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断罪者が刻む、完璧なスローライフ

悠斗は、目の前で光り輝く『時の聖典』を見つめていた。その光は、彼の全身に流れ込む魔力となり、彼の魂を世界の真実へと接続させていた。


「『聖典の守護者』、そして【時流の断罪者】……。ふざけた結末だ。俺が望んだのは、ただ静かな日々と、誰にも邪魔されない孤独だったというのに」


悠斗は冷笑した。彼の人生は、常に誰かの思惑の上で踊らされる**「蛇の牙」**だった。勇者パーティーの影として利用され、女神の転生計画の一部として利用され、そして今、古代の魔術書にまで利用されようとしている。


「だが、これで終わりだ。この力があれば、二度と俺を縛るものはない」


悠斗の新たなスキル【時流の断罪者ユニーク】は、かつての【神の鑑定】とは比べ物にならない。鑑定が**「今」と「過去の断片」を知る力だったのに対し、断罪者は「過去の因果」を読み解き、「未来の分岐点」を予測し、さらに「因果の軽微な修正」**すら可能にする。まさに、時間を操るチートスキルだった。


悠斗は、まずこの地下室にいる自分とリリアの安全を確保した。


「【時流の断罪者】発動。第一目的:隠れ家の完璧な防御体制の構築」


彼の周りの空間が微かに揺らめいた。鑑定で過去にこの家が鍛冶師の工房だったという情報が、断罪者によって増幅される。


因果の修正: 鍛冶師の過去の行動を修正。


修正結果: 鍛冶師は、地下室の壁に「対魔力感知結界(Sランク相当)」を設置し、さらに貯蔵庫の床下に「緊急脱出用の隠し通路」を施工する。


目に見えない魔力が壁や床に流れ込み、数年前に住んでいたはずの鍛冶師が、まるで今そこにいるかのように、完璧な防御結界と隠し通路を完成させた。古民家は、一瞬にして難攻不落の暗殺者のアジトへと変貌した。


「これで、もう安心だ。誰にも見つからない」


リリアは目の前で起きた超常現象に、ただただ立ち尽くしていた。


「ユウトさん……あなたは、一体……?」


「俺は、俺が望む平和を手に入れるための準備をしただけですよ、リリアさん」


悠斗は優しく、しかしどこか冷たい瞳でリリアを見た。そして、彼女の存在自体が最大の危険因子であることを知っていた。


「リリアさん、あなたの【秘宝の鍵】としての使命は、これで終わった。あなたは、もう誰にも狙われない。俺が保証します」


蛇の毒の清算:過去への断罪

悠斗は、リリアを連れて地下室を出た後、彼女に村で暮らすための当面の生活費と、決してこの場所を教えないという約束を交わし、別れを告げた。彼は彼女を利用したが、彼自身の「毒」から彼女を遠ざけることも、また一つの優しさだった。


(さて、残るはあの勇者パーティーと、俺を追放した王国への清算だ)


悠斗は、村の裏手にある丘の頂上へ移動し、遥か遠く、王都が位置する方角へと意識を集中させた。


「【時流の断罪者】発動。第二目的:元パーティー、および王国との因果の断絶」


悠斗は、目を閉じた。彼の視覚は王都へと飛翔し、光の粒となった因果の糸を読み解き始める。


【勇者パーティー『聖剣の盾』】の因果の分析:


勇者リオ: 鑑定の結果、【偽りの英雄】。真の力は平凡で、パーティーの力はすべて悠斗の暗殺と情報操作によるものだった。


大魔導師セラ: 鑑定の結果、【傲慢な権力欲】。勇者を操り、王国での権力掌握を狙っている。


聖女フィオナ: 鑑定の結果、【純粋な信仰心(ただし盲目的)】。悠斗を「汚れた存在」として心底忌み嫌っている。


(汚れた存在……か。俺の毒は、お前らの偽善を維持するためには必須だったんだがな)


悠斗は因果の糸を掴む。ターゲットは、彼らを直接殺すことではない。それでは血の匂いが残り、スローライフの妨げになる。暗殺者としてではなく、断罪者として、彼らの「未来の分岐点」を修正する。


