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8・解散

あんましヒントがない・・・、この章なくてもいいんじゃないか?


岡本は電話を切ると、すぐに純達のいる部屋に向かった。

もしかしたらと思い、交番にいる知り合いに電話をかけたら大当たりだった。岡本の気分は、少なからず向上していた。


(後は、あのハンカチから、被害者の指紋が出れば・・・。)


それと、死体の近くに落ちていた・・・、そう、カメラにでも付いている指紋と照合すれば、あの死体がエマ・ジョエリである事がはっきりとする・・・。

焼けた死体では指紋も検出できないし、しかも部屋まで燃やされていては、あの死体が本当にエマ・ジョエリであるという確たる証拠が無い。

それ故に、ハンカチはとても大きい手掛かりとなる・・・。

純達が、居心地の悪い空気の中で待つ事数分・・・、ドアが音をたてて開き岡本が入ってきた。

栞は、心底ほっとした。時計の音だけが響くこの空間・・・。横に人がいるとはいえ、一言も言葉を発しなければ、いないも同然の状態・・・。知らない場所・・・。栞は、その中で大きな恐怖と孤独感にかられていたのだ。

似たような事が昔にもあった・・・。三歳の頃、大きなデパートで親とはぐれたあの時・・・。道行く人々の中に親の顔を求め、さまよい歩いた時もこのような気持ちであった・・・。

岡本は、席に着き、皆の顔を見て言った。


「ハンカチが見つかりました。交番の駐在が拾っていて、今こちらに向かっています。


今日のところは解散にしたいと思います。」

岡本が、そう一礼する。純達にとって、その言葉はとてもありがたいものであった。

自分の家に早く帰りたい。純の中で徐々に募っていたその気持ちが、今にもはじけそうだった。


「一応、また呼び出すかもしれないので、ここに連絡先を書いてください。」


岡本は懐からメモ帳を出して、皆に一枚ずつ渡し、一番端の鳥辺にボールペンを渡した。

鳥辺は恐怖からくる震えを、何とか抑えつつ文字を書いた。とはいえ、恐怖を簡単に消せるはずもなく、字は誰の目から見ても汚いものとなってしまった。

栞と純も似たような文字を書く(栞は元々字が汚いのだが)。

涼は他の人間が描いている間に、気になっていた事を岡本に尋ねた。


「そう言えば、エマさんのご家族はこちらに向かっているんですか?」

「いえ、彼女は天涯孤独で、身寄りがいないんです。そうですよね、鳥辺さん。」

「え、ええ・・・。小さい頃に両親を事故で亡くして・・・、そして最近、養父母も亡くなったそうで・・・。それを期に、日本に来た、と生前彼女が言ってました・・・。」


鳥辺は、少し震えた口調でそう答えた。


「じゃあ、あの死体は誰が引き取るの?」


失礼とは思いつつも、涼の好奇心は勝手に口を動かす。そんな質問にも、岡本はきちんと答えた。


「我々が、きちんと埋葬します。」


そうこうしている内に、涼のもとにボールペンがまわってくる。涼は、冷静に文字を綴り、皆がそれを岡本に渡した。それを、岡本は懐にしまいこむ。


「では、皆さんを車で送りますから、ついてきてください。」


そう言って、岡本が立ち上がろうとすると、鳥辺が止める。


「待ってください。歩いて、帰らせてください・・・。」

「え・・・?それまた何故?」


岡本は虚を突かれ、少し高い声を出した。


「あの、僕も・・・。」

「わ、私も・・・、歩いて帰りたいんです・・・。」

「あの、僕も。」


純と栞もそれに続き、さらには涼まで手を挙げる。岡本は、何故か分からず茫然とした目で皆を見た。純が、皆を代表して自分の気持ちを伝えた・・・。


「少しでも・・・、外の・・・、現実の空気に触れたいんです・・・。」


それを聞くと、岡本は納得したように頷き、歩いて帰る事を許可してくれた。とはいっても涼は、煙草の煙が蔓延する車内が御免なだけなのだが。

外に出た涼達は、帰る方向が違う鳥辺と別れた。外はもう、太陽が顔を出してうっすら明るかった。そして、純はなんとなく、警察署の方を振り返り、そしてほっとした・・・。


(ああ、来るときに、この建物を見なくてよかった。)


真っ暗な中のこんな建物を、あの状況で見ていれば、自分は精神に異常をきたしていたかもしれない・・・。

あの状況で、夜中に立っているコンクリートの建物は、もはや、自分が現実世界から引きずりおろされたのではないか、と思わせるに十分すぎるものである事は想像に難くなかった。

警察署から、純達の家はそう遠くはない。歩きでも、普段なら二十分程もあれば着く距離である。

しかし、純達は疲れ果てていて、普段の半分ほどのペースでしか歩けなかった・・・。栞は今の時刻を、腕時計で確認した。

午前五時四十五分。それまで起きていれば、誰だって疲労困憊になる。それに加え、非現実的な事を突き付けられた精神的な疲労も尋常ではなかった・・・。

途中の十字路で、純達は別れ、純はゆっくりと、コンクリートの感触を確かめながら歩いた・・・。

純は家に着くと、ドアを開け、小さな声で「ただいま。」と言う。しかし、中から声は返ってこない・・・。もう、母親と父親は寝静まっているのだろう・・・。

純は親を起こさないよう、あまり音を立てずに二階に上がり、自分の部屋に入る。

純はその場の空気を思いっきり吸った。畳の匂いが、自分の鼻を通る。そうして、自分が部屋に戻ってきた事を実感し、疲れ切った心に安心感がしみこむ。

純は、引き寄せられるように青色を基調とした万年床に倒れこんだ。

栞はマンションの階段を上がっていた。栞の家は六階にあるのだが、あえてエレベーターを使わなかった・・・。とにかく、今は機械的なものには触れたくはない・・・。

どんな形でもいい・・・!自分が、ここに存在している事を自覚したい・・・!

ようやく六階につくと、もう体は限界だった・・・。足を引きずり、最後の力を振り絞って部屋に向かう。


「ただいま・・・。」


純の家と同じく、何も返ってこない。玄関に腕時計を置き、栞は、部屋に向かった。ドアを開け、ウェストポーチをその場に放り投げ、ピンクを基調としたベッドに身を任せる。

女性が風呂にも入らず、服も着替えず寝る事はだらしのない事ではあったが、今の栞にそれをする元気も、それを思いつく気力すらなかった・・・。

涼は家に戻ると、「ただいま。」とだけ言って、自分の部屋に向かった。

涼はパジャマに着替えながら、今回の事件について考えていた。しかし、やはり答えらしい答えは出てこない。


(まあ、あのハンカチが見つかれば、事件も解決するよね・・・。)


涼は、黒のパジャマに着替え終えると、仕入れから敷布団を出して畳に敷き、布団の中に潜り込んだ・・・。

鳥辺は、警察署の近くの公園のベンチに座り込んでいた・・・。鳥辺は混乱していた・・・。そして大きな恐怖に駆られていた。


(何で、何でこんな事に・・・?)


鳥辺は、恐怖からくる涙を流しながら、声を漏らす・・・。


「怖い・・・、怖い・・・、怖いよ・・・。」


今日は解答編直前までUPしようかと

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