10・食い違い
問題編ラストです
この二日間、何処に行っても話題はあの死体の事でもちきりだった。警察が手をまわしたため、死体発見時刻にまだ被害者が生きていたという情報は伏せられていた。しかし、祭りで死体が出たからというだけの情報でも、マスコミは喜び大変な騒ぎになっていた・・・。
テレビを点ければ、やれ呪いだの、やれ祟りだの・・・。マスコミは祭りに行かなかった人に、重点的に取材をしていた・・・。しかし、幽霊騒動の事はマスコミに漏れていていないので、純達が祭りに行っていない事は伏せられている。
とは言え、マスコミは取材に来る。最初は何処かしらで情報が漏れたのかと純は思ったが、近くにいる住んでいる人間としてどう思うかという内容の取材であった。
純は、毎日を怯えて過ごしていた・・・。学校の授業は集中できず、意味もなく空を見上げていた・・・。
栞も同じような感じだったが、何故か涼だけはいつもと変わらぬ態度でいた。涼と長く一緒にいる栞も、驚かずにはいられなかった・・・。
最初は気がつかなかったが思い返してみれば、涼はひどく大人びた口調で取り調べの時に話していた。いつも、子供っぽく、明るい涼からは考えられない姿・・・。栞はそんな涼にも、少し恐怖を感じていた・・・。
その涼も、努めて明るくふるまっていたが・・・、実際は気が気でなかった。
(やっぱり幽霊なのかな・・・?)
じゃなきゃドッペルゲンガー?それとも・・・、
涼は、こういう非科学的な事を普通に信じている。と言うのも、幽霊がいる事は実際に皆の目の前に引きずり出せば証明できるが、幽霊が“いない”事はどのようにしても証明できないからだ。
証明できないのなら、いると考えていた方が幾分気が楽である・・・。そして、科学的に証明できないような事が起これば、それは幽霊やオカルトの類だと信じて疑わない。まさに今の状況だ・・・。
そもそも、何で幽霊の存在が否定されるのかが分からない。皆は「非科学的だから。」と言うが、それなら何故コールドスリープ(死体を冷凍保存する事)というものが存在するのだろう?
コールドスリープは、将来的に人が生き返る可能性がある、と考えられているから行う事だ。しかし、生き返るというのは非科学的な事・・・。それでも、コールドスリープがあるのは、将来的には“人が生き返る事”が科学的になるかもしれないからだ。
そう、科学的とは人間の“知っている”科学の範囲内で証明されたものである。だから、非科学的=有り得ない事ではないのだ・・・。何故なら、未来にそれを科学的に証明できるかもしれないからだ・・・。
ロケットだって、今からたった百年前には有り得ない、つまり非科学的な事だった・・・。今から数万年前、人類の中で僕達の生活を想像できた人物がいようか・・・?
現代科学では、次々と有り得ない事が可能だという研究結果が出ている。過去に行く事も理論上は可能だ。それにまだ証明、ないし反証はされていないが、超弦理論の存在により、パラレルワールドやワープさえ科学者は研究対象としている・・・。
涼にとっては、幽霊が存在している事は間違いではない。むしろ、人類が全てを知っていると考える方が間違いなのだ・・・。
それにしても、気がかりなのは口紅についているエマのDNAと指紋の件だが・・・、
(多分一致するんだろうね・・・。)
鳥辺は身体を壊して寝込んでいる妹の家に、マスコミの目を盗んで重い足取りで向かっていた・・・。時間は午後二時。あの事件の日から全く寝られない日々が続き、眼の下にクマを拵えていた鳥辺に追い打ちをかけるような暑さである。
しかし、そんな自分より妹の方が辛い思いをしている、と自分の身体に鞭を打つ。その為に会社も休んだのだ。
カナリヤ荘という、上品なマンションにつくと、念のために、一回のフロアにある空の郵便受けに書いてある部屋番号を見てから、エレベータに乗り5階のボタンを押す。少し歩いてから、鳥辺というネームプレートがある黒塗の扉の前に立つ。
ピンポーン
軽快な音が鳴るが、中から返事はない・・・。その後も二、三回鳴らしたが返事はなかった。鳥辺は、その時に胸騒ぎを覚えた・・・。
(もしかしたら、倒れているとか・・・。)
そう考えた瞬間、鳥辺の頭は真っ白となり、鞄から慌ただしく、合鍵を取り出してドアを開けた。
「おい、涼子!」
そう言って、靴を乱暴に脱ぎ、廊下を走り、妹の部屋に向かう。
「涼子!」
玄関のドアよりも軽い、木製のドアを思いっきり開く。しかし、部屋の明かりは点いておらず、黄色を基調とした部屋の隅のベッドは、もぬけの殻である・・・。しかし、今さっき布団から出たようで、布団には膨らみが残っている・・・。
鳥辺は、家の中を走り回った。台所、ベランダ、リビング・・・。しかし、その何処にもいない・・・。
(まさか、お風呂・・・?)
