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〔ライト〕な短編シリーズ

親父のパスワードはいつだって『0000』

作者: ウナム立早


 先月末、親父が亡くなった。通夜から葬儀まで滞りなく行われ、あっという間に親父は骨になり、墓に納められた。


 悲しさや寂しさの感情は湧いてこなかった。その覚悟はとっくの前にしていたから。


 俺が親父と親子のやりとりができていたのは、10年以上も前のこと。突然の脳梗塞と、認知症のダブルパンチ。終末期になると自分が何者なのかすらわかっていないみたいで、正直辛かった。


 遺品整理も順調に終わろうとしている中、会社の秘書から電話が入った。


 親父――先代社長が使っていたクラウドストレージのパスワードが、どうしてもわからないという。


 意外だった。あの親父がそんなものを使っていたのも驚きだったが、何よりも親父が設定したはずのパスワードが、わからないと言われたことだ。


 親父のパスワードはいつだって『0000』だった。


 パソコンのログインから、キャッシュカードと金庫の暗証番号に至るまで、全てが。親父はおおらかで人に好かれる性格だったが、俺とは違って管理能力は大雑把で緩々(ユルユル)だった。


 メールでアドレスを送ってもらいログインを試みると、確かに『0000』ではない。というより、門前払いだった。設定する段階で、アルファベットの大文字小文字おおもじこもじ、そして数字が必要と警告が出るようなのだ。




 俺は喫茶店で、妻と一緒に親父のパスワードを考えていた。


「万が一、機密文書とか入っていたら困るなぁ」

「ねぇ、何かないの? お義父さんとパスワードについて話したこと」

「あの親父から、パスワードの相談なんて――」


 そう言いかけて、ふっと、在りし日の親父との思い出がよみがえってきた。ちょうど、この喫茶店でのやりとりだった。


『なあ、勇太ゆうた。パスワードでいいものあるか?』

『パスワード? 親父のはいつもゼロが四つだろ』

『ゼロが四つ? そうか』


 ゼロが四つ。俺はもしかしたらと思って、タブレットでパスワード入力画面を立ち上げた。


 入力したのは……『ZEROga4ttu』。


 画面が切り替わり、あっけなくクラウドストレージに入ることができてしまった。


 なんだよ、結局ゼロが四つなんじゃないか。しかも中には、『家族』って名前のフォルダしかねえし。中には写真が一杯だ。はは、まったくわかりやすい……単純な親父だ。


 鼻から息を吸い込むとき、大きく音が鳴ってしまった。


「あなた」


 妻が微笑みながらハンカチを差し出す。ちくしょう、俺の涙腺が緩々(ユルユル)になってしまったのは、あの頃の親父に年齢トシが近くなっちまったせいだ。




最後まで読んでいただき、ありがとうございます。

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