01:IN THE BEGINNING ②
その小さな村の一番奥に、他の家よりも少しだけ立派な長老の家がある。
…まぁ、立派と言っても所詮村の家。素朴な普通の村の家である。他の家よりもホントにちょっとだけ、である。
その家から…
「長老様ありがとー♡」
怪我を治してもらった少女が、扉を開けて振り返りにこやかに手をふり挨拶をする。
「気をつけておかえり」
その少女に穏やかに手を振り返す長老と呼ばれる老人。
頭には全く毛がないが、代わりに立派な白い口髭がある。見た目からしっかり老人ではあるのだが…碧い目は意思の強さがうかがえる。
『おじーちゃん』と呼ぶティムとは似ていないようで、その瞳はやはり似ている。
「やれやれ 大事にならんで本当に良かった」
出て行った少女を見送ったあと、ほっとしたように溜息をもらす長老。
「で、ラルシオンよ…あの子の話じゃと怪物達、畑にやってきたそうじゃが?」
「本当よ多分」
出された軽食をももぐもぐ租借しながらうなずくラルシオン。
「あたしとティムで追い払ったけど」
ラルシオンの言葉に、食べ終わった食器を片付けつつ同じようにティムもうなずく。
「…ボクは?」
人形の言葉はスルーである。
「最近 魔の者どもの動きが日増しに活発になってきておる…」
長老は顔をしかめると苦々しくつぶやく。
「何か良くない事の前触れやも…」
「大丈夫よおじーさん♡」
深刻な長老に、ティムの真似をするようにラルシオンは軽く返す。
「怪物だろうが邪神だろうが、あたしとティムでブッ飛ばしてやるわよ♡」
ぐいっとティムを抱きよせると任せろと言わんばかりに晴れやかな笑顔で言い切るラルシオン。
「あの……ボクは…?」
…もちろんここでも人形はスルーだ。
「頼もしいのぅ!さすがワシの愛人じゃ♡」
「ブッ飛ばすわよ」
ジジィの無遠慮なセクハラ発言に、ラルシオンの眉間に力が入る。
もちろん、ティムを抱きしめる腕にも思わず力が入り、抱きしめられてるティムも困ったように顔をしかめる。
「ねぇ……」
スルー一択。
「ねェ!! ボクわあああっ!?」
いきなりの大声に会話をぶった切られる。
「な なによギル……」
「ひどいやラルちゃん!!」
耳元の叫び声に不快感もあらわなラルシオンに、器用に涙を流しながら人形が叫ぶ。
「ボクだけ仲間外れにして!! ボクだってモンスターを血祭りにあげたいんだゾ!…なのにラルちゃん達だけ楽しんで!!!」
愛らしい(?)人形がはらはらと涙を流しながら切なげに訴える。
…が、その言葉は不穏そのものである。
「誰が楽しんでんのよ」
口元をゆがめた笑顔で、ぐりぐりぐりっ…と人形のこめかみを絞めるラルシオン。
あっあっあっ…と悲鳴を上げつつ苦痛の涙を流す人形。
「そーいえばお主…」
その折檻シーンを眺めながら、長老がつぶやく。
「親父に『人形の呪い』をかけられているんじゃったな」
「人形の呪い?」
ティムがその言葉に、片付けた食器を運ぼうとした手を止める。
「うむ。主に乱暴者をこらしめる魔法でな。呪われた者はあの様に無力な人形の姿に変えられてしまうのじゃ」
確かに…何の役にも立たない、無力な人形だけど…元は人間だったんだ…とティムは祖父の言葉に目を見張る。
「しかし…性格をもぷりてぃに変える魔法なのにあの血気……人に戻せば闘牛のような男じゃろうて…」
続く祖父の言葉に、さらに目が丸くなる。
「まっさかぁ♡ あんなにかーいいのにぃ♡」
ティムの頭の中にはあのプリティな人形が闘牛のように人を襲ってる姿が浮かび…それすらも可愛いとついほころんでしまう。
確かに…柔らかそうなフェルト地に、黒い髪の毛とまん丸な感情のこもってない目玉…口はいつもにっこりと笑った形しかしていない。体部分の鎧すら柔らかい布で出来てるのだから、可愛らしい人形にしか見えない。
