01:IN THE BEGINNING ①
ザンッ!!
少女剣士の高速の刃が怪物の身体を切り裂く。
その動きの速さに仲間の怪物達がたじろぐ。
その機を逃さず、すかさず攻撃魔法を放つ子供。
…そして、賑やかしにしか見えない小さな何かが、その周りをうろちょろしている。
最初は7~8匹はいた犬の様な見かけにみすぼらしい鎧を身に着けた怪物…コボルト達は次々に倒され、すでにもう3匹ほどしか残っていない。
「うわぁーッ」
「強いぞ。こいつら!!」
「逃げろーっ」
だだだっ!!…と、生き残った奴らは這う這うの体で逃げていく。
その後ろ姿を見送る剣士は深追いせず、剣を鞘に仕舞う。
「やれやれ。…やっと逃げたみたいね」
ホッとした顔でつぶやく。
すらっとした体躯に意思の強そうな赤い瞳、珍しい緑色の長い髪を持つ少女は…長い耳も持っていた。
そう…エルフである。
彼女の名はラルシオン。
「えーん こわかったよぉぉ」
「大丈夫?」
魔物に襲われ泣いている幼い少女を優しく慰めているのも小さな少女である。
ふんわりした肩までの金髪に碧い瞳の小柄な少女の名はティム。
「あのね。畑で野菜とってたらね。いきなり…」
「畑!?」
泣きながら襲われた状況を説明する少女の言葉にラルシオンは眉をしかめる。
「おかしいわね…奴等がこんな村近くまでやってくるなんて…」
確かに…こんな人里近くまで魔物がやって来た等という話はあまり聞かれない。
「ま、何にせよ良かったよ♡」
戦闘中、うろちょろしていただけの黒髪の変な人形が人間の言葉を話す。
それだけでも異様な事なのだが…
「もしぼくらが通りかからなかったら…キミは三枚におろされて怪物達の今夜のごはんになってたんだから♡」
可愛らしい(?)見かけにそぐわない言い草に、瞬間、ヒュッ…と周囲の空気が切れる音。
ズバン!!
ラルシオンの体重の乗った蹴りが人形の顔面にヒットする。
「な…なんで…?」
いい感じに遠くに蹴り飛ばされた人形の口から情けない言葉と、蹴りの摩擦からの煙がしゅうう…と出てくる。
「自分の口に聞きなさい」
怒りのこもったしかめっ面できっぱり言いきるラルシオン。
「あ!ケガしてる!!」
「あ…」
「とりあえずおじーちゃんに手当てしてもらいましょ♡」
そんな二人(?)のやりとりを華麗にスルーしつつ襲われた女の子の怪我を確認し、ティムはさくさく話を進める。
その言葉に
「ギルー!行くわよ!!!」
自らが遠くに蹴飛ばした人形…ギルに向かって声をかけると、さっさとそこらに放り投げた荷物を手に先を歩くティム達の後にラルシオンは続く。
「あーん まってよぉぅ」
「グズはキライよ」
慌てて後を追うギルに冷たく言い放つラルシオン。
その姿が村の方に向かい、少しずつ小さくなっていく。
「………アレが長老の孫娘…か…」
……そう。
その小さくなっていく後ろ姿を高い位置から見ている影が二つ…。
「伝説の『鳥笛』…その所在を知る者はこの島広しと言えど長老しか居らぬ」
黒い重た気なローブを着る老人と大きな槍を手に持つフルアーマーを身に着けた背の高い人物が高台に立つ。
「そしてここが…奴の村…か…」
その高台に強い風が吹く。
ゴオオオオオオオ…と風にあおられて巻き上がる土煙の中にこじんまりとした村が見える。
その小さな村を見つめ…老人はローブの下で、にいっ…と口元をゆがませるのだった…。