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Mission.2 チュートリアル


 光に包まれたハーライトが視界を取り戻すと、そこは巨大な格納庫のような場所であった。周囲を見回せば、同じくプレイヤーと思われる人の群れで埋まっている。この空間だけであれば、人数はおよそ2千人程度だと判断する。

 

 回りに注意しつつ指を動かして、メニューウインドウを呼び出す。当然他人には表示が見えないモードでだ。目を走らせれば、いくつかの項目が表示されている。


【name:ハーライト seed:ミネラル sex:male crass:hunter belong:- 】


 キャラクターの名前、種族、性別、クラス、所属等の項目がまず表示され、その下に詳細や所持品、その他機能のメニューがあるが、表示が灰色になっていてまだ選択出来ない。画面の下側に小さく【現在地】の欄があったが、地名は表示されていない。


「気を付けえぃ!」


 唐突に拡声器を使ったような音量で、周囲に声が響き渡る。

 ハーライトは素早く声がした方向に向き直り、姿勢を正す。いつの間にか一段高い段の様な物が設置されており、そこに軍人と思われる髭を生やした人物が立っていた。


「新人共! 一度しか言わないから良く聴くが良い! ここはイースト領域中央区第11訓練基地である。私は司令官のザウス大佐だ。」


 そこでザウス大佐は一旦言葉を切り、集まっているプレイヤー達を睥睨する。


「貴様らがこれまで何をしてきたかは一切問わない。ここに居る以上あらゆる面で平等に始めて貰う。何をするかは自由だ。我々軍に所属してもいいし、商売を始めてもいい。この地を踏査し、発展させられるのであれば何をやろうと一向に構わん。ただし法に触れる行いをした場合は、それ相応の裁きがあることは忘れるな。」


 キャラクターの背景として、故郷のコロニーから移民のため送り出されたという設定がある。本当に設定だけで、今現在は所謂流民や難民の扱いだ。


「この中央区のみは統括司令部の管轄区域であり、犯罪者を除くいかなる人物にも平等だ。しかしここを出ればそこは様々な勢力が争っている世界だ。後ろ盾を持たない者はなにをされても文句は言えん。早めにどこかの組織に所属することを勧めよう。無論、どこにも属さぬスタイルを貫くのであれば止めはしない。苦難は多いだろうが栄誉は得られるだろう。・・・・・・さて、私が教えることは以上だ。後は全て自分で決めて行動するのだな。ああ、ここには刑務所も付属しているが、そこで顔を合わせないことを祈っている。」


 そこで話が終わり、僅かに間を置いた後ザウス大佐は段を降りて奥の扉に消えていく。

 再びざわめきの戻った空間だが、直ぐに外に通じる大扉が開いたため、我先にと人の群れが這い出して行く。


「・・・・・・ふむ。」


 押されて転んだりしている人々を眺めながら、ハーライトは考える。β版と変わらなければここは中央都市の周囲にあるスタート地点の施設だ。ADAやその他装備を入手するには、中央都市にいかなければならない。各人類種のコロニーが連合して設立された組織が統括司令部であり、この中央区を統制する軍事組織でもある。

 司令部は中央区を防衛しており、後は各組織に開拓を任せているとされている。基本的に中立という設定だが、β版では他勢力は出て来ていなかったため、これ以上の詳細は不明だ。


(・・・・・・レベル制ではないし、トップ争いを考えなければスタートダッシュにそこまで焦る必要は無い。とりあえずモンスターを殴りに行けばいいゲームとは違う。まずは情報が必要だ。)


 ハーライトが周囲を見回すと、2割ほどのプレイヤーはメニューを開くなどして情報を確認している。開きっぱなしにしていた画面は表示が変化しており、現在地が【中央区第11訓練基地】と表示されている。また先程まで選択出来なかった項目が光って選択可能になっている。

