おかんと出かける
結局、昨日一日考えても何も答えは出なかった。
「美月、行こうか?」
リビングに行くとめちゃくちゃお洒落をしたおかんが待っていた。
「どこにや?」
「あの街に行くんよ。お母ちゃん、もう心さんと佳織さんと約束してもうたんよ。ほら、同窓会、一時やろ?用意しいよ」
「いかん、言うたやろ」
「嘘や」
おかんは、俺にスーツを渡しながら言ってくる。
「なんで、嘘つくねん」
「みっくん、五年前に酔っぱらってお母ちゃんに言ったんよ。中学生の頃のいじめてた奴等にあって俺一発殴ってやりたいって、ほんで人生かえたいって。それとな、おかん。俺、ヒーローに会いたいねんって言うたんや」
ヒーロー。
俺は、昨日の夢を思い出していた。
一発殴るのは別としても俺は、確かにヒーローに会いたかった。
「おかん、俺。やっぱり、ヒーローに会いに行くわ」
「せやろ、用意しい」
おかんの言葉にダッシュで洗面所で顔を洗って、歯磨きをして戻ってくる。
「はい、これ」
おかんに渡されたスーツに着替える。
「あんた、全部ポケットにいれんのか?」
「鞄なんかいらんやろ」
俺は、持っていく物を全部ポケットにいれる。
同窓会のハガキも一緒に……。
駅まで来て、電車を待ってるとおかんが俺に、
「みっくん、しんどなったらすぐ電話するんよ」
って言ってきた。
「なんでや?」
「お母ちゃん知ってるんやで。二十歳なる前から、みっくんが中学の時なにされてたか」
おかんの言葉に何も言えずに俯いた。
やってきた電車に、おかんと一緒に乗り込む。
「助けへんかったんやないよ。助けられへんかったんや。みっくんが、助けてって言うまで助けたアカンってお父ちゃんにずっと言われてたから」
おかんは、電車に乗ってすぐに泣き出してしもうた。
「やめや、電車の中やで」
俺は、回りを見渡してからおかんに小さく言うた。
だけど、おかんは話をやめずに続ける。
「南さんの娘さんの千穂さんがな、南さんに、みっくんがされてる事を話したって聞いてな。学年のみんな知ってるって、みっくんが悪いわけやないのに、軽蔑されて怪訝な目を向けられるのはいつもみっくんだけやったって教えてくれたんよ」
おかんの言葉で、俺は昔の事を思い出す。
そうやった。
俺、人の目が吐き気がするほど怖いん忘れてたわ。
いつもなんで、ビクビクしてんのかわからんかったわ。
「みっくんは、汚くなんてないんやで。お母ちゃんは、みっくんを汚いなんて思った事一度もないで」
おかんは俺の手を優しく握ってくる。
「南さんが、お母ちゃんに言うてくれたからお母ちゃん黙っておくって決めたんや。みっくんが、話したくなったら全部受け止めるって覚悟はずっと決めてたんや」
おかんは、優しい顔で笑った。
「だから、今日の同窓会で。みっくんが、嫌な気持ちになったらすぐ電話するんよ。ならへんかったら、お母ちゃんお泊まりまでするつもりやねん」
「おかん、こっちにきたんって、俺の為か?」
そう言えば、おかんはあの街に友達多かったやん。
「何言うてんの!自惚れんのもいい加減にしい!こっちに来たのは奈美のためや」
おかんは、俺の頬を軽くつねった。
「痛いな、アホ」
「今日、みっくんがヒーローに会えたらお母ちゃんにもいつか会わせてくれへん?みっくんが、お母ちゃんに助け求めへんかったんわ。助けてくれる人が、おったんやろ?お母ちゃんも、会ってヒーローにお礼が言いたいわ」
おかんはニコニコ笑いながら窓から流れてる景色を見ている。
「わかった。ヒーローに会えたらな。会わしたるよ」
俺の言葉に、おかんは嬉しそうにしている。
「お母ちゃん久々に二人に会うけど、老けてないやろか?」
「老けてんのおかんだけやないやろ」
「なに、言うてんの。都会の人は、お洒落やで」
「お洒落やん。おかんはずっと」
「一応まだ働いてるからな」
おかんは、嬉しそうに笑っている。
子供みたいにはしゃいでる所みたら、おかんはやっぱり心さんと佳織さんが大好きなんがわかる。
二人は、奈美姉ちゃんが、小学校にあがってすぐに出来たママ友やった。
「みっくんとこっちゃんの時は、ママ友できんかったな」
おかんは、残念そうな顔していた。
「そりゃ、ずっと二人でおったからな」
「いじめてる相手の親とママ友なったったらちごたんかな」
おかんは、俺を見てニコって笑う。
あんな、おかん。
おかんは、知らんやろうけど。
俺と姉ちゃんの一番のヒーローはおかんやったんやで!
内緒やけどな。
そんな話をしてるうちに電車が、あの街についた。