エピソード23
手術台に横たわる澪に、静かに麻酔が注射された。
淡々とした手順で準備が進められ、麻酔の効果を確認した研究員たちは、すぐさま作業に取りかかった。
鋭いメスが皮膚を裂くと、青く透き通るような血液が静かに流れ出す。
そのまま臓器にメスが届くと、慎重に、しかし躊躇なく内部を破壊し始めた。
「......うっ」
突然、澪のまぶたが震え、意識が戻る。
激しい痛みが麻酔を突き破り、彼女を現実に引き戻してしまったのだ。
研究員のひとりが無言で猿轡を口にねじ込み、動揺もなく手術を続行する。
「ーーーーーー!」
声にならない悲鳴が、喉の奥でかすかに震える。
しかし、作業の手は止まらない。冷静かつ手際よく、澪の体の奥へと刃が進んでいく。
「記録は?」
「0.7秒です」
「……随分と早くなったな」
「はい、以前の倍以上の速度です」
「このへんで終わりにしよう。このまま放っておけ」
澪の体は、拘束具に繋がれたまま、力を失って沈黙した。
*
「内臓の治癒速度、0.7秒まで上がってます。しかも、塗布した治癒抑制剤の効果が弱まってきてますね。明らかに再生力が上昇しています」
「心臓や首を試してないよね? いっそやってみる?」
「さすがにそれは……死んだ場合のリスクが高すぎます」
「ふふ、まあそうだよね」
「このまま、細胞単位での解析を続けます」
「うんうん、澪を知るってことは、地球を取り戻すヒントにもなるからね」
「そうですよね!」
「でも、最近気づいたんだ」
「何をですか?」
「地球、まだエネルギー残ってるよ」
「……どういう意味ですか?」
「澪ってさ、地球の全エネルギーじゃなくて、ほんの一部と記憶の結晶だったんだよね〜」
「……! じゃあ、地球は――」
「うん。戻せる可能性も、ゼロじゃないってこと」
「それなら! 再生プロジェクトは――」
「……でも、まあ、もういいかなって上の人たちが判断したんだよね」
「え? どうしてですか?!」
「だってさ。枯れかけた地球の力が、形を得ただけで、今や無限のエネルギーを生んでる。澪がいれば、わざわざ元に戻す必要なんてないじゃん?って話だってさ!まあ僕もそっちの方が助かるけどっ!」
「……でも僕たちは、“地球を取り戻す”って信じて、ここまで――」
「うるさいなあ」
博士は静かに手を上げる。
その瞬間、周囲にいた研究員たちの体が跳ね、音もなく床に崩れ落ちた。次に彼らが目を開いたとき――その瞳には、歪に歪んだ過去と使命が映っていた。
「博士、次はどうすればいいですか?」
「とりあえず僕の言うことだけ聞いてればいいよ。部屋に戻って休んでてて」
「わかりました」
研究員たちは機械的に部屋を出ていった。
ーー
博士は澪のいる手術台が見えるガラスに近づく。
博士はガラス越しに横たわる澪の身体を見下ろし、口元を歪めた博士はガラスに指を這わせながら、まるで子どものように嬉しそうに笑った。
「0番、早く目が覚めないかな〜!君の中に隠された秘密、全部知りたいんだ!ゾクゾクするよ!」
声は弾んでいて、どこか楽しげ。狂気の中に無邪気さが混ざっている。
「キミの中にはいくつもの謎が詰まってる、全部暴いてみせるよ!待っててね!」
頬を赤らめ、くるくる体を揺らしながら言う。
「君を見てるだけで、心臓がドキドキするんだ!こんな感覚、初めてだよ!」
だが、壁の向こうには冷たい視線があった。
「上のやつらは単純で良かったなあ〜、おかけで僕はまた知識と解明を行える!」
闇の中で、博士はその好奇心に夢中だった。
「澪、すぐに君の全てを明らかにするから!」
そう囁きながら、彼は明るい笑みを浮かべて部屋を去った。




