誰かの約束と占い師のおばちゃん
「ちゃんと、わかってるわ」
関西弁で呟く男の声が響く。
「しっかりしてくれないと、困るよ」
標準語になれてしまった男は、眼鏡をあげながら答えた。
「わかってるって!でもな、あいつが同窓会にこーへんかったらなんも意味ないやんか」
関西弁の男は、標準語の男に怒って話す。
「そこを何とかするのが、君の役目だろ?」
標準語の男は、気にする様子もなく、ニヤリと口元を緩ませる。
「そんなん困るわ。ちゃんと来るようにしてくれな」
関西弁の男は、呆れたように頭を掻いた。
「ちゃんと、振り向かせるんだよ。あの日買わした約束を忘れるなよ」
標準語の男は、関西弁の男の肩をポンポンと叩く。
「わかってるけど、いじめられてたのにホンマにあいつくるんやろか?」
項垂れるように肩を落として頭を掻いて関西弁の男は話す。
「大丈夫だよ。人生をやり直したいって思ってるからきっとくるよ」
標準語の男は、自信満々で笑って話す。
「ほんなら、来たらまた連絡するわ」
関西弁の男は、手を上げて帰って行く。
「わかった、連絡を待ってるよ」
標準語の男は、関西弁の男の後ろ姿にお辞儀をして去って行く。
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駅からの帰り道、妙な旗を立てた占い師のおばさんがいるのが見える。
(人生変えてみませんか?)
占い何かで人生が変わるなら、俺の人生はぜーーんぶハッピーエンドじゃ、ボケ。
心の中で、そう呟きながら歩く。
「兄ちゃん、兄ちゃん、ちょっと話聞いてかへんか?」
足早に横を通りすぎる時に、おばさんに声をかけられる。
「いいです。間に合ってるんで」
そう言った俺におばさんが、
「人生変えたい思ってるくせに、何でそんな嘘つくねん」
と言ってきた。
その言葉に正直ドキッとしたけれど。
「こんなもんで、俺の人生が変わるはずないわ」
「まぁまぁ、ものはためしや座り」
俺は、おばさんに半ば強引に、座らされる。
「じゃあ、手相みせてみ」
おばさんの言葉にしゃーなしに手相を見せた。
おばさんは、俺の顔をジッーと見つめてくる。
何かわからんけど気味が悪い。
「あんた、名前まちごうてつけられたな」
おばさんの言葉に俺は驚いて、
「そんなん、わかるん?」
と答えてしまっていた。
占いの常套手段にハマっとるだけやのに……。
アホやな、俺。
おばさんは、俺の手を自分の元にぐぐっと引き寄せると……。
「全部わかる。今の年齢は35歳やな。彼女も結婚もしてへん。双子の姉は死んでしもた。それから、4つ上のおねーさんがおって、おとんも亡くなってる、今はあんたはおかんと二人暮らしやな?ここまでで、間違ってたら話聞くで」
おばさんの言葉に俺は開いた口を塞ぐ事を忘れてしまっていた。
占いというのは、こんなにも当たるのか。
俺の顔を見て、おばさんは少し笑ってから話をする。
「ないんやったら、続けるで
明日の4月5日の同窓会、お花見か。それは、絶対行きや。そしたら、あんたの人生はもう薔薇色やで」
「なんやそれ?彼女ができるって事か?」
「さあ、そこまではわからんけど。とにかく行ったらあんたの人生はかわる。それだけは、間違いない。わかったな?絶対行くんやで」
俺の占いが終わるとおばさんは帰れと言う仕草をする。
なんやねん、占いで人生なんか、やっぱり変わらんかったわ。
俺は、おばさんを訝しげに見ながら立ち上がる。
おばさんは、俺の顔をチラリと見て俯いた。
お礼を言うのも何だか変な気がしたから、俺はそのまま歩き出す。
そう言えば前に先輩が、連れて行ってくれた占いよりかはよう当たってたな。
俺は、そのまま近くのコンビニに寄る。
コンビニに入ってすぐにお目当ての棚に向かう。
手にしたのは、ビール2本とチーカマだ。
500ミリのビールを2本飲むのが、俺の唯一の楽しみなのだ。
俺は、関西の田舎町に住んでいる。
神戸には、電車で1時間ちょっともあればつく。
俺は、この街が嫌いじゃなかった。
あの街のうんざりするような日々に比べたら、おかんの判断でこの街に来たのは間違いじゃなかったと今さらながらに思うのだ。
8年前ーー
「あんな、おかん引っ越すわ」
「はっ?どこに」
「奈美の近くや」
「ねーちゃんの近くに行くんか?」
「やけど、姫路に来たら殺すって言われてんねん」
おかんは、困ったように眉毛を寄せて話す。
4つ上のねーちゃんは、昔からお城が大好きな人で、結婚するなら大阪城か姫路城の近くに住んでる相手がいいとずっと言っていたのだ。
そんな、ねーちゃんは、2年前、姫路城の近くの相手と結婚した。
おかんは、ねーちゃんが大好きやった。
だから、ねーちゃんが引っ越してからの落ち込みようは大変やった。
それで、ここになったってわけ。
おかんは、一目でここが好きになった。
お隣さんって言って笑ってた。
俺もあの街から逃げたかったからちょうどよかった。
おかんと一緒にここにこれてよかった。