エピソード38
20☓☓年9月9日
澪、君が還ってから、地球にはたくさんのことがあった。
荒れ果てていた大地は再び息を吹き返し、森や海が生き返っている。
コロニーは10年で、生命を維持できるほどのエネルギーを保てず、今は宇宙の中でガラクタとして漂っているだろう。
人々の暮らしはもう昔の姿を取り戻した。
天使の姿は今のところ現れていない。
大災害の影響だったのか、コロニーの環境が原因だったのか、研究は今も続いている。
俺たちはまだ生きている。
いつ死ぬかわからない。
最新の研究では、天使となった俺たちの寿命は予想以上に長いらしい。
追伸:最近、黒の様子が優れない。心配だ。
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21☓☓年8月31日
黒が、死んだ。
君が還ってから少しずつ弱っていたが、ついに限界を迎えたらしい。
死は、いつまで経っても慣れない。
颯も、ずっと泣いていた。
1日中降り続いた雨は、君の涙だったのかもしれない。
弟のような存在だった黒の喪失は、胸を締めつける。
これからも仲間が死んでいくのに、俺は耐えられるのだろうか。
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25☓☓年3月7日
颯が息を引き取った。
独りにしてしまったことを何度も謝っていた。
本当に、人の心の微細な動きに敏感なやつだった。
もう、これ以上何も感じたくない。
俺は最後の天使になった。
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30☓☓年4月1日
こんなにも長く生きているのは、力のせいだろうか。
天使の存在も、今ではお伽噺のようにしか語られない。
何度自ら命を絶とうとしたことか。
それでも、何度も目を覚まし、今日まで生き続けている。
独りは寂しい。
深く静かな世界の中で、ただひとり。
一体、いつになったら終われるのだろう。
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30☓☓年10月28日
澪、会いに行くよ。
明日、地球の中心へ向かう。
無効化の力を持つ君なら、俺を止められるだろう。
この日記は燃えないように細工しておかないと。
伝えたいことがあるんだ。
言葉では届かないかもしれないけれど、君に伝えたい。
ここで日記は終わっていた。
青いこの惑星でバタンと本を閉じた音が響いた。




