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昼休みも終了真近。溯夜さんは教室まで送り届けてくれた。
あんな出来事がおこって、今日は中止になるかと思いきや、溯夜さんは放課後来ると言った。
ダンスの練習はやるらしい。
筋は良いとは言われたけれども、いつもとは勝手が違うから、混乱する。何とも言えない感覚がするんだよね~。何に例えて表現すれば良いのか、分からない。
学園が開催するのは、ヨーロッパであるような舞踏会に似たイメージつまり社交場らしい。前半が学生さん諸君、後半が大人も交じるとのこと。
誰かに連れられて行くことになるけど、エスコート役は誰がやるんだろう? 溯夜さん…かな? それともぼっちか。
溯夜さん以外踊る気はない。あくまで恩返しというふうに考えているし、他の人とは馬が合わないだろうし。
特撮の悪の現場で起こるような徹底的な階級社会がそこには存在する。
悪の組織って格差社会が激しいことが多いような気がする。それって、この学園にも当てはまることだ。
溯夜さんを頂点に当てたピラミッド構造。その真下に執行部の皆様が幹部として居座っている。その下の皆さんも身分に応じて役職が与えられていることだろう。高い身分ほどふんぞりかえることが多いよね。
でも、トップに君臨している溯夜さんがあまりふんぞりかえっていないような気がするのは気のせいだろうか。トップの威厳は身につけられているが、理不尽な命令を下の皆様方に下すわけでもないし…
こう考えたら、理不尽な命令を下さないことが、溯夜サマの圧倒的人気につながっているのかもしれないなぁ~
おおっと。
ダンスの話題をしていたのに、何時の間にか特撮のことについて語り出していたな。いつものくせだ。
エスコートの件だけど、さすがに最初の最初っから溯夜さん…というのはなぁーと感じたりする。最初っからクライマックスしていたら、最後の方撃沈しているだろう。
それに、晴れ舞台だし…メイクアップもする。親しい誰かに見てもらいたいという気持ちが、私の中にはあった。
だから、まだ誰にも言っていないけど、いつもの通り前半パスして、後半だけ出て護にエスコートしてもらおうかな…と思っている。嫌がるだろうけど…護に私の晴れ姿をみて欲しいな。という気持ちは私の中には存在する。
護はダンスを踊れるだろう…経歴を考えると。仕事の関係上、断られるかもしれないけど…一応お願いしてみよう。
そして、溯夜さんとダンスを一回踊り、即座に退散…と行こうではないか。そんなときは護がいた方が非常に頼りになるし。
後半の方が人が多いが、その分注目度が減るんじゃないのかな? 親同士の付き合いだってあるだろうし。
注目されることはイコール面倒臭いことだと私は知っている。逃げるが勝ちなのだ。
うん。これ我ながら、良い考えではないだろうか?
というわけで、今は放課後。
約束通り、私はダンスの練習に行こうと歩を進ませていた。
「異父姉さん!!」
と、廊下を歩いていたら、皆のアイドル姫香ちゃんから声をかけられた。
「姫香ちゃん? どうしたの?」
向こう側から声をかけてくるなんて、珍しいね。姫香ちゃんは私のこと嫌っているしね。
「昼間の出来事…どういうことですの?」
「どういうことって?」
ええっと、確か、昼ごはんは珍しく生徒会執行部の皆さんと食堂で食べたんだっけ? 何食べたか忘れたけど。
何か話したような気がするけど…もやがかかったように思い出せない。何の話をしてたっけ?
「異父姉さんは皆の夢を踏みにじっているのよ!! そのことを御存知!?」
「踏みにじる? ただ食事をしただけなのに?」
「 “ただ” !? 生徒会執行部の皆様方と御一緒に御食事をすることが、どれだけの価値があるのか異父姉さんは全然わかっていない!! この知らせを聞いて泣いた女子もいるというのに!!」
うーん。話が噛み合っていないような感覚がするね~。
私はただ溯夜さんと食事を取った…それだけなのにねー。
過剰反応すぎるよ。本当。
「何で泣くの? よくわかんないんだけど」
「……………もう良いですわ。異父姉さんにはどう言ったって通じないことが分かりましたから。
それよりも溯夜様はどこにいらっしゃいますの? 御話ししなければならない重要な用件があるのだけれど」
「今、私が向かっているところに行けば会えるとおもうけど…」
「丁度良いわ。理不尽だけど、異父姉さんに同行しましょう。目的地は同じだし。異父姉さんが向かっている場所はどこ?」
「んとねー。ホールだよ。ホールで瑞貴様と合流してから、ドレスに着替えて練習…」
「ちょっと待ちなさい!! 異父姉さん、全く分からないわ。ホール? ドレスに着替える?? 何それ?」
姫香ちゃんが形相を変えて聞いてきた。
ああ、そういえば姫香ちゃんに説明していなかったな…
別に隠すような用件でもないし…ここで話しちゃおうか。
「パーティーで溯夜さんと踊ることになったから、ダンスの練習をしているの」
私がそう言ったあと、姫香ちゃんは固まった。




