15・あなた達だけは・・・
最終回~
鳥辺は、口を閉ざした。日差しは雲に隠れ、部屋は少し暗くなる。鳥辺を除く全員に、言い知れぬ感情が走った。怒りでも、同情でもない・・・その感情が、全員の心の中を支配していく・・・。
涼も、先程までの勢いは何処かへ行ったようで、複雑な表情で鳥辺を見る。
鳥辺は、椅子の背もたれに完全に体重を預け、両手をダランと下ろし、天井を見て言った。何もかもに、疲れ果てたような・・・、そんな声で・・・。
「白川君の、言う通りだよ・・・。僕は、妹の気持ちよりも・・・、自分自身の激昂を優先してしまったんだ・・・。復讐でも、何でもない・・・。ただ、自分の怒りを鎮めるためだけの・・・、自分勝手な行動さ・・・。」
鳥辺の涙は、既に乾いていた。部屋に響き渡るのは、再び出てきた太陽に喜びの声をあげる鳥と蝉の声のみ・・・。事件の最後には、あまりにも似つかわしくない状況だった・・・。
「お願いが・・・、あるんだけど・・・。」
弱々しい声が、鳥辺の口から出た・・・。
「もし、僕のせいで・・・、妹が、妹の写真が・・・、世に出られなくなっても、あなた達だけは・・・、妹を・・・、応援してくれないか・・・?」
絞り出されたようなその声に、皆は一瞬押し黙る。しかし、涼はすぐに力強く答えた。
「必ず!」
そう言って、体の前に右手で握り拳を作った。その言葉に、純、栞、岡本は頷く。
「ありがとう・・・、ございます・・・。では、刑事さん・・・。」
鳥辺は力無く微笑むと、岡本のもとにしっかりした足取りで歩み寄った。
「では・・・、行きましょう。あ、君達は・・・、まだ少し、ここに居てくれ。」
鳥辺の背中に手を当て・・・、岡本は鳥辺とともに部屋から出て行った。
その後は、もう少し話をしただけで解散となった。帰りの砂道で、純達は事件の事を話していた。
「ところで、涼?ハンカチの汚れを聞いた時に、あんな回りくどい聞き方したの?“例えば血とか?”って。普通に口紅がついていなかったか、て聞けばよかったじゃん。」
栞の問いに、涼は頭を振る。
「口紅を拭きとってもさ、薄い跡しか残らないでしょ?そういう薄い跡ってさ、後から思い返すと、あったようにも思えるし、無かったようにも思えるものじゃない!
その点、血なんてインパクトの強い物なら、付いていたかどうかを間違うとは思えない。
別に駐在さんの記憶力を疑ってたわけじゃないけど、頭も殴られてたし、何か付いているかどうか確かめるには、そう聞くのが確実だと思ったんだ。」
「へー、成程ね・・・。」
栞は感嘆の声を出し、感心したように頷く。
「でも、涼?良かったのか?事件が解決したのは涼のおかげなのに。マスコミに言えば、お前一躍有名人だったんだぜ?」
その話は、先程岡本と話した時に上がったのだが、涼はそれを丁重に断った。
純と栞は、長い間涼に付き合っているから知っているが、案外涼は目立ちたがり屋な部分がある。それだけに、涼が即答したのには驚いた。
「だって、面倒臭いじゃないか。マスコミも嫌いだし・・・。だから、推理の時だけでも精一杯目立
とうと思って、ポーズとかつけたんだけど・・・。今、思い出すと恥ずかしい・・・。」
涼は顔を赤くして、俯く。この瞬間、二人のからかい魂に火が点いた。
「いやー、あの時の涼は、マジ傑作だったな!」
「そうそう、こんなポーズとっちゃって!“あなたは愚かです!”。」
栞は、涼がとったポーズと同様、胸を張り、両手を広げて、夕空を見上げながら、涼の声真似をする。
「やめてよー!」
涼は、ゆでダコのように赤くなりながら、栞のポーズを解除するよう要求する。
「そうだぞ、栞。Aカップの胸なんて張られても、嬉しくもなんともグハッ!」
純の言葉に、栞の怒りの鉄拳が頬を直撃する。
「訂正しなさい・・・!今言った言葉・・・!」
ダークなオーラを放ちながら、笑顔で要求する栞の表情は、地獄の鬼でも逃げだしそうなほど恐ろしかった・・・。
純は、殴られた部分を腕で擦りながら“すまん、すまん。”と言って立ち上がる。
「間違えた。もう一度言いなおそう。
栞、AAの胸なんぞ張られてもグハッ!」
「ふざけるな!」
聞いてて分かる通り、栞はいつも胸の膨らみが小さい事をネタに、純にからかわれている・・・。
栞は倒れた純の胸ぐらを掴んで、無理矢理立たせる。
「誰の胸が絶壁だって?誰の胸が平原だって?」
「いや、誰もそんな事まで言ってない!無いから!」
「無い・・・?」
“無い”という言葉に、栞は過剰に反応する。純は慌てて口を抑えるが、時既に遅し・・・。栞の後ろのダークオーラは、かつてないほど極限まで膨れ上がっていた。
「誰の胸が無いって・・・?」
「いや・・・、そんな漫画みたいな勘違いをしないでくれ・・・!」
「問答無用!」
「あああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
数分後、栞のお仕置きが終わった。
「大丈夫・・・、純?」
「大丈夫じゃない・・・。」
頭から湯気を出して、倒れている純に涼が声をかける。
「ふん、自業自得よ。」
「今度からは、お気に障らないように最善の注意を払います・・・。」
純は、倒れた状態でそう呟く。栞はそれに頷くと、夕陽の方に目をやった。
「しかし、残念ね、涼。幽霊の仕業じゃなくてさ・・・。」
「別に。残念だなんて思ってないよ。」
「嘘つけ、どうせ今も“不老不死になれたらなあ”とか思ってるんだろ?」
「いや、不老不死は御免だよ。」
涼は、頭を振ってそう言った。
「何で?」
「じゃあ聞くけど、期限が無い宿題出されて、それをやる?」
「・・・、いや、しないけど。」
「同じく。」
質問の意図がよく分からなかったが、純と栞は思った通りに答えた。
涼は、満足したように頷く。
「それと同じだよ。何をするにしても、それに期限が無いと、人間はそれをやろうという気持ちが薄れるんだ。
例え不老不死になったとしても、絶対に退屈な日々が続くだけだと思う。
それなら、死ぬまで、自分のしたい事、やりたい事をたくさんした方が、絶対楽しいと思うんだよね。期限があるから、人間はそれに向かって頑張れるんだから。」
涼はそう言って、ニッコリと微笑んだ。夕陽のせいか、その顔はとても輝いて見えた。
純は家に帰り、自分の部屋で涼の言葉を思い出していた。
「期限があるから頑張れる・・・、か・・・。」
純は勉強机の前に座ると、筆記用具とノートを取り出す。
「だな・・・。まあ、当面は涼と栞と同じ大学に入れるよう頑張ってみますか・・・。」
だって後二年しかないのだから・・・。
ここまで来て明かされた真実
「実は栞は貧乳だった!」
しょうもねー\(゜ロ\)(/ロ゜)/
皆さん、この章まで読んでくださりありがとうございます
それと、この次の章ですが、そちらではこの小説をどのような思考回路から編み出したか、のうのうと書こうと思います。
こういう小説をみると、作者がどうやってこういうの思いついたのか、結構興味わくんですよ、自分だけかもしれないけど
なので、僕と同じくそういうのに興味がある人は次の章も見てください