5・幽霊
今日はここまで。感想くださればこの上なき喜びにて御座います。
「刑事さん?」
それを聞くと、純達は警戒を解いた。しかし、すぐに純は疑問を言う。
「でも、警察が僕達に何の用ですか?」
「その件については、車で移動しながら話しましょう。乗ってください。」
岡本は運転席から捜査して、後ろの座席の鍵を開ける。
「え、嘘・・・。マジ?」
栞は、すぐに帰って寝たかったが警察に協力しないわけにもいかず、渋々車に乗り込んだ。
続いて、涼が乗り込んだが、社内に蔓延する煙草の煙に咳き込み、すぐに上半身をひっこめた。
「あ、申し訳ない。」
岡本は車の灰皿で、煙草の火をもみ消し、全てのサイドウィンドウを開けた。
涼は、少し怪訝な顔をしながら、ゆっくりとその車に乗り込んだ。多少咳き込みはしたが、何とか腰を下ろす。
最後に純もその中に入り、車のドアを閉めた。車内にはエアコンがかかっており、外より若干涼しかった。
「よく、ケホッ、大丈夫だね。栞。」
「私のお父さんってヘビースモーカーじゃん?それで慣れちゃって。」
岡本は全員が乗った事を確認すると、アクセルを踏む。
「それで、僕達に何の用でしょうか?」
純がそういうと、刑事さんはゆっくり口を開いた。
「今日の夕方頃、エマ・ジョエリという女性に会いましたよね?」
「は、はい。会いました。あの、・・・エマさんがどうかしたんですか?」
栞がそう言うと、岡本は一瞬躊躇い、大きく息をついてから、ゆっくりと、確実に聞き取れるようにはっきりと言った。
「亡くなったんです。」
「・・・え?」
純達は一瞬、頭の中が空になった。何も考えられなくなった・・・。
最初は自分の耳を疑い、その次に、これはあまりにも眠くなって、現実と夢の区別がつかなくなっているのではないかと考えたが、それも違うとわかった時、多大な混乱が一堂の頭に押し寄せた。
「え、あ、あの、その、それって・・・、えっと、あの・・・。」
栞はもう一度聞き返そうと試みるが、驚きのあまり言葉にならなかった。純にいたっては、声すら出せず口をパクパクさせる。
やはり、一番最初に冷静さを取り戻したのは涼だった。涼は、静かに言った。
「何故、亡くなったんですか・・・?」
涼自身、今だに信じられなかった。ついさっきまで、笑い合っていた人間が死んだと聞かされて、すぐに信じられるわけがない・・・。
「殺されたのです・・・。胸を刃物で刺されて・・・、ね・・・。」
岡本もゆっくりと答える。同時にそれは、聞き間違いなどではなかった事を、三人に伝える言葉でもあった。
「殺された・・・。」
純が、そういった瞬間、場の空気が一気に重くなった。前の信号が赤になったので、岡本はアクセルから足を離し、ブレーキをかける。
暗い車内を、赤い色だけが照らす・・・。そんな息苦しさの中、岡本は片手で髭を弄びながら続けた。
「ええ。しかも、遺体は燃やされていました。黒焦げにね・・・。口の周りに煤がついていなかった事から、おそらくは死後に・・・。」
岡本はそう言いながら、憤りを感じていた・・・。人を殺したうえに、その遺体を焼くなど・・・。岡本は煙草でも吸って、気分を紛らわそうと、自分の懐から煙草とライターを取り出そうとして、手を止めた。
岡本は後ろを向き、涼を見た。涼はそれに気づき
「あ、別にいいですよ・・・。」
と言った。岡本は「悪いね。」と言って、懐を探り、煙草の箱を取り出し、その中から一本取り出して咥えた。続いて、ライターを取り出そうと、懐を探る。しかし、車内が赤から緑に変わってしまったので、ライターは取り出せなかった。
片手で探ろうとも思ったが、片手離しで運転するのは、警察らしからぬ行為だと考えて我慢した。
岡本は、ついていない煙草を咥えながら続けた。
「死体は、祭りの会場の茂みの中にありました。死体の周りには、被害者のものと思われる荷物が落ちていて、そこにあった保険証とアパートの鍵から身元が分かりました・・・。」
栞には、ほとんどの会話のやり取りが聞こえていなかった・・・。頭にあるのは、驚きと、混乱と、そして、・・・友達が死んだ深い悲しみだけだった・・・。
