エピソード13
「朱莉、飽きないね」
「うん、だってこのお店、ほんと美味しいんだもん!」
任務の帰り道、朱莉と澪はいつものクレープ屋に立ち寄っていた。もう店員とはすっかり顔馴染みで、注文もお決まりの流れだった。
「私はいつもので」
「私は……あ、これにする!」
「ベーコンポテトツナクレープ? すごい組み合わせだね」
「新作っぽいよ? このお店だけかも」
「お待たせしましたー!」
ふたりはクレープを受け取って、川沿いのベンチに腰を下ろす。夏の終わりが近づいているせいか、風に少しだけ冷たさが混じっていた。
「いただきます」
「うーん、意外と美味しい! 澪っていつも同じの頼んでるよね」
「うん、苺とチョコ。安定」
「飽きないの?」
「朱莉にだけは言われたくない」
「確かに!」
笑い声が弾けた。陽が傾き、影がゆっくりと伸びていく。ほんの少しだけ、空気が静かに変わった気がした。
***
「ね、あの川。夕日が反射してて綺麗。朱莉の髪、あんな色だよね。……私、好きだな」
「そう? 私はあんまり」
「どうして?」
「どうしてって……」
(まただ。この瞳。何も言わないのに、全部見透かされてるみたい。私の醜いところ、隠してるのに、全部バレてる気がする)
「言いたくないなら別にいいよ。いつか、話したくなったときで」
「……うん、ありがとう」
朱莉の髪が、風になびいて空と川と溶け合っていく。その美しさに、言葉が止まった。
(本当に、綺麗だな)
「ねえ、朱莉——」
澪が顔を上げたその瞬間、目に飛び込んできたのは、川面に揺れる赤みを帯びた橙色の夕日ではなかった。
それは、黒が滲んだ、赤。
川の流れの中に、何かが揺れていた。
風が止まり、音が遠のいた。
朱莉の笑顔が、その赤にゆっくりと染まっていく。
澪は何が起こったのか理解ができなかった。




