表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 水無適
2
19/38

エピソード19

薄暗い談話室、窓の外では夜が凍えるように沈黙していた。


「彼方、もしあの仮説が本当なら……澪はただの“天使”じゃない。それどころか天使と言っていいのかも怪しい」


颯の声が、空気の重さを破るように落ちる。彼方は手元の端末を閉じ、彼を見た。


「それ、本気で言ってる?」


「冷静に見てくれ。過去の記録に彼女の前例は存在しない。力を扱えた者など、あの“大災害”以前には存在していなかったはずだ。そもそも、変異が起き始めたのはあの災厄以降だ」


「澪は“気づいたら使えていた”と言っていた?」


「うん。訓練もなしに」


「……普通なら身体が壊れる。力の発現は、言ってしまえば生物としての構造の再編成だ。適応が間に合わなければ、死に至る」


「でも澪は生きてる。それも、あれほど自然に」


「明日、確かめよう」


彼方の瞳に、確信がにじむ。



(予想はしていた。だけど、これほどとは。)

「2時間経過……まだ半分も進んでない」


澪と碧は新年の参拝に訪れた神社の列にいた。寒風が吹き抜ける中、碧は寒さも疲労もものともせず話し続ける。


「しょうがないよ。神社なんてこの地区にはここ一つしかないし」


「……碧」


「なに?」


「力のことだけど――使いすぎると、死ぬ」


碧は一瞬、言葉を飲んだ。


「……どういうこと?」


「力は進化の一種。発現も、拡張もそう。だけど急激に使いすぎると、身体がその進化に適応できなくなる。壊れる。死ぬ」


「学校でそんな話、聞いてない」


「碧が来る前に話されたんだと思う。とにかく、覚えておいて。これは、命に関わること」


「……わかった。気をつける」



昼過ぎ、ようやく参拝を終えたふたりは、日差しに背を向けて帰路に着いた。


「ふぅ~!終わった! もうしばらく人混みはいいかな!」


碧はわざとらしく明るい声を上げた。澪は眉をひそめた。


「またその顔」


「だって誰かに見られてるかもしれないし~。癖なんだもの」


「……無理してるだけに見えるけど」


「平気。私は私なりに、やるから」


その声はどこか張りつめていたが、もう作り物ではなかった。



寮に戻ると、碧は倒れ込むように布団に沈んだ。


「やばい……眠れそう」


すぐに寝息が聞こえた。澪は静かに毛布をかけた。そのとき、部屋のドアがノックされる。


「なに?」


「頼みたいことがある」


颯だった。



闘技場。冷気の残る夜、澪は彼方と颯に連れられていた。


「君の“力”を、見せてほしい」


「……どうして?」


「確かめたいことがあるんだ」


澪は黙ったままだ。が、次の瞬間――


澪のピアスが微かに発光した。空気が震えた。その余波が床を走り、壁を這い、空間の温度が急激に下がる。


――そして。


闘技場全体が、凍った。


静寂。吐く息さえ白く凍る中、澪はただ立っていた。


彼方が、呆然と口を開く。


「……やはり、そうだったのか」


「彼方、わかった?」


「ああ、あれは力なんかじゃない。力の気配を感じなかった…自然と起きた、そんな感じだ」


「やっぱりか…」


「澪は、天使なんかじゃない」


澪は何も言わず、その言葉を聞いていた。表情に変化はない。ただ、彼女の立つその姿は、まるで――


命の星が、帰ってきたかのようだった。


──彼女は、与えられたものではなかった。


彼女の存在は、模倣でもなければ偶然でもなかった。


この世界で帰る場所をなくした、すべての生命が、かつて踏みしめた土。


記憶の奥底に眠る、失われた声。


澪は、それを纏っていた。



「……澪、お前は、いったい何なんだ?」


彼方の問いに、澪はただ静かに目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