 同様にメニューを操作して内容を確認していると、視界の端で数人のプレイヤーが施設内の扉に入っていくのが見えた。

 僅かに考えて、ハーライトもそちらの扉に歩いて行く。扉の両脇には兵士が立っており、持っている銃は構えないものの、近づいてくる彼に視線を注いでいる。

 5m程度まで近づき、一旦足を止めて声をかける。


「すいません。」

「新人が何の用かな。」

「いや、宜しければ教えて頂きたいのですが、この基地内に関してはどこまで立ち入りが許可されますか?」


 NPCとはいえ、最近のAIは無駄に高性能なので、ちゃんと会話をしないと友好度が下がるなどの問題があることが多い。普通に会話をするのが無難な選択だ。


「ふむ、軍に所属していない状態だと認証ゲートを通ることは出来ないが、それ以外であれば認識票を提示することで利用可能だ。」

「分かりました。では、この扉はどこに続いていますか?」

「そのまま基地の受付フロアに続いている。ミッションの受付や司令部に対する申請等も行っているため、必要なら利用すると良い。」

「ありがとう御座います。」


 兵士に一礼して、ハーライトは扉を潜って受付フロアに向かった。




 少し通路を歩くと、市役所の受付のような場所に出た。余計な物はなく、無骨な作りになっている。

 受付では笑顔を張り付かせた女性を相手に、何人かのプレイヤーがやりとりを行っている。窓口が全部埋まっていたので、ハーライトは少し考えてあたりを見回し、隅にある情報端末に移動する。接続パネルに手を置き端末と電脳と接続する。一瞬視界がぶれた後、視界にメニュー画面に似た項目が多数表示される。閲覧不可項目については黒く表示されており、とりあえず他の情報を表示させていく。


「とりあえず地図だ。」


 この端末で表示できるのは既存地域の全体図と、中央区域の詳細図の2種類だ。とりあえず電脳にダウンロードを行う。視界の端に1秒程度砂時計のマークが表示され、ダウンロードが完了する。

 その他役に立ちそうな情報を続けてダウンロードしていく。それほど詳細な情報があるわけではないが、行動の指針を決める材料にはなるからだ。他の区域の情報や、基本的な道具のデータなどは、非常に役に立つだろう。




 大体の情報を落とし終わった所で受付の方にいたプレイヤーが離れたので、受付の方に移動する。と、そこで離れたプレイヤーとハーライトの目が合った。


「・・・・・・」

「・・・・・・」


 ハーライトは開始前に目を通したメールの内容を思い出す。目の前にいるような獣性種のアバターでイースト・サーバーに行くと宣言していた知り合いがいたはずである。

 対峙するプレイヤーも、ハーライトの視線に気づき、同じような表情で足を止めた。


「DDか。」

「アモルファスさん……ですか。」


 互いに通称と、以前のネームを呼び合って笑い合う。


「毎回名前を変えられると探しづらいんですが、今回はすぐ見つかりましたね。」

「まあな・・・・・・、しかしネコ耳なのは相変わらずか・・・・・・。」


 デンプシー・ダンプティ。通称DD。やや長身で細身の体格をしているが、特徴的なのは頭部のネコ耳とちらりと揺れている尻尾だろう。以前やっていたゲームでは、同じような見た目に燕尾服を着ているのが定番であった。口さがない者からはホストだのと揶揄されていたこともある、甘いマスクの持ち主だ。アバターだが。

 やや大げさなボディランゲージの多い人物だが、ムードメーカーの一人でもあり、仲間内でも人気は高い。ちなみにリアルでは、ハーライトよりも大分年下の大学生である。背が低いコンプレックスから長身にしているとかいないとか。


「その通り・・・・・・と言いたいところです、実は違うんですよ。」


 DDは真剣な顔でハーライトに詰め寄ってくる。


「・・・・・・というと?」

「この耳はネコ耳じゃない・・・・・・トラ耳なんです・・・・・!」

「同じネコ科だろう、違いが分からない。」


 非常にどうでも良い内容に肩を落とす。確かによく見れば尻尾はトラ縞になっているが、耳は面積が小さすぎて判断出来ない。正直判る者がどれだけいるのだろうか。


「それは置いといてだ、せっかく遭遇したことだし、ちょいと相談しようじゃないか。」


 この際だから情報交換をしようと、ハーライトはフロアの端にある休憩スペースを指さす。


「ん、まあ・・・・・・焦ってもしかたないですよね。今受付で色々確認したんですが、正直情報が多すぎまして。その辺マニアックなハーライトさんにご意見を伺いたいですね。」

