王子様のようなヒーロー
二人と一緒に、同窓会に入ると女子がざわつきだす。
「天羽秋帆だ」
「美澄心春だよ」
「相変わらず綺麗やん」
「ってか、なんで流川といるん?」
「流川ってゲイやんな?二人を引き込むつもりやん」
「うわーー。ないわ、きもいわ」
「あいつ、ヤバいやつやろ」
みんなが、こそこそと話ながら俺を見てくる。
その視線に見つかるのが嫌で、心春君から手を離そうとしたのに……。
心春君は、俺の手をより強く握ってくる。
「さっきは、どうも」
灰原が、秋帆君に近づいてきた。
「それ、わざとか?」
灰原は、チラリと視線を心春君と俺の手の方に向けると言った。
「自分が美月君に優しくできへんのを、俺等にあたるなや」
心春君ではなく、秋帆君が、灰原に答えた。
「はあーー?俺はいつでも優しくしてるわ」
「へー」
秋帆君の言葉にイライラした灰原は胸ぐらを掴んだ。
「大人やねんから、こんなとこではやめな」
秋帆君は、胸ぐらを掴んだ灰原の手を掴んで言った。
「だったら俺から、美月を奪うなよ」
灰原は、秋帆君を睨み付けて言った。
「みんなの前で、そんなん言うたら軽蔑されるんやない?」
「関係あらへん。明日には他人になるような奴等どーでもええわ」
「じゃあ、それ。どういう意味なん?」
秋帆君の問いかけに灰原が話し出す。
「お前は、ずっと美月が好きやった。俺は、知ってんねんで」
灰原の言葉に会場は、ザワザワとし始める。
「天羽ってそっちなん?」
「めっちゃ好きやったのにショックやわ」
「ってかなんでなん、なんで流川なん」
「ありえへんよ」
みんなは怪訝な眼差しを向けながら、俺達に聞こえるように話す。
「ハハハ、人間っておもろいな。中学の時、俺を好きや好きって何度も告白してきた奴も……。俺が、男が好きやって聞かされたら掌かえしよるな」
秋帆君は可笑しくて笑っている。
「ほんなら、やっぱりお前は美月が好きやったんやろ?」
灰原の言葉に
「好きやで!だから、助けた。それの何があかんの?」
と秋帆君は、みんなの前で堂々とカミングアウトした。
俺は、秋帆君に好きといわれて嫌な気持ちがまったくわかない。
それどころか、やっぱりすごいなって思っていた。
「だったらお前は、俺の気持ちがわかるやんけ」
灰原は、吐き捨てるように秋帆君に呟いた。
「嫌、わからん。だって、俺は、美月君は好きやけど……無理やり自分のものにしたいなんて思った事、一度もないから」
秋帆君の言葉に、周りにいるみんなはまたザワザワし始める。
「さっきから勝手に色々言ってるけどさ。最初に好きになったのは、僕だから」
えっ?
心春君は俺から手を離すと秋帆君の胸ぐらを掴んでる灰原の手を掴む。
「どういう意味や?」
「そのままだよ。あの日、君達に何かをされてトイレに座り込んでいた、美月君を見つけた。僕は、運命だと思ったよ。だって、入学式の日に美月君を見つけてから僕の心臓は毎日踊っていたんだから」
心春君の言葉に、周りにいる同級生の女の人達が泣き出す。
「美澄も、そっちなん?」
「なんで、いやや」
「うわーー。めっちゃショック」
周囲の言葉など気にしていない灰原が
「お前なんか一回も助けてへんかったやんけ」
と心春君に叫ぶ。
「それは、僕が秋帆にお願いしたからだよ。僕はずっと美月君に、嫌われるのが怖かった。だけど、あの場所で助けたらきっと自分の気持ちに嘘をつけなくなる。わかっていたから、秋帆にお願いしてた。だから、さっきの君の言葉は間違いだよ。秋帆が美月君を好きだってのに気づいたのは中学生の頃じゃないから」
心春君の言葉にみんなはさらにざわついて、数人の女の人達は泣いて会場を去って行くのが見える。
きっと、心春君と秋帆君との再会にかけていたんだろう。
「ふざけんな」
ドカッ……。
灰原が心春君を殴りつける。
殴られた拍子に、心春君は床に尻餅をつく。
痛そうに顔を歪めた心春君の唇の端から血がじんわりと滲んでくる。
「暴力で押さえつけるから、暴力しかふるえないんだよ」
心春君の言葉に、イライラしている灰原は、さらに殴りつけようとする。
「やめろや」
その手を秋帆君が止めた。
「言っとくけどな。お前ら全員が植え付けた傷のせいで美月君の人生はダメになったんや。見て見ぬふりしたり、陰でこそこそ言ったり、変な噂したり、そんな人間が結婚して、子供つくって、幸せになりやがって!俺はな、お前等全員許してない。中学の頃からずっとな」
秋帆君は、灰原や周囲の人間に叫ぶと会場から出て行く。
秋帆君に嫌われていたのがわかった女の人達は、ポロポロと涙を流している。
「見つけたかった人に会えたから、同窓会はもう必要ない。そもそも、僕もみんなが嫌いだったから」
心春君は、俺の腕を引っ張って歩き出す。
俺を引き寄せようとしてきた灰原の腕よりも早く心春君が引っ張ってくれる。
灰原の顔が歪んだのがわかった。