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修斗 → 朱莉(?) 視点。
加筆した分、文字数多め。
何でこんなことになっているんだっけ? 俺にはさっぱり分からなかった。
だいたい、スーパーマーケットってなんだよ!?
俺たちの場合、食事をするときには家お抱えの料理人がやったりするもんだ。自分でやったりする物好きな人もいたりはするが…その人だってこんなところで買ったりはしないぞ!?
常盤ちゃんの考えていることが一切読めない。
それはさっき家で話してたバイトにしたってそうだ。お嬢様なんだからバイトしなくたって親にお願いしたら、何でも買ってくれるもんじゃないのか?そう思ったりする。
こんなところに入るなんて、ボディーガードの奴らも思っても見ないだろうなーとか思ってみたり。
「にしても、明らかに俺たち場違いじゃねぇの?」
纏っているオーラとかいっていいのか、気品が高いといったらいいのか。俺たち、とにかく場違い感が半端ない。
それに学園でもお馴染みのように取り巻き (特に女性) が集まってるしさ…美形ってのも罪だなー。
「そんなの良いじゃないの? 新たな見聞が増えると思えば?」
「そんなこと言ったってよー」
「じゃあ来なければ良かったじゃないか? 修斗。溯夜にも言われてたしさ」
「いや、そういうわけにはいかないだろう?」
俺は皇城溯夜の部下その1みたいなものだしな。
「楽しめばいいんだよ。溯夜や僕、朧みたいにさ」
うーん、そんなもんか?
現に溯夜は学園では絶対にしないような笑みを浮かべている。まるで別人だな。
それと常盤ちゃんの動向を完全に把握しているらしい溯夜は、彼女が行きつけのスーパーマーケットの場所ことを分かっていたみたいだった。溯夜自身彼女のことをストーカーしてたみたいだし…もう何とも言えないや。っていうか常盤ちゃんも疑問に思わないのか。
そうして後ろからついて行っていた俺たちは、溯夜と常盤ちゃんがとても狭い場所に入るのを目撃した。
「えー、あそこに入るのかよ」
「文句を言わないの!」
ここは狭いし、良い場所とは到底いえないのに…何でこう楽しめるのか。
入って行くと、そこはお菓子売り場みたいだった。安っぽい量産品のお菓子が並んでいる。
お菓子でも買うつもりか? そう思ったが、どうやら違うようだった。
お菓子売り場一角で真剣に悩んでいる二人を発見。っていうか何を買っているんですかねー?
常盤ちゃんはそのブツをキラキラした目で見ながら高々と掲げていた。それを見るとどうやら量産品のオモチャみたいだった。
「おい、それ…常盤ちゃんが買うものじゃないでしょ?…」
いかにもそのオモチャ、ガキンチョ用でしょ!? と続けようとしたら、溯夜に睨まれた。
溯夜が睨むと、それはそれは怖いんだよなー。というか、溯夜の御機嫌とっておかないと、今後どうなるかわからないし。
溯夜には逆らえないんだよ。あいつは学園のトップだし。家的にも、俺の立場的にも。
常盤ちゃんは溯夜から選んでもらったオモチャに満足しているらしい。でも俺からしたら不思議でならない。どうしてそんなことをするのかが。
そういう物好きも他にはいるかもしれない。けど常盤ちゃんの場合、さっきのこともそうだし、外で特撮のポーズをやったり…つまり小さいガキンチョが好きそうなことをやっていたりするから、何か思い出でもあるのかねー?とか思ったりする。
それに朱莉ちゃん自身気づいているかいないかわからないけど…時折ぼーっとしているんだよねー。まるで魂が抜けているような…病気でも患っているのだろうか?
溯夜に聞いたらわかるかもしれないけど…教えてくれないんだろうなー。
+++
「店長、ごめんなさい」
「気にしないでいいぞ。それよりも身体は大丈夫かい?」
「あ…はい、大丈夫です」
あ、外向けのおじさん(今は店長代理さん)だ。
期間限定だけど、色々と条件ありでバイトに雇ってくれた。ある意味コネだけど、そんなことは関係ない。時間帯も私の都合に合わせてくれる。
元々、私の本当のお父さんとも親友だったお陰もあってか、何かと気にかけてくれる。というか、最初から家族の一員である。
「朱莉ちゃん、隣の彼は誰かな?」
「始めまして、皇城溯夜です」
「ああ、君が皇城君か」
連絡をしたのが溯夜さんだったなら、おじさんが知っているのも納得出来る。
「うーん、なるほど。そういうことか。…皇城君、朱莉ちゃんを頼むよ。朱莉ちゃんを悲しませたら、私が許さないからね」
「はい」
店長は何を見て何を納得したのか、私にはよく分からなかった。それに悲しむようなことなんて…あったっけ?
私達は今日の分の食材と、その他諸々を買い (私が払おうとしたけどお金を持っていなかったため、溯夜さんが全部払ってた) 、帰宅の途に着いた。
この時点で22時30分。もうすでに晩御飯じゃなくて夜食だね。この時間ってよく腹が空いたりするんだよねー。
「朱莉。俺に食べさせてくれ」
そうか。私を膝の上に乗せて抱きしめているから、手が使えないんだね!
「はい」
目の前にはオムライスが二つ並んでいる。ケチャップをつけた普通のもの。
何か凝ったものにしようかなー? とか思ったりもしたけど、やめた。最初はスタンダードが良いと思ったし、時間が遅かったのもある。
スプーンをすくって、慎重に運ぶ。
だってあんなフカフカのカーペットに落としたら…と思ったら、何か嫌だということもあるし、いかにも高価そうなスプーンを使っているなー。と思ったら震えが止まらなくなるのもあるし、もし溯夜さんの服なんかを汚してしまったらどうなるかなー。とか思ったり。
あっ、最後のはないかな?私がいるんだし。
この体勢でスプーンを運ぶのは無理じゃないのかな?と思ったけど、溯夜さんが腕を外してくれたから、慎重に半回転をして視線を上にあげ、溯夜さんの御口を目指す。
パクッ。
ドキドキ。
一つの作業を終えたことへの達成感と、これから始まる評価への不安とが織り交ぜになる。
溯夜さんは随分と長い間オムライスを咀嚼していた。何時の間にか、暁様や葛ノ葉様、瑞貴様も見守っていた。
「うん、美味しい」
ヤッター!! 雲の上の人にご飯を出すっていうことだから、いつも以上に頑張ったよ!!
溯夜さんなんて、凄く美味しいものたくさん食べているだろうから、凄く緊張したー!
「これだったら、この家の料理人は要らないな」
そこまで高評価を出してくれるなんて…私、感激しております!
「うわっ、美味しそうだな!!」
「それなら、私の分を食べて頂いても結構ですよ。手を付けてないですし」
忘れてはいけない。ここにいる御方々は私にとって雲の上の人物なのだ。自制自制。
「朱莉、俺の分を一緒に食べよう」
「良いんですか!?」
「俺が食べさせてあげよう」
綺麗な手が優雅な動作でスプーンを持ち、すくい、私の口へと持って行く。
パクッ。
「良かった! 上手く出来てた!!」
万が一、溯夜さんが遠慮を聞かせてさっきのことを言っていたのであらば、申し訳ないと思っていたところだよぉー。
「良かったな。朱莉」
見上げると至近距離に端正な御顔が満面の笑みを浮かべていた。