「マニアックとか言わないでくれ、凝り性なだけだ・・・・・・。」


 少しずつ人が増えている受付フロアを眺めながら、二人はやや固いソファーに腰を下ろす。DDは一旦腰を下ろした後、顔を顰めて尻尾が挟まれないよう浅く腰掛け直した。


「さて、どの辺から詰めますか。」

「・・・・・・そうだな、とりあえず地図を見ながらの方がいいだろう。」


 ハーライトは先程入手した中央区の地図を表示し、DDにも見えるようにする。


「おお、結構細かいですね。」

「今我々が居る場所は・・・・・・ここだ。」


 中央区の南東区域に位置する基地の一つが、現在位置として点滅している。中央区は標高が低めの山岳に囲まれた盆地であり、おおむね円状の区域となっている。中心部に中央都市があり、都市と周辺の街を守るように基地が造られている。


「都市までは地図上だと近いですが、実際は結構距離がありますね。」

「大体5kmだな。訓練基地は全部で12箇所、おおよそ一箇所当たりプレイヤーが2000人と少し配置されているんだろう。」

「各サーバーが均等な人数かというと微妙ですけどね。β版ですと親切な軍人がバスやトラックやらで都市に連れて行ってくれましたが、急ぐ人はレンタルの乗り物で向かうと思いますよ。」


 街や基地では、移動用の乗り物を一定数レンタルしている。費用は借りる対象、期間によって様々で、壊した場合は弁償だ。この基地はスタート地点であるためか数が多く、自転車、バイク、バギー、トラック等を合わせて100台程度保有している。なお。航空機の類は無い。


「この周辺は“災禍”(ディザスター)も機獣も変異体もほとんど出現しないから、徒歩で行ってもいいかもしれない。調査系の技能を持っていれば意外に発見がありそうではあるし。」

「そこなんですが、ADAとかは各自勝手に購入するじゃないですか。」

「そうだな。」

「確定情報じゃないですけど、受付で得た情報だと機種によっては数に限りがあるようです。とりわけβ版で評価の高かった、“リンクス”、“ジャガー”、“グリズリー”系は数量限定の可能性が高いと思います。」

「その根拠は?」

「曰く、『現在中央区では防衛部隊の再編成が行われており、評価試験において優秀な性能を示した機体は優先的に軍に配備されている。さらに“災禍”の活動が活発になっているため、各勢力も競って優秀な乗り手・機体の確保を進めているようだ。』だそうです。」

「・・・・・・なるほど。」


 “災禍”(ディザスター)とは、人類種と敵対している異質な敵性勢力だ。そもそも地球人類が衰退する原因となった存在であり、その後継である人類種の活動に呼応するかのように、再び姿を現した存在である。設定では、ADAとはAnti Disaster Armorの略であり、人類種は地球人類が対“災禍”用に創り出した兵器とその乗り手なのである。

 機獣とは人の手を離れた自律型機械の総称で、子犬サイズから鯨サイズまで幅広く用意されているMOBである。

 変異体とは、野生動物が様々な理由により大型化・凶暴化した生命体を指す。ADAがあれば集団でも蹴散らせるレベルのMOBだが、例外も存在する。


「じゃあ急いで中央区に行った方がいいんじゃないのか? 君はβで“ジャガー”を愛用していたと思ったが。」

「そう思わなくもないんですが・・・・・・今無理して購入しても、維持できない可能性がありますよね。ほら、例の維持コストUPの話で・・・・・・。」


 そのDDの言葉にハーライトは押し黙る。維持コストUPとは、ADAを含む持ち物の維持にかかる費用のことである。ナイフからADAまで耐久値(乗り物の場合は稼働率)という値が設定されていて、使用していく内にこの値が減少していく。値の低下に伴い、性能の低下や故障確率上昇などのデメリットが発生するため、ある程度低下したら修理等で回復させる必要がある。


「・・・・・・β版だとADAは一律の費用だったのが、機体コストに応じて比例するように調整されたんだったか。」


 つまり、ADAを購入する時の値段が高ければ高いほど、その維持管理費も高くなると言う寸法だ。しかも、この維持費とは別に、ADAを稼働させるのに燃料代、戦闘を行うのに弾薬代などが必要になる。はっきり言えば、どれだけやり込んでも金が不要になることは無い。だからこそ、ADAに乗ろうと思うなら初期所持金に余裕を持たなければやっていけないのだ。

