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同窓会

「みっくん、場所どこやった?」


俺は、ポケットからハガキを取り出しておかんに見せる。


駅につくと電車から降りて改札を抜けて、おかんは会場に俺を連れてきた。


「お花見、言うて、この会場から花見に行くだけやろか?」


桜の咲いている道を通り抜けながら歩く。


「しらん」


「あったわ、ここやわ」


おかんが、同窓会会場を指差した。


「みっくん、一人でいける?」


「ガキやないで、35や」


「そうか、ほなお母ちゃんそこで少しだけ待っとくから……行ってみてアカンかったらすぐに電話するんやで!わかった?」


「わかった」


俺は、おかんからハガキをとると歩き出した。


もう、35や。


こんなんたいしたことないわ。


建物の中に入ると受付がいて近づくと「名前は何ですか?」と聞いてきた。


流川るかわ美月です。」


「流川さんですね、こちらにご記入どうぞ」


受付の女が、怪訝そうな顔を一瞬したのを俺は見逃さなかった。


名前を記入してペンを置くと……。


「これ、どうぞ」


受付の人に流川と記入されている、名札を渡される。


「どうも」


名前を書いただけなのに、疲れた。


会場に入っていくと、たくさんの同級生がもう来ている。


「あれって流川やん」


「やば、ようこれたよな」


「ホモやろ?」


「まだ、結婚とかもしてへんよな」


「童貞やけど尻は卒業したらしいで」


「ヤバ、病気あるんちゃう?」


「きもいな、あいつ」


みんなが俺を見ながら、コチョコチョ話してるのが聞こえて、その場に居たくない気持ちが襲ってくる。


やっぱり、無理かもしれん。


やっぱ、おかんに電話しよう……。


そう思った俺の前に現れた男は、「なつかしいな。また、会えるなんて嬉しいわ」と言いながら俺の顎を掴んできた。


ニタニタ笑う5人組。


こいつらの顔なんてみたくなかった。


一生会いたくない存在。


だけど、俺かて大人になったんや。


「やめろ」


俺は、顎に置かれた手を掴む。


「元気しとった?ゲイになったって聞いたけど」


5人は俺を見ながらゲラゲラ笑い、周囲の同級生達の「やっぱりそうなんや」という言葉と冷たい視線が痛く突き刺さる。


「なってないわ」


俺は、心臓がちぎれそうな程痛くなるのを堪えながら言った。


「残念やな。俺は、あの日々からどっちもいけるようになったんやで」


クスクスと笑いながら耳元で灰原が囁いてくる。


忘れていた。


だけど、俺の耳はこの声を覚えている。


反射的に気持ち悪くなった。


吐き気がする。


目眩がする。


俺は、会場から出てトイレに駆け出す。


「最悪や」


トイレの鏡を見ると俺は泣きそうな顔をしている。


こんなとこで泣きたくない。


俺は、泣くのを必死で我慢する。


「なんで、逃げるん?」


その声にトイレの入り口を見て固まった。


入ってきたのは、灰原だ。


「なんの用や」


俺がトイレから出ていこうとすると灰原に腕を掴まれて、簡単に個室トイレの中に引っ張られてしまう。


ガチャ……。


鍵を閉めた灰原は、俺を便器の上に座らされた。


力が入らない足で踏ん張り、立ち上がろうとする肩を灰原に押さえつけられる。


「懐かしいな。興奮するやろ?」


「まったく、せーへん」


俺の言葉に腹を立てたのか灰原は胸ぐらを掴んで立たせる。


俺は、狭いトイレで壁に押しつけられる。


「あれから、いろんなやつとやったけどな。美月のこの顔がずっーーと忘れられへんかったんやで」


灰原は嬉しそうに笑いながら俺の顔を掴んでくる。


「この目に興奮するわ」


俺に睨み付けられて灰原はニタニタと嬉しそうに笑ってる。


気持ち悪い、吐き気がする。


灰原こいつに会ったら、一発殴るつもりでいたのに、昔の出来事がフラッシュバックして俺は女みたいに震えている。


「美月かて欲しかったやろ?俺の事」


俺は、首を横に振るだけで精一杯だった。


「嘘つけ。俺は、こんなに美月が欲しかったんやで。大人になったから、あの時よりうまくなったで。試してみる?」


俺は、さらに首を振る。


灰原は俺のズボンの上から指を這わしてくる。


体が固まってうまく力が入らない。


「やめて……くれ」


頑張って、絞り出せた言葉はそれだけだ。


「やめへんよ。俺は、ずっと、待ってたんやから……美月のこと」


灰原は「ハァーー」と息を吹き掛けてきた後で、俺の唇にキスをしてくる。


あの頃と違ってこいつは、確実に俺をやる。


あの頃と違って、こんな俺を助けてくれるヒーローはどこにもいない。


もう何も考えたくない。


軽いキスを通り越し、ゆっくりと舌が入ってくる。


酷い。


俺の目から涙が流れてくる。


灰原の舌を噛みきってやりたい。


俺の下半身を這う手を切り落としてやりたい。


だけど、何の抵抗も出来ない体。


カチャカチャとズボンのベルトがはずされて、チャックをゆっくり下ろされるとスルッとズボンが下に落ちた。


俺は、パンツだけになってしまった。


「やっぱり、ちゃんと俺を受け入れてるんやないの」


灰原は、笑ってまたキスをしてくる。


こんなに嫌やのに……何でそんな事になるねん。


灰原がゆっくりとパンツの中に手を入れてこようとした瞬間だった。



コンコンーー


コンコンーー


誰かがやってきて、トイレの扉を叩く。


「気分悪いんですか?」


ゴンゴンーー


ゴンゴンーー


さっきよりノックをする音が強くなる。


「救急車呼びましょか?」


灰原はその声に苛立ち、俺から離れる。


唇を離す時に、ギリっと強く唇を噛まれてしまった。


ガチャ……


「気分なんて、わるないけど」


唇から、血がポタポタと出てくる。


ドアを開けられた俺は、急いでズボンをあげた。


恥ずかしい、今のを見られてしまった。


最悪だ。


また、軽蔑される。


あの日、森野達が俺のことを見て言った言葉を思い出す。


「あいつ、感じてんの?」


「きもっ、男にキスされてんのに。ヤバいへきやん」


「ハハハ」


思い出すと涙がでてきた。


灰原は、苛立ちながら個室トイレから出て行く。


よかった。


灰原が出て行ってくれて、俺はホッとしていた。


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