第2話:触れれば毒、鑑定は牙
悠斗はリリアと共に、東へと続く、獣道に近い小道を歩き始めた。
(チッ。いきなり荷物を背負い込んでしまった)
悠斗は内心で舌打ちする。孤独と平穏を望んでいるのに、初手で保護対象の少女を連れてしまうとは。これもまた、かつて「影」として生きていた俺の**習性**なのだろう。弱き者を見捨てられない、あるいは、利用可能な情報を手放せない。
悠斗は一歩離れてリリアの横を歩く。彼にとって、**「距離」**は生命線だった。
「リリアさん、村に着いたら、まずは食料を探しましょう」
「は、はい……あの、旅人さん。どうして私なんかに優しくしてくれるんですか?」
リリアが警戒心を滲ませて問いかけた。その瞳には、今まで他人から受けた仕打ちへの恐怖が色濃く残っている。
(どうして、か。俺は、お前という『鍵』と『情報』を利用したいからだ。それが俺の本質。暗殺者として、誰かの裏に潜む蛇として生きてきた俺の毒だ)
悠斗は、その毒を隠すように、穏やかな笑顔を作る。
「道に倒れている人を見たら助けるのは当然でしょう。それと、俺の名前はユウトです。旅人さんじゃ、寂しい」
「ユウトさん……」
リリアは頬を少し赤らめ、視線を逸らした。この純粋な反応が、悠斗の心にチクリとした痛みを走らせる。
(俺の優しさは、いつだって裏に意図がある。甘い言葉で近づき、毒牙を突き立てる。それが俺の生き方。この子に触れ続ければ、きっと俺の毒が彼女の人生を狂わせるだろう。……だが、今は利用させてもらう)
鑑定チートと金策の牙
村まではまだ距離がある。悠斗は立ち止まり、周囲の森を見渡した。
「ユウトさん、どうしました?」
「少し、道草を食いましょう。リリアさんは薬草採りなんですよね? 俺、薬草に詳しくないんですが、何か高価なものを見つけられませんか?」
「え? こんな道端に珍しいものは……」
リリアが戸惑う横で、悠斗は【神の鑑定】を、足元の苔生した石ころに発動した。
対象:変成岩の欠片
材質:石英、長石
歴史:数千年前に流れた溶岩の一部
隠された真実:**【希少鉱石アース・ジェム(未発見)】**から100メートル圏内。
(チートだ。間違いなくチートだ。ただの石ころから、地中の情報を抜き取るか!)
悠斗は背筋に冷たい興奮を感じた。これこそ、肉体の強さを失った俺が振るうべき、情報の牙だ。
「リリアさん、あの方向へ少し入ってみましょう。なんだか、空気が澄んでいる気がする」
「えっ、でも、あそこは道がないですよ?」
「大丈夫。俺は勘だけは良いんです」
悠斗が示す方向は、リリアにとって全く薬草採りのルートではない、ただの茂みだった。しかし、悠斗の瞳には既に100メートル先の地中に眠る、光り輝く鉱石の像が見えている。
茂みを掻き分け、指定された地点に到着した悠斗は、何気ない小石を手に取った。そして、元Sランク暗殺者としての身体操作術と【神の鑑定】を組み合わせる。
鑑定で判明した鉱石の組成、硬度、埋蔵深度。その情報を元に、周囲の土壌の緩い場所、掘りやすい岩盤の割れ目を瞬時に判断する。
「ここだ」
悠斗は、そこにあった折れた木の枝を拾い、その枝に【神の鑑定】を使い、強度を確かめた。
(硬度D、破断強度は並。だが、先端を尖らせれば使える)
木の枝で地面を掘ること数分。リリアが呆然と見守る中、悠斗は土の中から、手のひらサイズの、深い緑色に輝く結晶を取り出した。
「こ、これは……! アース・ジェム!? まさか、この辺境で!?」
リリアは驚きのあまり、腰を抜かした。
対象:アース・ジェム(高品質)
価値:金貨3枚相当(都市での取引価格)
特徴:土属性魔法の増幅、魔道具の材料に最適
「金貨3枚……。辺境の村で、これはとんでもない大金だ」
悠斗は、掘り出したジェムを懐に仕舞いながら、暗殺者の冷たい笑みをわずかに浮かべた。
「さあ、これで村での当面の生活は安泰だ。さっさと行きましょう、リリアさん。俺のスローライフは、まずは金からだ」
彼の言葉には、人を利用し、情報を武器に変える、蛇の毒が確実に滲み出ていた。この鑑定チートは、彼の過去の毒性を増幅させる、新たな牙となったのだ。




