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第4話:鑑定で選ぶ信頼と、スローライフの礎

刺客を無力化し、悠斗とリリアはついに小さな村の入り口へと辿り着いた。村の名は「フィリア」。外壁もなく、素朴な家々が並ぶ、静かで穏やかな場所だ。


「ここが、フィリア村……」


リリアはほっと安堵の息を漏らした。だが、悠斗の警戒心は最高潮に達していた。


(ここからが本番だ。村は人の集まりであり、裏切り、欺瞞、悪意が渦巻く場所でもある。暗殺者の俺にとって、最も警戒すべき環境だ)


悠斗は、村の門番を務める老人二人組のステータスを、一瞥で鑑定する。


対象:村の門番(男性・老齢)


レベル:3


スキル:野菜作り(D)、昼寝(B)


隠された真実:【人の善意を信じている】


「ふむ……平和そのものか」


悠斗は、自分の抱える毒と、この村の無垢さが、あまりにも対照的であることに、僅かな吐き気を覚えた。


「こんにちは、旅の方。ここは静かな村ですが、ようこそ」


門番の老人が、屈託のない笑みを向けてきた。悠斗はその笑顔に、警戒しつつも、かつての人生で失った「普通の温かさ」を感じた。


「ユウトさん、この村は安全ですよ。変な人はいないはずです」リリアが不安そうに言う。


「そうですね。ですが、油断は禁物です。さあ、まずは換金と、住む場所を探しましょう」


鑑定で選ぶ、最も安全な交換相手

村に入った悠斗がまず向かったのは、唯一活気がある場所、村の小さな市場だった。彼は、人混みの中で、物色するような視線を向けずに、静かに周囲の人間を鑑定し始めた。


(【裏切り者】、【盗賊の手下】、【詐欺師の弟子】……たったこれだけの村に、これほど多くの「毒」が蔓延しているのか)


鑑定スキルが示す称号のリストに、悠斗は眉をひそめた。Sランク冒険者時代、多くの血を見てきたが、日常の中に隠された悪意ほど、質が悪いものはない。


悠斗は、アース・ジェムを換金する、最も安全な人物を探す。彼は目立たない露店の、やや小太りで、常に目を細めている中年男性に焦点を合わせた。


対象:マーセル(雑貨商)


レベル:12


スキル:交渉術(B)、品質鑑定(C)


隠された真実:【妻に頭が上がらない愛妻家】、【小さな不正はするが、大金の前では臆病】


(愛妻家で臆病……なるほど。大きな欲を持たず、リスクを嫌う。大金を見せれば、すぐに手を引くタイプ。この男なら、取引後の口封じもしやすい)


「リリアさん、少しここで待っていてください。すぐに用事を済ませます」


悠斗はマーセルの露店へ近づき、人目を避けるように低い声で話しかけた。


「少し、良いものを扱っているそうですが」


「へへ、どうですかな。旅人さん、ご希望は?」


マーセルは鼻の下を伸ばして答える。悠斗は、そっと懐からアース・ジェムを取り出し、テーブルの下でその結晶を見せた。


「これを、金に換えたい。質の高いものだ。村の相場ではなく、都市の相場で買い取る、信頼できるルートを探している」


マーセルの目が、ジェムの深い緑色の光を見て、大きく見開かれた。


「こ、これは……! アース・ジェムの特級品じゃありませんか!?」


マーセルは慌てて鑑定スキルを使う暇もなく、悠斗は結論を突きつける。


「金貨三枚で、買い取ってくれる仲介人を紹介しろ。もちろん、俺の素性は一切漏らさないこと。もし漏らせば、お前と、その愛する家族がどうなるか……想像できますね?」


悠斗の目つきが、一瞬で暗殺者のそれに戻った。その冷たい、毒を持った視線に、マーセルは全身の血液が凍り付くような恐怖を感じた。


「わ、わかりました! お任せください! 私の持つ最も信頼できる商会をご紹介します! 必ず、相場通りの取引を保証します!」


臆病な愛妻家は、大きなリスクを恐れ、すぐに悠斗の条件を呑んだ。


鑑定で見つけた、最も安全な隠れ家

金貨三枚という大金を手配する目途がついた悠斗は、次に住居探しに移った。彼のスローライフには、何よりも安全で、外界から隔絶された拠点が必要だ。


悠斗は村の不動産を扱うであろう建物を探すのではなく、村の地図を頭に描き、端から端まで歩き回り、徹底的に鑑定していく。


「ユウトさん、何を探しているんですか?」


「安全な場所ですよ。リリアさんは、ここで誰にも見つからずに、安心して暮らしたいのでしょう?」


悠斗は、村の隅、他の家から少し離れた場所に建つ、古びた一軒家に目を留めた。屋根は少し崩れかけ、庭には雑草が生い茂っている。明らかに放置物件だ。


悠斗は、躊躇なくその家を鑑定した。


対象:古民家(所有者不明)


構造:頑丈な石造り。地下に貯蔵庫あり。


歴史:かつて、腕の良い鍛冶師が住んでいた。


隠された真実:【地下貯蔵庫の隠し扉】、【魔力結界の残滓】、【村の監視網の死角】


(これだ!)


悠斗の瞳が輝いた。特に、**【地下貯蔵庫の隠し扉】と【村の監視網の死角】**という情報は、元暗殺者である彼にとって、何物にも代えがたい価値がある。


「リリアさん、この家がいい。少しボロボロですが、住めば都ですよ」


「え?でも、これ、誰か住んでいるんじゃ……」


「大丈夫。鑑定したところ、所有者不明の物件で、数年間放置されているそうです。村長に交渉すれば、このアース・ジェムの金で、すぐに買い取れるでしょう」


金銭の目途、安全な隠れ家、そしてリリアという利用価値のある情報源。すべてが計画通りに進んでいる。


悠斗は、この家を拠点に、二度と誰にも利用されず、誰にも毒牙を向けられない、真のスローライフを実現すると、静かに決意した。

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