三日月よ、剣となりて其れを葬るべし
転校生が男子と聞くと、あからさまなブーイング。
現れたのは、中肉中背でぼさぼさ髪の黒縁眼鏡。
「佐賀から来ました。御上浩介です」
言った瞬間、浩介の頬を何かが掠める。
足元に、カッターの刃が落ちた。
なるほど民度が低い。
高校は首都圏だが、醸し出す空気は荒れた田舎のそれだ。
休み時間、浩介の前に一人の女子が立つ。
「佐賀ってさあ、何かある? 田舎でしょ」
顔を上げ、真っすぐに彼女を見据え、浩介は答える。
「遺跡。あと
化け猫」
「キッショ!」
長い髪をばさりと搔き上げ、女子は去る。
そのまま一番後ろの席で、両足を机に乗せている男子の隣に座り、コソコソ喋っていた。
何処も同じ風景だなと、浩介は背伸びをする。
事情があって来た学校だ。
コトが済めばサヨウナラ。
遠くから猫の声がした。
放課後になり、帰り支度をした浩介の肩を掴む者がいた。
「つきあえよ。佐賀男君」
一番後ろの奴だ。
奴の手を払い、浩介は言う。
「所用でね。また明日」
校門を出ると、夕暮れの空に三日月が昇る。
猫の爪のような鋭さだ。
浩介の目の端に黒猫が映る。
先導するかの如く、黒猫は歩き出す。
浩介の後ろから三人の足音。
面倒だが仕方ない。勝手にしろと放っておく。
着いた場所は古びた公園。人影はない。
奥の方に、石像が一体ある。
石像から滲み出る、どろりとした影。
あれか。
ドタドタと足音が追いつく。
「なんだ、俺らの遊び場に、丁度来ちゃったね」
浩介は追って来た男子等に囲まれる。
先導した黒猫が「にゃあ」と鳴く。
公園内の電灯がチカチカ光ると、いきなりバチっと切れる。
それを合図に三人の男子は、浩介に殴りかかる。
するりと体を躱した浩介は、右手を空に向ける。
「逃げんなよ!」
三人の男子は、歯を剥いた黒猫が爪を立て、瞬時に倒す。
浩介は呟く。
――三日月よ。剣となりて其れを葬るべし!
天空より一閃の光。浩介の手には刀が握られている。
一筋の逡巡もなく、浩介は石像に向かって、刀を振り下ろす。
石像は塵となり、空へと消えた。
浩介は足元に擦り寄る黒猫を抱き、呟いた。
「あと三つ。次は何処?」
「にゃあ」
弥生時代、大陸から侵入した物の怪たち。その場にいた人々は、物の怪と戦った。
なかなか退治出来ない時に、山から猫が降りて来て人々に教えた。
三日月に祈れ、と。
物の怪は、住む場所を変えて闇に潜む。
今もだ。
全国津々浦々に散った物の怪を、葬る一族がいるという。
今も、だ。
浩介は、次なる場所へと向かう。
一族最後の一人として。
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