表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 水無適
1
7/35

エピソード7

「う〜ん!これ、ほんっとうに美味しい!! 澪のはどう?」


「うん。美味しい。苺が、甘い。」


澪と朱莉は放課後、街のクレープ屋で並んでいた。澪の口元にはうっすらとクリームがついている。


「澪、頬にクリームついてるよ」


朱莉はティッシュで澪の頬を優しく拭う。


「……朱莉のほうも、ついてる」


澪は鞄をごそごそ探したが、ティッシュが見つからなかった。


「ふふ、私は自分で拭けるから平気」


「……なんか、ごめん」


「謝るとこじゃないってば」


街路樹の影にあるベンチで、二人は並んでクレープを食べている。朱莉の胸元でペンダントが光を弾き、それを見た澪はふと目を逸らし、残りのクレープをかじった。


通りを歩いていると、ショーウィンドウに大きな熊のぬいぐるみが並んでいるのが見えた。もふもふの毛並みに思わず足が止まる。


「わっ、見て澪!この子すっごく可愛い〜! お揃いにしない?」


澪の視線は、すでにぬいぐるみに釘付けだった。


「……買う」


二人は店に入り、それぞれ一体ずつ選んだ。朱莉は澪の瞳と同じ澄んだ青のリボンがついたものを、澪は朱莉の髪と同じ夕焼け色のリボンのものを手に取った。


サイズはかなり大きかったため、店から自宅への配送を頼んだ。澪が「持ち歩けない」とぽつりと言い、朱莉が笑って頷いたからだ。


「日も暮れてきたし、そろそろ帰ろっか」


「うん……なんか、頭の中がすっきりした感じ」


「気持ちの整理って、ちょっとは分かった?」


「……そういう意味だったの?」


「ううん、ただクレープ食べたかっただけ」


「……ふふっ」


澪がほんの少し微笑んだ。朱莉はその表情を見て、にこっと笑い返す。


その夜、澪は朱莉そっくりの熊のぬいぐるみをぎゅっと抱いて眠った。朱莉は自分のぬいぐるみを枕元にちょこんと置いて、同じように眠りについた。


──


澪は夢を見ていた。暗くて、でも妙に安心できる夢。何かに包まれているような、温かい感覚。


「ずっとこのままでいたい」


そんな思いが胸に浮かんだあと、急に大きく揺れて、冷たく眩しい世界に放り出された。意識がはっきりしてくる。


──白。天井。光る機械の音。白衣の人々。


そこで夢は終わった。


「あ、澪起きたんだ。今日は早いね!」


「んう……おやすみ」


「こらっ、寝たらだめでしょ!」


翌朝、澪は数学の授業中もどこかぼんやりしていた。窓の外の景色を眺めていた。


(あの木の下、あったかそう……お昼、あそこでお昼寝しよう)


「澪さん! この問題、解いて」


「……解きました」


「正解。だが、授業はちゃんと聞くこと!」


澪は静かに席に戻り、また窓の外へと視線を移した。


──


チャイムが鳴ると、澪は迷わずその木の下に向かった。


「すぅ……すぅ……」


微かな寝息が聞こえてくる。


そして、夢は再び始まった。今度は昨日よりも長く、鮮明だった。


青い光、身体にのしかかる倦怠感。倒れ込む感覚。目を覚ますと、白い天井とたくさんの医療機器に囲まれていた。


──目を開けると、澪は保健室のベッドにいた。窓の外はすっかり夜。


「あら? 起きた? 澪さん、すっかりお寝坊さんね」


保健室の先生が優しく笑う。


「……ごめんなさい。帰ります」


「もうこんな時間よ? 今夜はここで寝ていったほうがいいわ」


「……分かりました」


布団を引き寄せながら、澪はふと思う。


(……朱莉、心配してないかな)


小さな疑問が胸に浮かんだが、それ以上は考えずに目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