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おかんとの会話

「ただいま」


家に帰るとおかんが同窓会の紙を持って立っていた。


「なんやねん」


俺は、部屋に入って鞄を置いて出てくる。


「手洗い、うがい」

「はい、はい」

「はいは、一回」

「うっさいな」


俺は、洗面所で手洗いうがいをしてリビングに向かう。


「あんた、これ隠してたやろ?」

「また、勝手に部屋にはいったんか?」


イライラしながら話す俺を見つめながらおかんもイライラしている。


「当たり前や、あんたが隠し事するからや」

「そうですか」


俺は、コンビニの袋からチーカマを取り出して食べながらビールを開けて飲む。


「おかんな、あんたの結婚も子供も、とっくに諦めてんねん。わかるやろ?」

「うん」

「せやけどな、誰かな一緒に居てくれる人だけでも見つけてきーーや」


所々、寂しそうに目を伏せながらおかんが話すけど、俺の気持ちは何も変わらない。


「あの街には、行かへんで」

「行け」

「いやや」


俺は、チーカマをまた開けて食べる。


「なんで、そんなん言うんよ」

「なんでも何もないやろ?死んだおとんが名前間違ったからこんな人生になったんや」

「人のせいにすな」


おかんは、同窓会のハガキで俺を殴ってくる。


「これでも、私らかて悪いと思ってんねんで」


おかんは、俺のチーカマを一本取り出して食べ始める。


「あっちは、毎日辛い言うてたからな。あれ、ホンマに事故やったんかな?お母ちゃんは、自殺やないか思ってるんやで」

「なに、言うてんねん、あれは事故や」


おかんの言葉に俺は、ビールを飲み干した。


「人生かえてきーよ。あの子はもう無理なんやから。あんただけでも……」


チーカマを食べ終わったおかんは、姉ちゃんの仏壇の前に行った。


おかんの気持ちは、俺だってよくわかっている。


残された俺だけでも、幸せになって欲しいことも……。


俺には、ふたりの姉がいた。

ひとりは、お城が好きなねーちゃんで。

もうひとりは、俺と双子だった。


双子の姉は、小学校を卒業し中学にあがる前に、車にひかれて亡くなった。

理由は、たぶん。 

おとんが、出生届けを出す時に俺と姉ちゃんの名前を間違ったからだと思っている。


おとんが間違ったせいで、俺の名前は美月になって、姉ちゃんの名前は虎太朗こたろうになったのだ。


なんでやねん。

そんなアホな話あるか?


おとんは、それに気づいてから激しく後悔をしたらしい。

どうすればいいか必死で調べたらしいんやけど。


直し方がわからなかったみたいだ。

だから、小学校に上がると担任の先生に必死に説明したけど無理で……。


おとんは、俺と姉ちゃんに「すまん」と何度も謝っていた。


おとんを許したわけやないけど。

変えれない以上は、受け入れるしかないと諦めていた。


そんな名前を姉ちゃんが大嫌いになったのは、5年生の時に好きな人に告白したからだった。


「かわいいとは思うけど、男と付き合ってるって思われたくないからいやや。ごめん」


大好きな人に名前の事でフラレたのだ。


その話を姉から聞いた時、俺は、全部、おとんのせいやと思った。


おとんは、俺達からのストレスをさんざん受けていたから。

姉ちゃんが亡くなって、一周忌を済ませた翌日に突然死んだ。


「名前、変える方法あったんやないん?」

「そんなん、今さら言われてもわからんかったから。あの頃のお母ちゃん達は……今みたいには…。スマホでサクサク調べれてたら生きてたかな?こっちゃん」


おかんは、姉ちゃんの仏壇の前に座りながら俺を見て泣いている。


「わからん。事故やから」


おかんの涙を見るのが嫌で、俺は目をそらすと2本目のビールを開けた。


「みっくんかて、嫌な思いしたんやろ?今かて」

「しらん。」


俺は、新しいチーカマを取り出して食べる。

おかんは、仏壇の前から俺の前の椅子にやって来る。


「昔は、何でも言うてくれたのに今は何にも話してくれへんくなったやん。」


おかんは、立ち上がって冷蔵庫からビールを取り出すと飲み始めた。


「お母ちゃん、みっくんには幸せになって欲しいだけやで。誰かを愛して欲しいだけやで。他には、何もいらんねんで」


お酒を口にしたせいか、おかんはさっきよりも泣きだした。


「奈美ちゃんもこっちゃんもみっくんも、お父ちゃんに似て、目鼻立ちくっきりした綺麗な顔してる。そんな綺麗な顔してんのに勿体無いで。人生楽しまないと」


おかんは、目の前の椅子に座って、また同窓会のハガキを差し出してくる。


「だから、いかへんって」


俺は、ハガキを無視して、新しいチーカマを開けてまた食べる。


おかんは、知らんかも知れへんけど。

俺は、あの街にいい思い出なんかないねん。

だから、行きたくない


姉ちゃんもおとんも、あの街で亡くなったのに、なんで、おかんは行かそうとするねん。



「お花見同窓会やて!あの街、桜が有名やもんな」


ハガキの中身を読んだおかんは、立ち上がってキッチンに行く。

昨日のカレーを温めながらおかんは俺にってくる。


「帰り、神戸寄ってお土産こうてきて」

「だから、いかんから」

「そんな悲しい事いわんと」

「いや、無理やから」


俺は、またビールを飲む。


おかんは、俺にカレーを渡しながら、


「今日一日、ゆっくり考えて決めよ」


と笑いながら言ってきた。


俺は、おかんの言葉を無視してカレーを食べて、ビールを飲み干すと部屋に行く。


今日一日考えろって。

行く意味なんかあらへんから。 

何で、あんな嬉しそうにするんやろ。


ベッドに寝転がり、天井を見つめているうちに気づいたら寝てしまっていた。

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