7・一つの手掛かり
またご都合主義が・・・、何なんだこの小説
パトロールから戻った成瀬が、コーヒーを啜っていると、自分の携帯に電話がかかってきた。
こんな夜中に、誰だろう?そう思いつつ成瀬は、その電話に出た。
「はい、もしもし・・・。」
「成瀬か?俺だ。」
低い声が話しかけてきた。成瀬は、その声に聞きおぼえがあり、すぐに誰かに気が付き、名前を呼んだ。
「あー、岡本さんですか。ひさしぶりですね。」
岡本は、成瀬が駐在になりたての頃の先輩で、色々な事を教えてもらった人であった。
そして、間もなくして岡本は昇進し、警部補になったが、二人はしばしば連絡を取り合っていて、たまに一緒に食事にも出かける。
しかし、ここ一年は疎遠になっていた。成瀬は、ひさしぶりに聞いた旧友の声が嬉しくて、つい気持ちを弾ませる。
「どうしたんですか?こんな時間に。あ、そうだ。この前、良い飲み屋を見つけたんで今度行きませんか?」
「いや・・・、悪いが、その話はまたにしよう。実は、聞きたい事があってな・・・。」
「・・・何でしょうか?」
いつもは陽気な岡本の声に、影が差したので、成瀬は只事ではないと悟った。
「いや、実はな・・・、ある事件があって・・・、」
岡本は簡潔に、かつ手短に今日の事件について話した。しかし、成瀬が混乱しないように、幽霊まがいの話はしなかった。それを聞いて、成瀬は驚きの声を上げたり、しきりに頷いたりする。
その場にいた成瀬の後輩は、何事かとその様子を見ていた。
「成程・・・。それで、なんで私のところに電話を・・・?」
「実はな、被害者がハンカチを持っていたらしいんだが、それだけが現場から発見されなかったんだ。白いシルクのハンカチらしい・・・。
見つかれば、有力な手掛かりになるかもしれない。そっちに届いていないか?」
そう言われて、成瀬はすぐに思いあたった。一応確かめるために、一つ質問をした。
「・・・確か被害者の名前は、“EMA”でしたよね・・・?」
「あ、ああ・・・。」
それを聞いて確信を得た成瀬は、「少し待っていてください。」と岡本に伝え、落し物を保管している机から、先程拾ったハンカチを選び出す。
「ありました・・・。」
「本当か・・・!なら、今からそれを取りに・・・、」
「いえ、私の方が行きます。」
岡本が全て言い終える前に、成瀬が答えた。岡本は、予想外の言葉に少し驚き、しかしそれは悪いと思い、
「いや、私の方が取りに行くべきだろう。」
「でも、岡本さん、大変なんでしょう?こんな事件、マスコミも放っておかないでしょうし・・・。」
確かにそうであった。無論、妙な騒ぎを起こさぬように、死体の発見時刻より後に被害者が他の人に会っていた事は伏せるつもりではあるが、あの祭りで死者が出た事だけでもとんでもない話題になる。
それに今、まさに別室で他の刑事がマスコミに、事件を話している頃である。明日になれば、より多くのマスコミが来るに違いない・・・。
「大丈夫ですよ、そちらにつくまで、自転車使えば一時間もかかりませんし。」
成瀬の言葉に、岡本はもう一度よく考えて
「すまんな、頼む。」
「分かりました!すぐに向かいます。」
それを聞くと、岡本は電話を切った。
成瀬は残ったコーヒーを飲み終え、後輩に交番を頼み、例のハンカチを小さい茶色のバックに入れて、肩から掛ける。そして、自転車の鍵を開け、多少明るくなってきている道を進んだ。
「全く・・・。予感があたっちまった・・・。」
成瀬はそうぼやいて、コンクリートの道を進む。やれやれ、自分の勘も侮れないな・・・。そう思って、自嘲ぎみた溜息を吐く。
それにしても、犯人は・・・、何故、祭りの会場に死体を置いたのであろうか?
実は、成瀬はこの疑問に対して、自分なりの解答を出していた・・・。そう、先程、ハンカチを持っていく事を引き受けた時に・・・。
(犯人は、意図的に今回の事件を大きく広げようとしているのではないだろうか?成程、死者を弔う祭りで、死体が出たとなればマスコミがこぞって駆け付けるだろう。
しかし、だとしたら事件を広める理由は何だ?ただ単に、自分の犯罪を誇示する愉快犯の仕業なのか・・・?
それに、何故被害者の家を燃やした?タイミングから考えれば、殺人とこの件は同一犯の犯行だ。しかも、これには時限発火装置が使われている・・・。先程仮定した愉快犯がそんな事をするとは到底思えない・・・。
もしかすると、犯人と被害者は顔見知りなのかもしれない。そして、被害者とのつながりを隠すために、自分の痕跡もろとも被害者宅を燃やしたのか?
それに・・・、)
その時、少し自転車が傾く。おっと、いけない・・・。刑事が、考え事しながら自転車をこぐとは・・・。
その後は、自転車をこぐ事に集中し、警察署に急いだ。五十分ほどこぎ、警察署まであと少しというところの、太陽の光がかなり遮られている路地。ふと、この先の角の向こうから物音が聞こえた・・・。
何だろうか?その物音が気になり、自転車を止めて、そこに近づいた。
警察ではあるし、一応確かめなければなるまい。そう思って、角を覗き込む。
ガツッ!鈍い音がなる・・・。それと同時に、体が地面に倒れこんだ・・・。最初は頭に冷たい感触がし、それがじわじわと痛みに変わっていく・・・。
一体誰が・・・?そう思って振り向こうとしても、全く体が動かない・・・。次第に、目の前が真っ暗になっていき、意識が薄れていった・・・。
皆さんに推理できるよう、ちょくちょくヒントが出てます