因果の修正(1):勇者リオの分岐点


悠斗は、勇者リオが次に挑む予定の「伝説級のダンジョン」への因果の糸を微修正した。


修正結果: 勇者リオの「幸運」のパラメータが微細に低下。その結果、ダンジョンで通常なら避けられたはずの「罠」の因果が成立。リオは、戦闘不能となる重傷を負い、長期療養を余儀なくされる。パーティーの活動は停止。


因果の修正(2):大魔導師セラの分岐点


悠斗は、セラが王国の権力者と密会する未来の因果の糸を修正した。


修正結果: セラの「計算」のパラメータが微細に低下。その結果、密会中に「致命的な失言」をする因果が成立。セラの権力欲が公になり、王宮内での信頼を完全に失墜。王都から辺境への追放が決定する。


因果の修正(3):聖女フィオナの分岐点


悠斗は、フィオナが信仰心を回復させるための「聖地巡礼」の因果の糸を修正した。


修正結果: フィオナの「方向感覚」のパラメータが微細に低下。その結果、巡礼中に魔物の巣窟で道に迷う因果が成立。魔物と戦う力のない彼女は、絶望的な状況に陥り、信仰心ではなく現実の恐怖を知ることになる。


悠すべての修正を終えた悠斗は、深く息を吐いた。


「これで、終わりだ。誰も俺を追わない。誰も俺の平穏を脅かさない。俺は、俺自身の毒で、全ての因縁を清算した」


エピローグ:完璧な静寂の中で

数週間後。


フィリア村の隅にある古民家は、完璧なスローライフの拠点となっていた。


地下の隠し通路は、悠斗が鑑定で見つけた古代鍛冶師の残した道具で補強され、完璧な食料貯蔵庫と緊急時の避難場所になっていた。庭には、悠斗が鑑定で選別した栄養価の高い作物の種が植えられ、小さな畑ができていた。


悠斗は、窓辺で日がな一日、古い小説を読んで過ごす。時折、村で買った安物のコーヒーを淹れ、静かに味わう。


リリアは、悠斗からの支援金を使って村で小さな仕事を見つけ、今は笑顔で村の生活に馴染んでいた。彼女は時折、悠斗に差し入れを持ってくるが、悠斗は常に一定の距離を保ち続けた。


「ユウトさん、トマトが採れましたよ! 少し酸っぱいですが、よかったら」


「ありがとうございます、リリアさん。畑の成長が順調なのは、良いことだ」


悠斗はトマトを受け取るが、彼女の手には触れない。彼は知っている。自分の優しさ、自分の存在そのものが、彼女の純粋な人生に毒を撒き散らすことを。


彼は**【時の聖典の守護者】として、世界を書き換える力を持っているが、その力を使うことはなかった。なぜなら、彼が望む世界は、「ただ、誰もいない世界」**だったからだ。


(完璧なスローライフとは、誰にも利用されないこと。誰にも利用する機会を与えないことだ)


悠斗は、自分が望む静寂を完全に手に入れた。遠い王都では、勇者パーティーが崩壊し、王国は権力闘争に明け暮れているという噂が、商人の口から漏れてくるだけだった。彼らの騒乱は、もう悠斗の静かな日々には届かない。


悠斗はコーヒーを一口飲み、窓の外の青空を見上げた。


「俺の人生は、常に血と裏切りに塗れてきた。だが、これからは違う」


悠斗は立ち上がり、静かに本を閉じた。


古民家の地下。難攻不落の隠し扉の奥には、世界を揺るがす『時の聖典』が、静かに眠っている。その聖典の番人は、かつてSランク暗殺者と呼ばれた男。


彼は、もう誰の牙でもない。彼は、自分のためだけに生きる、**断罪者スローライファー**となった。


そして、その静寂な日々こそが、悠斗にとっての、最も平和で、最も冷酷な復讐でもあった。


「今日も、いい天気だ」


悠斗はそう呟き、二度と誰にも触れることのない、孤独で完璧なスローライフを続けた。


― 完 ―

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