鳥辺はそう思って、風呂場に走った。しかし、そこにもいない・・・。
鳥辺の不安はいよいよ本物になり、家から飛び出して、大声で妹の名前を叫びながら走りまわった・・・。
そして、事件が起こってから3日目・・・。学校の途中で呼び出されて、警察署に向かった三人組と、会社の途中で同じく呼び出された鳥辺。
鳥辺は昨日の妹の一件で、不安が積もりに積もっていた・・・。
全員が、前のように会議室に集うのを確認すると、岡本警部に衝撃の事実を告げた・・・。
「DNAと指紋・・・、両方一致しませんでした・・・。」
その場に長い沈黙が訪れた・・・。皆が驚きに満ちた・・・、何とも言えない表情になる・・・。
純は訳が分からなくなり頭を抱え、栞はまるで金魚のように口をパクパクとさせる・・・。涼は天井を仰ぎ見て、静かに目を閉じた・・・。
その中で、最初に言葉を紡げたのは鳥辺だった。
「DNAが一致し・・・、ないって・・・、一体・・・?」
「つまり、あの死体とエマさんは別人という事です・・・。」
さも当然と言ったふうに、岡本がそう言った・・・。
岡本には、この事件の真相について解答を持っていた。それに、物的証拠も見つかった・・・。DNAが違う事は薄々気づいていたし、特に驚く事でもなかった。
やはり幽霊などいない・・・。今回の事件は科学的に解明できるものなのだ・・・。
岡本は、皆に事件の真相を聞かせるにあたり、どういう順番で話した方が短く、かつ分かりやすくなるかを考えた・・・。
そうして、考えがまとまり、いざ事件の真相を話そうと、椅子に座りなおしたその時・・・、
「そうか・・・。分かったぞ・・・、犯人が・・・。」
涼が口から漏らしたその言葉に、全員の視線が集中した。
(分かった・・・、全て分かった。
何故DNAが食い違うのかも・・・、何故、エマさんの部屋は燃やされたのかも・・・。何故、ハンカチは奪われたのかも・・・。何故、僕達はエマさんと会えたのかも・・・。そして、誰がこの事件の犯人なのかも・・・。全て・・・。
思えば・・・、この真相には、駐在さんが襲われた時点で気付く事が出来た筈だ・・・。無駄な時間を費やした・・・。)
涼は後悔しながらも、皆の方向を向いて、椅子から立ちあがりながら呟いた・・・。
「どうやら、今回の事件は科学的に解明できるようです・・・。」
さて、我らが涼君が真相にたどりつきました(でも、岡本は既にたどりついているみたい)。
涼君が全ての謎を整理してくれました。これで皆さんにフェアに解くべき謎が提示されています。
さて、解答編ですが来週の土曜日に上げようと思います。
それまでの間は、みなさんに感想の一言の部分に自分の推理を書いて投稿する期間とします。
犯人の名前と大まかなトリックだけでいいので気軽に推理してください(特に賞品もありませんけど)。
その感想についての返信は、解答編が終わったらまとめて返信します。
愚者の頼みですが、推理を書いてもらうことは今後の小説の参考にもなるので、できれば書いてほしいです