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  作者: 水無適
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エピソード28

澪は透明化の能力を使い、学園に忍び込んでいた。

かつての自分の部屋へ入り、ベッドの脇から2匹のクマのぬいぐるみをそっと取り出す。

碧はちゃんと手紙を見ていてくれたらしい。


「お姉ちゃん、これは?」

「これはね、大切な人との思い出。……さ、急ごう」

「うん!」



「澪は無事かな……」

颯がひとり、渡り廊下で空を見上げていた。


「……いつの間に、“ちゃん”付けやめたの?」


その声に振り返ると、そこには見慣れぬ髪色と短く切られた髪、そしてどこか大人びた瞳をした澪が立っていた。


「澪……!?」

「シーッ。私は“いない”ってことで、ね?」

「……ああ。無事で、本当に良かった……」

颯は堪えていた涙を拭った。


「え、その髪、目の色……どうしたんだよ?」

「まあ、いろいろあってね」


そのとき、澪の背後から黒がぴょこっと顔を出す。


「……隠し子か何かか?」

「違う。この子も被験体。私が連れ出してきたの」

「それって……やばくない?」

「うん、今まさに逃走中」


そう言って、どこか吹っ切れたような笑みを浮かべる澪。


「この国の外に行くの。……だから、最後の挨拶に来たの」

「この国の外って……そんなとこないだろう?」

「ううん。実はね、このコロニーにはもうひとつ“国”があるの。だから……会おうと思えば、また会えるよ? それに、まだ私はこの場所が滅ぶのを見たくない」


「は……? 何の話だよそれ……!」


「じゃあね、颯。元気でね」


「おいっ、待っ──」


颯が手を伸ばしたときには、澪の姿はもうなかった。


「……くそっ。逃げ足だけは相変わらずかよ」


気づけば机の上には、2通の手紙が置かれていた。

そのうちの一通を開いて読むと、彼は苦笑しながら空を見上げた。


「……やっと、自由になれたんだな」



それから間もなく、彼方が部屋に戻ってきて事情を聞かされる。

彼も澪の手紙を読み、目に涙を浮かべながら言った。


「碧には、伝えるのか?」

「いや……やめとこう。あいつは、まだそこまで大人じゃない。自分の父親がしてることに……耐えられるほど」


颯の言葉には、珍しく冷静な観察眼が宿っていた。



「……ん? 机に手紙?」


碧が学園の自室に戻ると、机の上に置かれた一枚の紙に気づく。

澪からの手紙。

それを読んだ彼女は、しばらく黙ったまま紙を握りしめ、ついにはぽろぽろと涙をこぼした。


「よかったぁ……」


嗚咽まじりの声が、静かな部屋に響いた。



まだ肌寒く、朝焼けが空を染める頃。

山の斜面を、二つの小さな影が歩いていた。


「やっと、頂上だね……。日が昇っちゃった」


「うん! お姉ちゃん、外って……自由って、本当に楽しいんだね!」


「うん。これからもっと、いろんなことが待ってるよ。怖いこともあるけど……楽しんでいこう」


「うんっ!」


黒の無邪気な声が、朝の空に溶けていった。

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