エピソード33
——深く、さらに深く。
澪は意識と肉体の限界を超え、コロニーの核——すべての源へとたどり着いた。
「……見つけた」
首輪を、足枷を、その細い腕で引きちぎる。
ゆっくりと瞼を閉じ、声を低く響かせる。
「我の欠片よ。今、我が元へ戻れ」
次の瞬間——
コロニー全体の電力が一斉に途絶え、蒼い光が澪の元へと集まり始めた。
「やっと……これで、始まる」
*
「なんだ!?」
「停電……いや、違う!」
研究所へ急ぐ颯と彼方。その頭上に、蒼く脈打つ光が渦を巻く。
「……あの方向、研究所だ!」
「転移スクロールを使う!」
「マジか!?死ぬ可能性あるぞ!?」
だが、逡巡している時間はなかった。
「行くぞ!」
「神様、どうか……殺さないで!」
*
「……あれ?無事?」
「うん、2人とも無事だ」
崩壊しかけた研究所跡。瓦礫の影に身を潜め、颯と彼方は気配を探る。
「誰だ、あれ?」
「颯、静かに」
「0番……こうなったら、土地ごといっちゃおうか」
博士は狂ったように笑いながら、巨大な爆弾を起動させた。
ーー10分後。
凄まじい爆音と共に爆発が起き、大地は灼熱の炎に包まれる。
「…まじかよ」
2人はその威力の高さに狼狽える。
溶け落ちた地表の、その奥底——
そこに立っていたのは、澪だった。
「見つけた……0番。迎えに行くからねぇ〜」
博士の目には、理性すら焼き切れたような狂気が宿っていた。
「…あ、追わなきゃ!」
「ああ」
颯と彼方はその背を追う。
*
上空に空いた巨大な穴。赤く溶けた地表から、冷気とともに吹き出す風。
「急がなきゃ……」
澪は周囲の結晶を見つめながら、脳をフル回転させる。
「この結晶……厄介すぎる……!」
蒼白く光る結晶へと指を触れ、解析を進めていく。
「……間に合って……もう少し……!」
その時。
「0番、みぃつけたぁ!」
博士の声とともに、溶けた地表を下りながら彼が迫ってくる。
「しまっ——」
逃げる間もなく、澪は追い詰められる。
しかし。
「どけよ、ジジイ」
博士の体が吹き飛ばされ、岩壁に叩きつけられた。
「颯……!それに、彼方も……!」
「それで?澪、僕たちは何をすればいい?」
「……耐えて。殺しても構わないよ」
その言葉に、2人は笑みを浮かべ、頷いた。
「了解!」
*
「できたっ!」
解析を終えた澪の前で、結晶が脈打つ。
それを見た颯は深刻な顔をする。
「澪、どうする気!?」
澪は微笑む。
「2人は人々を連れて、ここから離れて」
「…澪!」
「颯。気づいてるでしょ?でも……止めないで」
「でもっ!」
「彼方、お願い」
彼方は黙って頷き、泣きそうな颯の肩を抱いた。
「……行こう」
博士を無理やり引きずりながら、2人は地上へ向かっていった。
ーー
「ようやく……これで、始められる」
澪は青い結晶の中心に立ち、目を閉じる。
「我は芽吹かせるもの。我が身を、世界に捧ぐ——」
ゆっくりと、澪の身体が蒼色の結晶に包まれていく。
(痛い……痛い。でも……私の命で、みんなが生きられるなら……)
感情を得た“お人形”は、やがて青に染まった結晶に覆い尽くされていった。
そして——
世界は、輝き出す。
腐りかけていた大地に、緑が芽吹く。
濁っていた空気が、澄んだ風に変わる。
汚されたこのコロニーが、静かに生まれ変わろうとしていた。
ただ、一人の少女を——澪を、犠牲にして。
「あぁ……あああああぁぁぁぁっっ!!」
颯はその場に崩れ落ち、叫び続けた。
自分の足元に広がる草花さえも、澪の気配を纏っている。
「……」
彼方は何も言わず、ただ静かに涙を流した。
その友を想いながら。
*
「……あ、戻った」
電気が復旧した学園にも、新しい風が吹いていた。
「……澪?」
頬を撫でる風に、碧は一瞬だけ声を漏らす。
だが、
「……まさかね」
碧は自分を笑うように首を振った。
*
「あぁ……ああぁっ!いやだぁぁぁぁぁっ!!!」
宿では黒が発狂していた。
澪と強くリンクしていた彼の中に、澪の記憶と感情が流れ込んできたのだ。
涙を流し、声が枯れるほど叫び、物を投げ、床を叩いた。
女将はただ、彼を抱きしめ、宥め続けた。
すると——
青く透き通った風が、部屋の中に吹き込む。
まるで優しく抱きしめるように、黒を包み込んだ。
「……お姉ちゃん……なんでだよ……置いてかないでよ……っ!!」
黒は泣き叫びながら、女将の胸で力尽きるように眠った。
女将は毛布をかけ、そっと彼の髪を撫でた。
そして、誰もいない空間に向かって——
「うん。伝わったよ。あんたの言葉」
そう、静かに呟いた。