 整備士や商人で始めると、維持費はないのでそれほどシビアではないが、こちらはまた別の面倒が多い。


「最初は扱いやすく維持しやすい量産機で、堅実に金を貯めた方が良さそうですよ。勿論、高性能機に手を出すのも嫌いじゃないですが、キャラロストは勘弁して欲しいですから。」

「非常に無難な意見をありがとう・・・・・・だがロマンが足りない。維持に喘ぎながらも己のやりたいことを貫くのが・・・・・・。」

「あなたの場合は軽くマゾが入っているだけでしょう。」


 さらにこのゲームでは、ゲーム内時間で定期的に金を司令部又は所属組織に納めなければいけない。金額はクラスによって異なっている。いかなる理由であれ、これを納めないでいるとペナルティが課されていき、最終的にはキャラクターロストとなってしまう。β版で実験した勇者の場合、5回無視した時点で憲兵に捕縛されてロストの憂目にあった。公式情報によると、ペナルティは金を積むか特殊ミッションを遂行して貢献することで解除することができる。

 金の切れ目がキャラの命の切れ目である。ちなみにこのゲームは月額課金制であり、特にアイテム課金等は行われていないため、金はゲーム内で稼ぐしかない。




 おおよそ10分程相談した後、二人は基地を出て中央都市に向かうことにした。受付の隣にあった売店で護身用の装備を多少調達し、ジープをレンタルして正門から外に出る。


「序盤こそ冒険に出るべきだろ。」

「馬鹿言っていないで運転して下さい」


 より高い操縦技能を持つハーライトが運転し、DDは助手席で警戒である。とはいえ、この辺であればまず襲って来るような生き物はいないので、準備している突撃銃をただ磨いている状態だ。

 道は舗装されている訳ではないが、ある程度平らに均されているので、揺れは少ない。大型の輸送車が余裕を持ってすれ違える程度の幅で整備されており、直進していれば到着するため気楽に話している。今は各種技能の話だ。特に今回追加された技能に関しては様々な推測が為される。


「・・・・・・<危機察知>は、どこまで危険を察知してくれるのかねえ」

「危険の知らせ方も不明ですし、実際に効果が発揮されないと分かりませんね。一応私は臆病者なので2レベル取得していますが。」

「こっちは1レベル。その分、能動的な<感知>と、対隠蔽用の<看破>スキルを取得した。」


 スキルは発動する際にエネルギーポイント(EP)を消費するが、その効果はアビリティよりも優先度が高い。常時有効なアビリティと併用することで、可能な限り危険は減らせるだろう。

 優先度とは、システム的な力関係である。比較項目によって様々であるが、一般的な優先度としては、アビリティ < スキル < 性能限界 ≪システムルールとなっている。ただルールを除けば絶対ではなく、例えばスキルで隠れている敵を見つけようとしても、アビリティとのレベル差や、装備による補正が高ければ見つけることはできない。


「どれ、<感知>でも使ってみようか。」


 ハンドルを握りながら、頭の中でスキル発動の意思を明確にする。ハーライトの主観としてパズルのピースが嵌るような感覚が走り、視界の片隅で発動成功のメッセージが点滅する。目の前の路面を眺める視界とは別に、感覚的に周囲で動く物の位置が分かるようになった。もっとも、今彼らが時速60km程度で走行しているせいか、反応があってもすぐに範囲外に出て消えてしまう。


「・・・・・・効果時間約10秒、効果範囲は発動者を中心におよそ50mの円状。」

「じゃあ特にβ版から変更はありませんね。後はADA搭乗時の効果ですか。」


 スキルの大半とアビリティの一部は、ADAなどの電脳接続型の機械を介して使用する場合、効果が変化する仕様になっている。<感知>は搭乗機体の索敵機器を介することで、飛躍的に効果範囲や精度が上昇する。


「あ、ちょっと止まって下さい。」

「分かった。」


 唐突なDDの言葉に応じ、ハーライトは速度を落とす。一応邪魔にならないよう、道の端に寄せて停車する。


「ちょっと遠いかな・・・・・・せっかくですから、<集中>も試しておこうかと思いまして。」


 そういって彼は、遠くに見えている鹿のような動物を指さした。ハートライトの記憶によれば、バイコーンという二本角を持つノンアクティブモンスターである。近づくと直ぐに逃げる性質で、倒す時は遠距離から狙撃するのが一般的であった。


