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26:side修斗

「えっ? ということは、つい最近転校したってこと?」


俺は疑問に思って質問した。

ということは、常盤ちゃん一年生の途中から入ったってことになるよな?


別にここは、お金持ちの御曹司やお嬢様が多いっていうだけで、そうじゃない人もいる。けど、そういうやつはごくごく少数派だ。だから、大人数に則したプログラムが編成されているわけだが…

他意はない質問で、別に見下しているつもりはなかったが、どうしても気になった。


「ええ、そういうことになります。空気のように存在感を消していたのも、醜態を知られたくなかったから………かな?」


醜態を知られたくない? 何それ? 一体全体、どういうことだ?


「…ねぇ、常盤ちゃん。俺には理解出来ないんだけど。そこんとこ。醜態を知らせたくなくて存在感を消すってところがそもそもおかしい」


「………はぁ」


歯切れの良くない彼女に、俺はイラついた。

自分の主張を受け入れてもらったんだからイラついたんじゃなくて、最初っから聞く気の持たない態度を保っている彼女にイラついた…と言ったほうが正解だ。


「自分の恥ずべきところがあるなら、頑張って克服すれば良いことだろう? でも、今まで常盤ちゃんはやってこなかった。それって、ただそのことを理由にして逃げているだけだ。俺だったら…決してそんなことしないけど」




新しい環境下に入ったら、その環境に馴染もうとするのは当然の行為だと俺は思っている。だって、そっちの方が楽しいし、ずっと苦しまなくて済む。絶対に楽なはずだ。

でも彼女は何もやってない。存在を隠すことによって逃げ続けた。その行動自体が俺の理解の範疇外であり、意味不明なことだった。


大体、よく考えても見ろよ。

常盤姫香率いる溯夜のファンクラブが朱莉ちゃんを詰ったとき、友達の一人や二人作っておけば、一方的に詰られて暴力を振るわれることなんて無かったんじゃないのか?

あの構図が常盤ちゃんが何もせずに逃げ続けた結果だとしたら?


そうしていたならば俺たちが介入しなくても、もしかしたら丸く収まっていたかもしれない。

少なくとも暴力沙汰にはなっていないはずだ。


常盤姫香と仲が悪いのも、もしかしたら妹の方に原因があるんじゃなくて、目の前にいる姉の方に原因があるのかもしれないな。




「はいはい。修斗、そこまで」


「貴方、熱くなりすぎよ? もう過ぎたことだっていうのに…今はそんなことしてないでしょ?」


「だってよ~。俺は常盤ちゃんの考え方がちっとも理解出来ねぇんだもん。努力を始めっから放棄するなんてさ。俺も、馨もそうだけど、必要最低限の努力はしているんだぜ」


馨と朧が発する最終警告をことごとく無視して話しているうちに、俺は溯夜の顔が段々と険しくなっていることにも気がつかなかった。


「それをしようともしない常盤ちゃんは、集団から目の敵にされるのも当然の成り行きじゃ…」


「修斗」


「? 何だよ~溯夜ぁ、今一番重要なとこ…」




くどい(・・・)




溯夜の冷血な視線に今更ながら気づき、俺はハッとした。今、俺は常盤ちゃんを侮辱するような言動を発しようとしてたんじゃ…?




「お前のそのちっぽけな(・・・・・)常識に、全ての事例が当てはまるわけがないだろう? 結論を自分勝手に決めつけると痛い目に合うぞ…今のようにな」




溯夜が溺愛して囲い込んでいる相手に対して、侮辱しようとするなら溯夜が黙っているはずがない。

そんなことわかり切っていたはずなのに。




何故こうなった?

常盤ちゃんの言動が思った以上に腹に落ちなかったせいか?




何時の間にか、楽しく談笑していた場はすっかり冷え切っていて。それ以上に溯夜の眼光は冷え冷えとしていて、容赦無く俺を射抜いていた。

その後、すぐに溯夜は常盤ちゃんを連れて、俺の前から去った。俺に対して一切の許容も許さないような眼光を向けたままで。




溯夜に怒られた。それだけが、心に鬱々と残ってしまう。今更ながら、自分の仕出かしたことに身震いする。


溯夜は俺や馨に対しては滅多なことじゃ怒らない。

でも今回は言動と、視線と…行動と雰囲気によって、腹を立てていることが目や耳や肌をもってして充分理解出来た。

こんなこと、今までになかったことだ。あの冷酷な、相手を人として見ていないような眼光を俺が受けることになろうとは、思いもしなかった。


「どういうことなのよ!! 折角の楽しい食事会が台無しじゃないの!?」


「………ごめん」


「その言葉は、常盤さんにいうことだね」


「………あぁ」


散々な言われよう。まぁしょうがないか。俺が悪いんだし。


「とにかく、移動しよう。生徒会室は空いているけど、人が来る可能性があるからね…どこか部屋を借りよう」


俺はここにいる人間全てが注目していることにすら、気づいていなかった。溯夜の発した冷ややかな眼光と言動によって、周りは静まり返っていた。






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