ハーブティーブレイクタイム
休日の昼下がり。
ハーブショップ開店の準備が着々と進行していた。
つかの間のハーブティーブレイクタイム。
本日のメニューは、ローズヒップとレモングラスのブレンド。
さましたポットに、果汁と氷をたくさん入れて冷たくしました。
「私の負けだな」
カミツレさんはストローを口から離し、降参した。
「エンドー氏のハーブティー。これは……マズいな」
「うめぇですわ! いくらでもゴクゴクですの! おハーブティーへの誹謗中傷、悔い改めてくださいましっ」
おハーブギャングが、カミツレさんに噛みついた。
「ローレル、味の感想じゃないぞ。普通に美味い。問題は、性能に関してだ」
コップを指で弾いた、ポニテ美人。
「大した苦労もせず……この言い方はエンドー氏に失礼か。すまない」
「言いたいことは分かるんで、続けてどうぞ」
「上級ポーションを超えた、言わば特級ポーションの性能。それを再現するのに、あまりにも低コストだろう。出るところに出せば、簡単に大金が手に入る」
おじさんは、こくりと頷いた。
「ぶっ壊れポーションを、全ての冒険者が買える値段で卸せば大金持ち。もしくは、一部の金持ちに独占させる転売ヤー。確かに、一瞬そのプランは考えた」
そうあれは、カゾマートのバックヤードで店長と疲弊しきった時……
「金持ちになりたいけど、製造元がおじさんだとバレて、トラブルに巻き込まれるのは嫌なんだ。うだうだ考えてるうちに、おじさんはおハーブ大好きお嬢様に捕まってしまったとさ」
「真の仲間との邂逅――デスティニーでしてよ」
ローレルさんが両手を組んで、瞳をキラキラさせていた。すこぶる美化されてそう。
「特大のトラブルを招くとは、エンドー氏は間が悪かったようだ」
「まあ、自分を認めてくれた人だから仕方がない」
「ローレルに友人ができて嬉しいよ。私以外、付き合いの長い関係者がいなくてな。ハーブハーブと珍妙な発言ばかりゆえ、学友たちに敬遠されたものだ」
カミツレさんは、やれやれと肩をすくめる。
「理解者がいるなら、肩の荷が下りたというわけだ」
「いや、理解は全然してないなあ」
「タクミ様っ!?」
形容しがたい形相を見せた、ローレルさん。
「ハーブショップに並べる商品は、効能を調整するんで大丈夫。めちゃくちゃ薄めます。お得意さんには、真の力を解放予定」
「ほぉ、ある意味商魂たくましい奴だ」
「わたくしは、反対ですわ! おハーブを軽んじられては、末代まで祟りますものっ」
ローレルさんが激昂したら、ラベンダーのハーブティー。イライラ抑制。
「約束通り、私はお前たちの店を手伝おう。好きに使ってくれ」
「今、何でもするとおっしゃいまして?」
「曲解するな。言っておくが、ローレルの責務が免除されたわけじゃないぞ」
「田舎の活性化は、村長が粉骨砕身を以って成し遂げてくださいまし」
ローレルさんは、ハーブティーをグビグビ飲むや。
「そうですわ! その手がありましたの!」
おじさんとカミツレさんは、急に立ち上がったお嬢様を注目する。
「カゾの村に特産はありませんわ。ならば、特産にすればよろしいのではなくて!?」
嫌な予感しかしない。
「おハーブですわ! カゾの村の特産を、おハーブでしてよ!」
「勝手に生やすな。第一、ハーブは貴重な草なのだろう? エンドー氏が偶然持っていた種を増やすとして、家庭菜園の域を超えているぞ」
ハーブはあくまで趣味の園芸。
権力で農村プラントに改造したとして、どれほど効能が出るか分からない。
「趣味と実益を兼ねた万事解決なプランでしたのに……わたくしのマルチタスク」
珍しくガッカリした様子のローレルさん。9割趣味に傾いてそう。
「特産を全国展開する考えは間違ってないよ。簡単に実現できないだけで」
「うむ、ハーブショップの経営が軌道に乗れば、村と提携するのも悪くないな」
ふと、昔読んだネット記事を思い出す。
「そういえば、おじさんの故郷の話。どこかの田舎で葉っぱビジネスが大成功。つまもの――彩りを添える付け合わせの葉っぱを、全国の飲食店に販売してすごい儲かったとか」
「それですわ、タクミ様! 光明差しましてよっ。つまり、新しい産業は地方創生、社会福祉、村人の生きがいに繋がるのでしょう」
劣勢を覆した、ローレルさん。とても賢い。
「おハーブに勝るお葉っぱがありまして? いいえ、ありませんとも!」
個人の見解です。
「やはり、おハーブ……っ! カゾの村に、おハーブ生やしますわ。今ここに、おハーブ村復興計画を宣言いたしますの!」
頭おハーブお嬢様、ドヤ顔である。
「まずは実績を積め。お前の計画が誇大妄想と一笑に付せられるか、本当に実現するか。私が見届けよう」
「カミツレさん、他人事のように語りますのね。最も忙しいのはあなたでしてよ?」
「……何、だと?」
カミツレさんは、目を大きく見開いた。
「わたくしは、経営関連。タクミ様は、おハーブ関連。カミツレさんは、店舗運営全般を担当しますわ」
「私に販売員の経験など皆無だが。フッ、知名度のない新興産業が忙しくなるものか。スタッフが一人でも暇を持て余すさ」
スタッフが一人、そのフレーズに反応しちゃうおじさん。
「深夜のコンビニ……ワンオペ中、店前でバカップルのケンカ……うっ、頭がッ」
徐に、蘇る悪夢。
おじさんが研修期間の頃、人手不足を理由に一人で深夜シフト入らされたなあ。店頭でバカ騒ぎに興じた彼氏彼女が暴力沙汰に発展。コンビニのガラス、破損。近所の住民が親切で通報し、本当に警察が出動。アホと一緒に、おじさんも参考人として連行。遅番、事情聴取、昼番、地獄の3連コンボだドン! 集中力に欠けていると初代店長に嫌味を言われて、もう一度暴力沙汰が発生するところだったね。おじさんの忍耐力を褒めてくれ。
「はあ、はあ……」
「もし、タクミ様? 息を荒げて、いかがなさいまして?」
ローレルさんに背中をさすられ、呼吸を落ち着かせる。
「ちょっと嫌なコンビニエピソードが脳裏を駆け巡った。もう大丈夫」
「カゾマートですの? 許せませんわ、買収してその看板を下ろしてやりますわ」
領主の娘、権力振りかざす気満々だった。
「ムサシの国のカゾマートちゃうっ。日本のローソ」
おじさんはギリ堪える。ン~、頑張った。
ローレルさんをハーブキャンドルで落ち着かせると、まとめに入ったカミツレさん。
「とにかく、我々が目指す方向性は理解した。一応な。エンドー氏のハーブティーで疲労がすっかり消えたよ。午後も各自、しっかり仕事に励むように。では、解散ッ」
ハーブティーブレイクタイムを経て、再びそれぞれの持ち場へ戻るのであった。