「周囲の警戒をお願いしますね。」

「分かった。」


 そう言うと突撃銃を車体に置いて安定させ、スコープを除く。無言のまま唇がスキル名をなぞると、1秒後に銃声が響き、バイコーンが崩れ落ちる。


「見事だな。」


 バイコーンは対人レベルの動物MOBではあるが、それなりに強靱で普通のライフル弾1発程度では仕留められない。それを仕留めたということは、間違いなく急所である頭部に命中させたということなのだ。急所に攻撃がヒットすると、補正がかかり被ダメージが上昇する。その倍率はMOBによって異なるが、このサイズの動物MOBだと3倍前後に設定されている。

 ハーライトはジープを再び発進させ、ゆっくりと仕留めた獲物のところに移動する。車体が揺れる中、DDは思案する表情を見せている。

 すぐにバイコーンが倒れている場所に到着し、DDが車を降りて獲物に触れる。


回収サルベージ。」


 言葉と同時にバイコーンの身体が掻き消え、手に1枚のカードが握られた。これはアイテムカードという物であり、もはやこの手のゲームでは定番となったシステムである。ユーザーからはシステムのマンネリ化について色々言われているが、コンパクトでかつ管理しやすい形状というものは限られているので、開発側も悩ましい部分である。


「ドロップに何か変化は?」

「いえ、前と同じ【草食獣の双角】ですね。テキストも特に変わりません。」


 淡々と二人は確認を終え、再びジープに乗り込んで都市を目指した。


「・・・・・・<集中>についてですが。」

「ああ、さっき考え込んでいたよな。」

「あのスキルは集中時間と効果が比例していて、かつEP消費量が少ないのでスナ御用達でしたが、表示が変更されていて戸惑いまして。」

「というと?」

「以前は予測座標が的の様に表示されていたわけですが、所謂予測線に変わってました。この距離だとよく分かりませんでしたが、狙撃距離だと線が太くなるんじゃないかと。」

「どちらかといえば良い変更・・・・・・かな?」

「使用者にしか見えない以上、地味なことに変わりはないですけどね。」


 このゲームにおけるスキルとは非常に地味なものであり、基本的に行動の補助として使用される。そして原則として、一部の例外を除けば機体・装備の性能を超えることはできない。<集中>スキルは使用者の射撃行動を銃弾の予測線という形で補助するが、銃そのものの射撃精度・射程を超えることはない。

 このゲームは白兵武器で派手なエフェクトの衝撃波を生み出したり、スキルで機体の性能が劇的にUPさせたりという真似は出来ず、地味な撃ち合いと殴り合いがメインという代物だ。

 β版での評価も、「かなり泥臭い」というのがもっぱらであった。ちなみに例外はあり、<機体限界突破>等のブレイクスキルという種別の技能がある。文字通り性能の限界を一時的に超えるが、代償として使用後の性能大幅低下・耐久値大幅低下等のデメリットを抱えるスキル群である。まあ初期では覚えられないスキルなので、今の二人には関係がない。




 二人が話していると、いくらも経たないうちに中央都市が姿を現した。都市といっても、工場のような建物が多く並んでおり、工業地帯と言った方が表現として正しいかもしれない。実際ADAの大半はここで生産されているのだ。また周囲には食料生産のバイオプラント群もある。

 何事もなく検問を通り抜けた後、都市の外縁部にある駐機場に車を移動する。ここには軍のレンタル車のスペースがあり、設置されている受付にキーを返せば基地まで戻しに行く必要は無い。


 二人は駐機場を出たところで向かい合った。


「それじゃあ登録も済ませていることだし、また何かあったら連絡してくれ。私は狩人登録だけして、しばらく組織には所属しない予定だ。」

「ええ、他のメンバーについても連絡取れ次第情報交換しましょう。私も傭兵登録をして様子見の予定ですが、場合によっては軍に所属するかもしれません。」


 互いに軽く言い合って、それぞれ別方向へと歩いて行く。

 ハーライトも、DDも、たまたま出会ったためここまで一緒に来たが、本来必要が無い限り集団行動はしないスタイルである。逆に必要があれば集団行動も過不足無くこなせる協調性も持っており、メンバーというのは彼らが情報交換等の協力を行う知り合いのことだ。


 ハーライトは、先ずはADAを入手すべくひときわ広大な建物群へと向かうのだった。



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