たった、数時間だけだったが楽しく会話をした・・・、親友の死・・・。栞は、目元が熱くなっていくのを感じていた。
純は、栞よりかは冷静であったが、やはりひどく動揺していた・・・。
そんな中、涼だけは冷静さを保っていて、ゆっくりと岡本と言葉を交わす。
「僕達の事は、一体誰に聞いたんですか?」
そうは尋ねたが、涼には既に検討が付いていた・・・。涼達とエマ以外に、涼達とエマが会った事を知っている人間は一人しかいないからだ。
「鳥辺杉道という眼鏡をかけた男です。」
「やっぱり・・・。」
「しかし、その鳥辺という男の証言に、少しおかしな点がありましてね・・・。」
「おかしな点?」
「ええ、そこで、お手数ですが・・・、今日のあなた達の行動を、順を追って説明してくれないでしょ
うか?」
涼はそう言われて、少し顎に手を当ててどう説明をすればいいかを考えてから、ゆっくりとそれを言葉にしていく。普段の彼とは全然違う、大人びた言い方で・・・。
「まず、今日の午後一時、幽霊を見ようとS地区に三人で行きました。その後、ゆっくりと待っていたら鳥辺さんと、エマさんが僕達に話しかけてきたんです。午後七時頃でした。
その後、少しの間一緒に話していたのですが、午後九時頃、友達から電話がかかってきた鳥辺さんがまずその場を離れ、一時間後、同じく電話がかかってきたエマさんも、急用と言ってその場を離れました。
その後、僕達は午前四時までS地区にいて、もう待ってても仕方ないと思い、その場を離れ、帰る途中であなたと会いました。」
岡本はその言葉を聞いて、鳥辺の言い分が正しい事を確信した。それと同時に、あまりにも非現実的な事態が起きている事を、認めざるをえなくなった。
「それで、鳥辺さんのおかしな証言って何ですか?」
「鳥辺さんの証言はこうです。午後六時頃、自宅を出て、いつもの通り、幽霊スポットに向かっている最中、エマさんに出会い、一緒に行こうと誘った。
そして、午後七時頃君達と出会い、二時間ほど会話した後、約束をしていた友達から電話が来て、君達と別れ、三十分後に友達のいるT地区についた。そして、午前一時頃、何気なくつけたラジオからこの事件の事を知った、と・・・。」
「それの、どこが・・・、おかしな証言何ですか?どこも矛盾してないと思うんですが・・・。」
黙って聞いていた純が、口を開いた。今車内に聞こえる音は、会話とこの車自身のエンジン音だけだった・・・。
岡本は、ハンドルを回しながら話す。
「・・・死体を発見したのは、祭りを見に来た地元の人間でした・・・。カメラが茂みの近くに落ちていて、その近くにウェストポーチ、その近くにボストンバックと辿っていくと、死体に行き着いたとの事です・・・。」
車内がまた赤くなり、エンジン音が小さくなる。岡本は懐から、ライターを取り出す。
「そして、死体の発見時刻が・・・、」
岡本はライターで煙草に火をつけ、一回大きく息を吐く。ニコチンを肺に補充してから、ゆっくりと、自身も確かめるように話した。
「午後八時、なんですよ・・・。」
その瞬間、三人を無音が包んだ・・・。三人に、エマの死を告げられるのと同等、もしくはそれ以上の驚きが押し寄せた。
「そ、それっておかしいじゃないですか!」
栞は、大声を張り上げた。自分の頭に浮かびそうな、恐ろしい考えを振り払うように・・・。
「だってそうでしょ!私達は午後十時にエマさんと会ってるのよ!そんなはずないよ!」
岡本も、おかしい話である事は重々承知している。しかし・・・、
「事実です。」
岡本は自分に言い聞かせるようにそう言って、車に備え付けられている灰皿で吸殻をもみ消した。
「しかも、祭りが始まってから死体を置くのは相当困難です。祭りの準備などの時間も含めると、昨日
の深夜頃、あそこに放置されたものだと・・・。」
三人の頭の中には、ある共通の言葉がまわりまわっていた・・・。
この町の人間は、お経が始まる午後7時までに祭りに到着する事。
この掟を破ると、霊が成仏しきれず現生に残る・・・。
「って事は・・・、僕達が見たのは・・・、」
・・・本物の幽霊・・・?
1に書いたようにもう書き終えているので、暇があれば投稿します。