表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  作者: 水無適
1
11/38

エピソード11

「澪、遅刻するよ!」


その朝も、澪は朱莉に叩き起こされていた。


「……眩しい……」


朝日を眉間に受けて、布団の中からもぞもぞと這い出す。朱莉は、明らかに浮かれていた。


「今日、何かあったっけ?」


澪の眠たげな問いに、朱莉は少し誇らしげに答える。


「学園祭の出し物を決める日よ」


「それでノリノリなの?」


「指摘されるほど分かりやすかった?」


「うん」


頬を赤らめながら、朱莉は澪の腕を引いて部屋を出た。


「やりたいことを一人ずつ出していってくださーい!」


教室には、浮き立った声が飛び交う。


「焼きそば屋!」

「お化け屋敷!」

「やっぱり見世物系でしょ!」


いかにも学園祭らしい、軽いざわめきと興奮。最終的に、多数決で選ばれたのは「執事・メイドカフェ」だった。


「学園祭って9月でしょ? ずいぶん早く決めるんだね」


澪のぼんやりした呟きに、朱莉が即座に返す。


「物事の準備には時間がかかるのよ!」


その言葉通り、朱莉のテンションは明らかにいつもより高かった。


準備期間が始まると、教室の空気は目まぐるしく変わっていった。ミシンの音が響き、ペンキや布が床に散らかり、装飾のデザインをめぐって小さな言い争いが何度も起こった。


それでも、クラスの誰もが本気だった。

澪もまた、その中で黙々と作業をこなしていた。表情は淡々としていても、指示された仕事は確実にこなしていた。


朱莉はそんな澪の様子を、少し意外そうに見ていた。


そして迎えた学園祭の前日。事件は、唐突に起きた。


「ないっ!! メイド服が一着足りない!!」


衣装係の悲鳴に、教室中が凍りつく。


「執事服の数を確認して!」


「……あった。一着多い」


全員の顔に「マジか」の文字が浮かぶ。犯人探しが始まる前に、担任の翔が口を開いた。


「女子の中から一人、男装して執事をやってもらう。くじで決めよう」


不穏な空気の中で回される、紙片。引かれるたびに教室の緊張は高まっていった。


澪は、その中で、顔色を失った華那に気づく。彼女の手は、小刻みに震えていた。


しばらく沈黙が続いたあと、澪が自分のくじと華那のくじを見比べ、ぽつりと口を開く。


「……交換する?」


華那が息を飲む。ためらい、そして、涙のような笑顔で応える。


「いいの? ……ありがとう……」


「うん」


次の瞬間、翔の声が響いた。


「当たりを引いたのは誰だ?」


澪は静かに手を上げる。


「澪が!?」


驚いた朱莉が声を上げた。彼女は、最初に“当たり”を引いたのが華那だったことを見ていた。


しかし、澪は何も言わず、ただ次の準備に向かっていた。


衣装問題が収束し、教室には再び日常のような準備の空気が戻った。しかし朱莉の胸の内は、ざわついたままだった。


澪が誰かのために動くこと。それは、ほんの数ヶ月前の彼女からは想像もできなかったことだ。


けれど、それを「成長」と呼ぶには、まだあまりに輪郭が淡かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