて、綺麗としか言いようがないのだ。俺はこの村が好き、それが遠路はるばる帰省した理由だ。
ちりんと音を上げる風鈴を薄く開いた目で見上げていると、塀の外から子供たちの元気な声が聞こえた。
今から遊びに行くのだろうか、いや、もう遊んでいたんだろう。その若い声は自分の小さな時を思い出せる。あの、何も考えずに友達と走り回った美しい日々を。すこしばかり鬱になるが、それを気にしても仕方がない。俺は向こうに戻った時の、会社の事を考えようとして、やめた。
自分から今の大切な時間を壊す必要はない。せっかくの休みに村へ来れたんだ。今は会社の事など忘れよう。
そう思い、寝返った瞬間、頬に冷たい物が当たった。
見るとそれは美味しそうに波打つ麦茶。俺の大好きな飲み物だ。透明のコップは誰かが持っていて、その人物を見ると、それは従妹の恵子だった。
今時の軽装、と言うべきなのだろうか、俺は服に関して詳しくないのでよく分からない。でも、その格好は恵子によく似合っていた。長い黒髪が揺れ、睫毛に縁どられた大きな目。その容姿は俺を動揺させるのに十分すぎた。
大げさに飛び起きた俺をけらけらと笑う恵子。その顔は昔から変わらず、俺を幸せにする。
笑いが収まると、麦茶を差し出して恵子はどこかへ行ってしまった。俺は麦茶を一口飲み、再び外へ目を向ける。やはり、夏は輝いていた。
作者は烏龍茶が大好きです。