「あんたを戦わすと、どっちが正義の味方か判んなくなるでしょ!!?」
「そぉんなぁぁ!!!」
ティムの想像にはおよそ合わない会話がラルシオンとギルの間で交わされてはいるが。
そんなほのぼのした空気が突然…
『うーっしっしっしっしっし♡』
濁ったジジィの高笑いが、空気を切り裂くように村中に響き渡る。
あまりの唐突さに思わず全員、だぁっ!!と部屋の中でズッコケる。
「な…なに?今の下品な笑い声は…!?」
「うし?」
何とか身体を起こすラルシオンとギル。
顔には困惑の表情と埃が浮かぶ。
『出てこおーい!! この村の長老ォォォォ!!!』
しかし、皆の困惑を無視し、バカでかい声は続く。
何やら魔法で声の大きさを拡大しているのだろうか…ビリビリビリと、空気が切り裂かれるように響く。
「お友達?」
「いや初耳じゃ…」
ギルの問いに長老も首をかしげる。
『出てこおーいッ!!!』
しつこい声に、全員とりあえず扉からザザッと飛び出す。
「!!!」
「ほぅ…出てきたな…」
ゴオオオオ…という強い風の音をBGMに、向かいの家の屋根の上に立つ黒い重た気なローブを着る老人と大きな槍を手に持つフルアーマーを身に着けた背の高い人物…それは先程高台の上に立っていた二人である。
だが、その老人の手には、ついさっき長老の家から元気に出て行った幼い娘と、その首筋に突きつけるナイフがあった。
「貴様が長老か…?」
ローブの下から鋭い眼光がのぞく。
「いかにもそうじゃが…何用じゃ?」
長老は、その対峙する間に膨らむ緊張感をなるべく高めないよう、落ち着いた口調で応える。
「なぁに、ちょっとした質問に答えてもらうだけだ…」
にやり…とローブの老人の口元がゆがむ。
「もっとも貴様が断っても…」
その老人の右手のナイフが、すっ…と左腕で抱える少女の首筋に近づく。
「無理にでも答えてもらうつもりだが…?」
ナイフの切っ先で、少女がひっと声にならない悲鳴をあげ、青ざめる。
「その子を放せッ!!!」
だっ!
「ラルシオン!!」
おびえる少女の姿に…どうしても我慢ならずに駆け出すラルシオン。
長老の止める声も耳に入らない。
…が…
「イブナート!!!」
老人の声と同時に、シュ!…と一瞬で姿を消した鎧騎士は…
「!?」
かなりのスピードで老人に向かうラルシオンの目の前に、突然飛び降りる。
ドカッ!!
「あぁッ!!!」
重い槍を軽々と振り回すと、簡単にラルシオンを吹き飛ばす。
「ラルちゃん!!」
ふっ飛ばされたラルシオンの元に、ティムが慌てて駆け寄る。
顔をしかめ、身体を起こそうとするラルシオンの目の前に、騎士イブナートの槍先がすっと突きつけられ、その場から動けなくなる。
「無駄な抵抗はやめるんじゃな…」
屋根の上に残る老人が声を張り上げながら、ナイフを握る手を前に突きつける。
「わしがこの娘の命を握っていることを忘れるな!!!」
「待て!!」
長老は、慌てて声を上げる。
「わかった…話を聞こう…」
スピードに特化したラルシオンでさえ一瞬で無力化される戦力を相手に、人質がいる状況はかなり不利である。
しかも騎士よりもやっかいなのはあの老人…長老は、底知れぬ力を老人からひしひしと感じている。
フン!と老人は鼻をならす。
「わしの名はデラデューン 魔道を探求する者だ」
その自己紹介に、長老はやはり…と思う。
白い髪に白い髭…眼光鋭くはあるが、しわも刻まれた老人の姿なのに…デラデューンと名のる老人からは恐ろしいまでの圧を感じる。
おそらく魔法使いとしても冒険者としても…かなりの実力の人物であろう。
「単刀直入に言おう」
デラデューンは、そんな風に相手の力をはかる長老のコトなど歯牙にもかけず、声を張り上げる。
