待ってよ、王子様
同窓会の会場を後にして、桜並木を心春君と秋帆君と並んで歩く。
スーツ姿が映えている二人は、俺の王子様だ。
「はぁーー、スッキリした」
心春君は、嬉しそうにニコニコ顔で笑っている。
「お前は、やりすぎ」
秋帆君は、心春君に怒って言った。
「ごめんね、だけど、ほら、もう我慢できなくて」
「約束ちゃうやんけ、振り向かしてから言うんちゃうかったんか」
「わかってる、ごめんね。だけど、気持ちを押さえられなかった」
心春君は、うつむいた。
「ホンマに、二人は俺が好きなん?」
二人を交互に見つめた俺は、立ち止まって聞いてみる。
「ハハハ、欲しがるなーー」
秋帆君が、俺の頭をくしゃくしゃと撫でた。
「好きだよ。中学生の頃からずっと……。美月君が大好きだよ」
心春君が柔らかく笑った。
チクッと胸の奥が痛む。
「俺は、高二の夏に美月君と女の子が歩いてるんを見たんや。そっから、自分の気持ちが押さえられへんくなってしもて。それからはずっと好きや」
秋帆君は、俺に笑いかけた。
まさか、中学の時の人気者二人が俺を好きだなんて信じられなかった。
夢でも見ているのだれやうか?
「嫌悪感あるんやろ?大丈夫、大丈夫。俺等の告白なんて無視したらええんやから」
秋帆君の言葉に、胸がズキズキする。
さっきから痛みが、走るのはなぜだろう?
「そうそう。僕は、秋帆とゆるい付き合いを続けて行くから、大丈夫、大丈夫。美月君、会えてよかったよ」
心春君の言葉に、さらにキリキリと胸に痛みが走る。
なんでだろう?
「じゃあな。また、どっかでいつか会おうや」
またっていつ?
20年も会っていなかったのに、いつ会えるの?
「バイバイ」
心春君と秋帆君は、桜並木を仲良く笑いながら歩いて行く。
俺は、足が固まって動けない。
「ほら、心春。口から血いでとるからじっとせい」
「痛いからやだよ」
「ほら、絆創膏だして、貼ったるから」
「消毒は?」
「いらんやろ」
「もーー、秋帆は乱暴だな」
二人が、消えて行っちゃう。
二人が、見えなくなっちゃう。
動けない。
さっきより胸が痛くて動けない。
「ここの桜だけは、綺麗だね」
「俺も、標準語話そうかな」
「教えてあげようか?」
「そやな、悪ないかもな」
いなくなっちゃう。
いなくなっちゃう。
ちゃんと気持ちを言ってくれたのに……。
俺は、まだ何も伝えてないのに……。
「待って」
振り絞るようにめちゃくちゃ大声を出した。
二人は、俺の声に足を止めてくれる。
「なんやーー?どないした?」
秋帆君が、大きな声で叫んでくれた。
涙が目の前を覆って、滲んで全部が見えない。
「あのね、あのね」
「うん」
もう、見えないよ。
涙で前が、見えないよ。
でも、言わなくちゃ
言わなくちゃ
「待ってよ、俺の王子様」
ギュッて、後ろと前から抱き締められる感覚がする。
えっ?
「そんな顔したらもっと愛してまうやんか」
そう言われる。
「とめられなくなってしまうよ。」
聞こえる。
「ごめん、変な事言ってしもたな。心春、ハンカチ」
「うん、はい。涙拭いて」
「じゃあな。ちゃんと幸せになるんやで!もう、あの時を引きずらんでいいようになったやろ?」
「さっきのって俺の為に、みんなにうちあけたん?」
俺の涙を心春君が手で優しく拭ってくれる。
「あんな嫌な思いをずっとしてたのに、ちゃんと守れなくてごめんね。でも、美月君は幸せになっていいんだよ。これ以上苦しまなくたっていいんだよ」
ハンカチを見つけた心春君は、優しく涙を拭ってくれた。
「心春、あんまりおったら俺等もあいつらみたいなるから」
「うん、わかってる。じゃあね」
「じゃあな」
二人は、俺を置いてまた歩きだしてしまった。
「何で?聞いてなかったん?」
俺は、もう一度二人に声をかける。
「なに?」
心春君が、聞いてきた。
「さっき、言うたやん。待って、俺の王子様って、言うたやん。聞こえてなかったん?二回もいうの恥ずかしいやん」
顔が熱くなる。
全身が心臓になったみたいに恥ずかしい。
ドキドキする。
そんな俺の顔を秋帆君が、覗いてきた。
「それって、どういう意味なん?」
覗き込んできた秋帆君に言われる。
「わからへん。わからへんけど、さっき助けられた時も会場から引っ張られた時も、王子様に連れていかれたお姫様みたいに自分の事を思った。そやから、二人は俺の王子様なんや。だから、二人が見えんなったら悲しなるし。二人が、いなくなったら苦しなる。今は、それしか答えられへん」
俺は、涙が止まらなくなった。
涙はどんどん溢れてきて。
また、視界を塞いでいく。