悪夢
「美月、お前本当は女の子やろ」
「胸さわったろや」
「いや、俺らと一緒やで」
「ハハハ」
「アハハ」
うーーん、目を開けたいのに開けられない。
夢を終わらせてくれない。
「美月、やっぱりお前は女や」
「ほら、キスしたるわ」
「やめて」
「それって、誘ってんねやろ」
「そんなんしてない」
かわるがわる、キスをされる。
いつまで、続くんだろうか?
コンコンーー
「なんや、隣いけや」
ゴンゴン
「うっさいな」
ガタッ……。
ノックがしつこいから扉を開けた。
「うんこしたいからでろや」
「隣あいとるやろが」
「紙ないから、邪魔や、どけ」
彼が、そいつらをトイレから出してくれる。
ガバッ……。
はぁはぁ
はぁはぁ
やっと、夢から覚めれた。
助けてくれたのは、知らない男の子だった。
だけど、すごく嬉しかった。
初めて、自分が何をされているのかわかってくれた人がいた事が……。
二人の彼が、俺という存在を認識してくれたんだ。
それだけで、充分だった。
あいつらには、小学校5年生になってから、ずっといじめられ続けていた。
名前が、美月だから女やとからかわれ胸を触られたりもしたし、確認って言われて、あそこも触られたり、そしたらやっぱり男やったって言われていつも終わる。
小学校の頃は、拒むと体の大きい佐々木によく殴られた。
中学にあがると、佐々木のかわりに沼田が俺を殴るようになった。
そのせいで俺は、奴らの玩具から抜け出せない日々を送るしか出来なかった。
毎日、毎日。
胸を触られたり、キスをされたりした。
ある日、キスより先に興味を持った灰原に俺はトイレに呼び出されたんだ。
いつもみたいな、チュッて軽いキスじゃなくて、気持ち悪いキスをされた。
「もっと先にいきたなったやろ」
「優しくしたるから」
「なにすんねん?やめて」
「やっぱり、女の子や。美月は」
そんな俺の事を助けてくれたのは、彼だった。
ずっとそうだった。
お陰で、俺は灰原にキスより先に進まれる事はなかった。
でも……。
キスだけはどうしても拒否できなかった。
高校生になりやっと彼等から離れられたんだ。
俺は、中学で男にそんな事をされていたから、高校生になると女の子と何人も付き合った。
告白されては、付き合ってキスやその先へも進んだ。
でも、高校を卒業したのと同時にやめた。
あれから、17年。
俺は、彼女もいなければ結婚さえもしていない。
あれだけ、たくさんの人と付き合ったのに性に対する嫌悪感を拭い去る事は、一度も出来なかったからだ。
おかんには、二十歳になった時にいじめられていた話しを全部ぶちまけてやった。
そしたら、おかんはあんたが恋愛するのも結婚もお母ちゃんは諦めるからって笑って言ってくれた。
「はぁぁ」
俺の人生はやっぱり最悪や。
俺は、もっかい目を瞑る。
「毎日、キスされてんのか?」
「えっ」
「こんなに、赤くなってしもうて」
彼に優しく唇を触られる。
「いや」
言葉とは裏腹に、いつもみたいな嫌な気持ちを、少しも感じなかった。
「リップやるわ。ちゃんとケアせな、あかんで」
「秋帆、ここにいたん?誰、その子?」
「美月君やで」
「へぇー。僕等と一緒で女みたいな名前つけられたんやな」
「心春そんな言い方するなよ」
「ごめん、ごめん。やけど、ホンマに綺麗な顔やな」
「こんな綺麗な顔してたら、間違えられてもしゃーーないな」
「二人も綺麗な顔してるで」
「そんなん言われたら照れるわ」
「なあ、心春。美月君な、毎日毎日、キスされてるみたいやねん」
「酷いことするな、ほんならこれ」
「何これ?」
「飴ちゃん。じゃあ、行こ、秋帆」
「うん。じゃあな、美月君」
そこで、目が覚める。
俺は、起き上がってリビングに行く。
(中学校の同窓会)
秋帆君と心春君。
二人の事を俺は忘れていた。
二人に出会ってからは、キスより先に進ませないように、二人がいつも助けてくれた。
なのに、俺は二人の顔がちゃんと思い出せない。
二人の事で覚えているのは、顔が綺麗だった事と、女子から人気があった事だ。
それ以外に俺はちゃんと二人を知らない。
他の人には、会いたくないけれど……。
二人には、会いたい。
だって二人は、俺のヒーローだったから。
でも、あの街に行くのが怖い。
どうしたらいいんだろう。
どうしたら……。
考えるのをやめる。
起き上がって洗面所に行って歯を磨いてから、俺はまた眠った。