蛇の牙には毒がある
俺の名前は神代 悠斗。かつてこの世界で最も輝かしいとされるSランクパーティー【聖剣の盾】の"影"だった。
パーティーリーダーの勇者、大魔導師、聖女。彼らが聖なる光を振りかざし、民衆の歓声を受ける裏で、俺は敵の首を刎ね、要人を暗殺し、あらゆる「汚い仕事」を片付けてきた。俺こそが、パーティーを真のSランクに押し上げた「蛇の牙」だった。
しかし、その日。魔王軍の幹部を討ち取った帰路、俺はリーダーである勇者から冷酷に告げられた。
「ユウト。お前の存在は、我々の『聖なる物語』に相応しくない。汚れたお前は、もはや必要ない」
裏切り。それも、最も信頼し、最も血を流してきた仲間たちからの。
俺は無実の罪――「勇者への謀反」をでっち上げられ、聖なる光の魔法で串刺しにされた。最後の瞬間、俺の脳裏をよぎったのは、怒りや憎しみではなく、ただただ**「もう、疲れた」**という諦観だけだった。
肉体が滅び、魂が虚空を彷徨う中、純白の空間で再びあの美しい女神に出会った。
「お気の毒に、ユウト。あなたに与えられた運命はあまりに苛酷でした。次の生は、あなたの望むままに、静かな場所で送るべきです」
「……スローライフ、ですかね」
疲弊しきった俺のつぶやきに、女神は微笑んだ。
「そのために、この世界では存在しなかったはずの、特別な力を授けましょう。あなたは情報に飢え、情報を操って生きてきた。その経験に、最適の能力です」
光が全身を包み込む。視界に現れたのは、あの時と同じウィンドウ。
スキル:【神の鑑定】
「これは、俺がこの人生で掴み損ねた、安全と平穏を手に入れるための最高の武器だ」
俺はそう決意し、新たな肉体と共に、この世界の辺境の森へと送り出された。
第1話:暗殺者の視点と少女の真実
次に目覚めた時、俺の体はしなやかな十代後半の若者になっていた。だが、精神はSランク暗殺者(29歳)のままだ。
まずは自分のステータスを確認。
神代 悠斗
職種:旅人(元暗殺者)
レベル:1
HP:100/100
MP:50/50
力:E
耐久:E
魔力:D
素早さ:E
スキル:【神の鑑定、言語理解(自動発動)
称号:異世界からの転生者、元Sランクパーティーの影
能力値は平凡だが、「元Sランクパーティーの影」という称号には、過去の経験値が隠されているのだろう。肉体は弱い。だからこそ、頭を使わなければならない。
俺の目標はただ一つ――二度と裏切られない、静かで快適なスローライフだ。そのためには、まず信頼できる情報と、安全な拠点が必要だ。
森の入り口で、かすかな物音を聞きつける。
「きゃっ!」
小さな悲鳴と共に、金色の髪の少女が飛び出してきた。ボロボロの服、転がり落ちた籠。
(……この世界の住人。だが、警戒心は薄い。獲物ではない)
暗殺者時代の癖で、瞬時に彼女の「脅威度」と「利用価値」を分析してしまう。
「大丈夫ですか?」
声をかけ、彼女が拾い集めていた薬草をそっと手伝う。彼女は怯えている。
迷わず【神の鑑定】を発動。魔力をわずかに消費し、情報を引き出す。
リリア・エルム
職種:薬草採り
レベル:8
HP:62/85(重度の栄養失調)
MP:40/40
スキル:薬草知識(D)、短剣術(F)
称号:【没落貴族の生き残り】、いじめられっ子、【隠された秘宝の鍵】
【没落貴族の生き残り】。予想通り、裏設定がある。そして、最後の称号――【隠された秘宝の鍵】。
(秘宝……。興味はないが、それを狙う人間が必ずいる。情報と権力。彼女は、スローライフの足がかりとして、あるいは、厄介事として、利用できる)
過去の俺なら、彼女を利用するために利用し尽くしていただろう。だが、今の俺は、もう二度と「誰かの道具」にはなりたくない。
「怪我はないようですね。街はどちらですか? 一緒に行きましょう」
俺が優しく言うと、リリアは涙ぐみ、警戒心をわずかに緩めた。
「……あ、ありがとう……ございます。東に、一番近い村が……」
悠斗は立ち上がる。暗殺者の鋭い眼光は消え、ただの優しい旅人の顔を装っている。
(まずは村へ。そして、【神の鑑定】で彼女の持つ「秘宝」の情報を抜き取り、安全な隠れ家を手に入れる。二度と、あの時のように利用されるものか。今度は俺が、この鑑定チートを牙として、静かな生活を噛み砕き取る番だ)