「伝説の『鳥笛』のありかを示せッ!!!」
「な…『鳥笛』じゃとう!!?」
相手の動きをうかがいながら落ち着いて対応していた長老が、思わず大声を上げる。
「?」
その動転ぶりにラルシオンも思わず長老を見上げる。
「お主!! どこでその伝説を!!?」
「フッ…」
慌てる長老と対照的に、デラデューンは余裕のある笑みを浮かべる。
「半年前…わしは闇からの声を聞いた…。封印されし邪神が助けを求める声をな! …邪神が復活するためにはこの島に伝わるという伝説の『鳥笛』が必要不可欠である…と!!!」
デラデューンの話は、まるで神話を語るようで。
「さあ!!!『鳥笛』のありかを言え!!!」
そして、目を見開くと、長老を睨みつけながら、左腕の少女にもう一度ナイフを突きつける。
「さもなくば貴様の可愛い孫娘の命はないぞ!!!」
「え!?」
…その言葉に、長老だけでなく、ラルシオンもティムも…ギルさえも一瞬固まる。完全に処理落ちである。
「あ あのーもしもし?」
処理落ちからようやく復活した長老が、ためらいがちにデラデューンに声をかける。
「何じゃ!!」
「わしの孫娘なら…ここに居るんじゃがの…?」
あたしです…と、ぽてぽてと長老の横にきて自己紹介するティムの頭をなでながら、長老が応える。
その言葉に「はい?」と、今度はデラデューンの方が、処理落ちする。
ポロッ
…処理落ちのためか、左手の力が抜け、抱えていた少女がデラデューンの身体から離れる。
スキアリ♡…とラルシオンの口が小さくつぶやく。
「わかったら…」
ヒュ!…と一瞬でデラデューンの目の前にジャンプするラルシオン。
「おととい来なさいッ!!!」キーック!っと渾身の蹴りが炸裂する。
バキャァ!と、激しい蹴り音と共に、ものすごい勢いでデラデューンは空高く飛んでいく。
「うあああああーーーっ!!!」…という悲鳴がどんどん遠くなってゆき…とうとうキラッと光る星の様に彼方に消えていった。
「うっわーっ!待って下さぁい デラデューンさまぁーっ!!!」
消えていったデラデューンの方角に、イブナートは慌てて走り去る。
「………なんなのこいつら」
すたんっと、高い屋根から少女を抱えて軽く飛び降りたラルシオンのつぶやきは、その場にいる全員の心の声であった。
「さてと…おじいさん!」
呆然と、去っていった悪党共の方角を見ていた長老に、ラルシオンは声をかける。
「話してよ。…その『鳥笛』のコトを…!!」
ラルシオンの顔には、何かはわからないが、重要そうなその『鳥笛』というモノを、悪人には使わせてはならない!という正義感あふれる決意がこもった表情が浮かんでいる。
「よかろう 『鳥笛』を悪用させないためにも…お主らには話しておこう…」
長老は、一度つぶった目をゆっくりと開けると、普段のおちゃらけた空気を一切まとわぬ真面目な表情で、三人を見つめる。
「『鳥笛』の伝説を…!」
ぐっ!!
…と、ラルシオン達三人の手に力が入る。
そして……『鳥笛』の話が長老から語られた。
…てなワケで、前回告知どおり、ちと長めになってしまいましたw
次からはバランス考えて読みやすくできるよう頑張ります…多分。
よろしければ次回もぜひご覧くださいm(_ _)m
…と言いつつ、次回は確実に更新できるかどうかちょっと不明です…スミマセンorz
6/29(日)の「サンシャインクリエイション2025summer」に参加するため、ちょっと漫画の方の原稿作業に入っていますので(^_^;)
こちらも、ウマ娘ジャンルで参加してますが、大冒険の同人誌も持参してますので、参加される方いらっしゃいましたら、ぜひ見に来てやってくださいませ♪
「茶々組&初心の会」(コ08b)で参加してます。よろしくお願いしますm(_ _)m




