蛇の牙を貫く、秘宝のカウンター
村長への交渉は、鑑定によって事前に「賄賂への耐性が低い」と判明していたため、滞りなく進んだ。アース・ジェムの取引で得た金貨の一部を提示し、古民家の権利は即座に悠斗のものとなった。
「ふむ、まずは上出来だ。これで監視の死角を持つ拠点と、当面の資金は確保できた」
夕暮れ時、悠斗はリリアを連れて古民家に入った。家は埃っぽいが、石造りの構造はしっかりしており、鑑定通りの頑丈さだ。
「ここなら、誰にも邪魔されない。リリアさんも、今夜はゆっくり休めますよ」
悠斗はそう言って、リリアのために簡単な食事を用意し、彼女を二階の部屋に休ませた。
(さて、残るは最大の懸念事項の解明だ)
悠斗は誰もいない一階に戻り、冷たい石の床に座り込んだ。彼の目的は、リリアの持つ称号**【隠された秘宝の鍵】**の具体的な内容を深く掘り下げることだった。
「【神の鑑定】。対象:リリア・エルム。深度、最大」
鑑定スキルが、その莫大な情報量に耐えきれず、悠斗の脳裏に軽い痛みを走らせる。しかし、彼はその痛みに耐え、情報を引き出した。
リリア・エルム
称号:【没落貴族の生き残り】、いじめられっ子、【隠された秘宝の鍵】
【隠された秘宝の鍵】の詳細:
秘宝の正体:『時の聖典』。世界を書き換える力を持つ古代魔術書。
秘宝のありか:彼女の旧領地の地下深く、古民家の地下貯蔵庫の隠し扉の**「さらに奥」**。
秘宝を起動する条件: 彼女の血統と、**『聖典の守護者』**の承認。
悠斗は息を飲んだ。彼の瞳が、鑑定の光を反射して鋭く光る。
「……まさか、ここか!?」
古民家の地下貯蔵庫の隠し扉。鑑定で把握していたこの家の最大の特徴が、リリアの秘密と完全に一致した。
(偶然ではない。彼女の家の人間が、この隠れ家に『時の聖典』を隠し、彼女を鍵として送り込んだ? いや、それとも、聖典が彼女をここに引き寄せたのか?)
悠斗は立ち上がり、鑑定で場所を突き止めていた地下室へ向かう。そこにある隠し扉を開けるには、リリアが必要だ。
悠斗はすぐに彼女を起こし、地下へ連れて行った。
「リリアさん、あなたに聞きたいことがある。あなたは、何か家に伝わる『大事なもの』について心当たりはありませんか?」
悠斗の尋問は静かだが、元暗殺者の持つ威圧感がリリアを包み込む。彼女は震えながらも、観念したように頷いた。
「昔、母が……このネックレスは決して手放すな、もし逃げるなら、『古き鍛冶師の家』を目指せ、と言っていました……」
リリアは胸元から、小さな銀色のネックレスを取り出した。悠斗は鑑定をかける。
対象:リリアのペンダント
材質:古代銀。
隠された真実:『時の聖典』を開く、最後の鍵。
悠斗は確信した。リリアは、世界をひっくり返すほどの秘宝の鍵だった。
「いいですか、リリアさん。この地下の隠し扉の奥に、あなたの一族が守ってきたものがある。それを俺に見せてほしい」
悠斗は隠し扉を開け、リリアを促してペンダントを扉の奥の石版にかざさせた。
ギギギ……という重厚な音を立てて、隠し扉のさらに奥の壁が開いた。
どんでん返し:毒の代償
開いた空間の奥には、神々しい光を放つ一冊の古びた魔術書、**『時の聖典』**が鎮座していた。
しかし、悠斗がその聖典の力に心を奪われる間もなく、周囲の空間が歪み始めた。聖典が、彼とリリアを一つの魔法陣の中央へと引き寄せたのだ。
「なんだ、これは……!?」
悠斗は全身に抗いようのない魔力の奔流を感じた。聖典が発する光の中で、悠斗は自身のステータスに恐るべき変化が起きているのを知った。
【時の聖典】が『聖典の守護者』の資格を持つ神代 悠斗を認識しました。
処理中……【蛇の牙】の継承。
新称号:【時の聖典の守護者】を獲得。
スキル【神の鑑定】が、スキル【時流の断罪者】へと進化します。
「馬鹿な……守護者だと!? 俺は、暗殺者だったんだぞ!」
驚愕する悠斗の脳裏に、女神の声が響いた。
「あなたは『平均的な日本人男性』より少し優秀な精神力をお持ちでした。その精神力の根源は、過去の生で培われた、己の命を投げ打つ覚悟でした。そして、**『聖典の守護者』**に必要なのは、世界を断罪する覚悟。あなたこそが、その資格を持つ魂だったのです」
つまり、悠斗を転生させた女神の行為、そして悠斗が手に入れた鑑定チートは、すべてこの**『時の聖典』の守護者として彼を選定するための準備だったのだ。悠斗のスローライフの計画は、彼の持つ毒**(暗殺者の覚悟)によって、世界を巻き込む大事件へと引きずり込まれた。
彼の目の前の『時の聖典』が、新たなスキルを纏った悠斗に問いかける。
「新しき守護者よ。汝は、世界の『時』を遡り、己の『過去』を断罪するのか?」
悠斗は、自分が求めたスローライフは幻であり、自身に内在する「毒(覚悟)」こそが、この世界の真の力を引き出してしまったことを悟る。
「……ふざけるな」
悠斗は冷たい笑みを浮かべた。
「俺の過去を断罪する? 結構。だが、この力を得たなら、俺は俺のやり方でスローライフを実現する。二度と邪魔されない、完璧な世界をな」
彼の瞳の奥で、**【時流の断罪者】**の力が覚醒し始めた。




