花火
「ごめんな、チケット取れなくて」
「いいよ、花火が見えるところならどこでもいい。
でも、夏以外に花火あったんだね。」
「今年からだってさ。よかったな、引っ越す前に
見れて」
「ああ、本当によかった。知らない土地の祭りは迷子になりそうだし、ひとりで穴場に行くのも少し気が引けるからね。ああ、女性は大変だー」
「お前が男だったら行ってたか?」
「行ってない」
「なんだそりゃ」
「あ、始まった」
少し大きめの花火がなる。
次に小さな花火がなっている。沢山弾ける音がする。
毎年、彼女と花火を見てきた。
いつから俺は、花火以外を見ていたのだろう。
「ねえ、寒くない?」
珍しく、いや、初めて花火を見ている時に話しかけてきた。
小さな花火が、パラパラと音をあげている。
「そうか寒いか。じゃあ私が少し暖めてやる」
彼女は俺の腕に少し抱きついた。
大きな花火が、ふたつなった。
~彼女side~
「ごめんな、チケット取れなくて」
彼は少しだけ申し訳なさそうな顔で言った。
「いいよ、花火が見えるところならどこでもいい。
でも、夏以外に花火あったんだね。」
「今年からだってさ。よかったな、引っ越す前に
見れて」
「引っ越し」という言葉が刺さる。
自分の夢のために、ここを離れなければならない。仕方の無いことだ。
でも、本当はずっとここにいたかった。
彼さえいなければ、こんなこと思わずにすむのに。
「ああ、本当によかった。知らない土地の祭りは迷子になりそうだし、ひとりで穴場に行くのも少し気が引けるからね。ああ、女性は大変だー」
何を言っているんだ私は。こんなこと言うやつじゃないだろう私は。なんだよ女性は大変だーって。
「お前が男だったら行ってたか?」
「行ってない」
実は暗いところが苦手だ。穴場とか、彼としか行ったことがない。
「なんだそりゃ」
彼はくしゃっと笑った。
私が一番に見たい顔だ。
「あ、始まった」
花火は約30分。ここには座るような場所がない。
いや、場所はあるが汚れる。昨日は雨で、地面はまだぬかるんでいる。
少し大きめの花火が咲く。
次に小さな花火が咲く。沢山咲いて、キラキラと落ちていく。
風が吹く。3月とはいえ、まだ肌寒い。
少しだけ、甘えてもいいだろうか。
「ねえ、寒くない?」
彼はチラッと私を見た。少し驚いている?
彼の言葉を待つことを考えていなかった。
小さな花火が、パラパラと音をあげている。
「そうか寒いか。じゃあ私が少し暖めてやる」
私は彼の腕に少し抱きついた。
思いっきり抱きついたら、離したくなくなる。
こういうのはいつぶりだろう。多分小学生くらいかな。
筋肉質の腕が布越しでもわかる。
いつの間にか背も抜かれていた。
なぜだろう、少し笑った。
帰省したら、一番に彼のところに行こう。
元気が出てきた。
大きな花火が、ふたつ咲いた。




