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御曹司の興味物(なろうver)  作者: 鶯花
閑話Ⅰ:内情と外情
25/32

24:side修斗

分割しています。だいぶ改稿しています。

それは衝撃だった。それ以外の何物でもない…と俺は思った。

“パシッ!!” という音が聞こえてきそうなほどに彼女は叩かれていた。叩かれ、殴られ…それはそれは酷い映像だった。


最初は衝撃を受けた。でも少し経ってから怒りを覚えた。


『あのウジ虫どもが!!』


溯夜がそんな風に人を罵った。そんなこと初めてで俺は少し驚いた。


『全く貴方たちは御自分の感情だけに正直なのね!』


『ああ、俺もそう思うぜ!!』


朧の悪態に、俺は頷いた。

その時俺は、 “誰かが感情的に暴力を振るった” ということだけ考えていて、その “誰か” には目が向かなかった。というよりも、向くことが出来なかった…というのが正しいのかもしれない。

に対して暴力を振るったというこの “事実” に対して、そのとき脳が受け付けなかった…と思う。




「でもな、少し経ったあとに…気がついたんだ。俺はこの “事実” がどうしても受け入れられない」


他の人からみれば、12歳の少女になんて重い話を聞かせてるんだと憤慨する輩もいるかもしれない。

でも、真矢は身体が不自由な代わりに、年相応ではない難しい本を良く読み、家に迎えられた家庭教師から勉学を教わり、これくらいの相談を理解出来るほどの聡明さを身につけていた。

外見上は年相応だが話をすると…俺よりも年上のような感覚がするのだ。

決して外見だけで判断してはならない。


「どうしてですか?」


「どうしてって………だって兄弟というものは、仲良くするものだろう?」


俺にはその固定概念が頭の中に既に根付いていたのだ。俺自身、妹の真矢とは仲良くしているし、他の兄弟姉妹もそうだ。


「仲良くしないとしても、兄弟姉妹同士気にかけて声を掛け合ったりするもんだ。つまりそれらは友達とは違うある一種の信頼関係を築き上げるもんだろ? そこに悪意を向けるなんて有り得ない」


“妹が姉を悪意を向けて暴力を振るう” それ自体が普通、この世の中では考えられないことではないだろうか?

じゃれ合いでそんなことをするのならまだ分かる。でもな…




あれはやり過ぎだ。




一歩来るのが遅かったら、大変なことになってた。痣だけですんだのが奇跡的だった。

そんな暴力。

つまり、じゃれ合いなどではない。




ーー本当に痛めつける目的で、暴力を振るっていた。




俺も家柄上、 “痛めつける暴力” と “痛めつけない暴力” を知っている。常盤姫香のとった行動は間違いなく前者である。


「…お兄様は兄弟姉妹という存在がそもそも互いに憎悪を向ける対象であるはずがない、つまりそんなことは有り得ないと考えていらっしゃるわけですね」


「そうだ。だって、俺は真矢を殴ろうなんて思いもしない。血の繋がった存在である以上、一生付き合っていく相手になる。だから大切にするものだろう? 喧嘩しても、友達とは違ってすぐ仲直りするものだろう? だから、何故常盤姫香が実の姉に対して(・・・・・・・)暴力を振るったのか、理解出来ない」


結構悩んだんだぜ、俺。あの異常な光景を見て、少し日にちが経ったあと、溯夜も馨も朧も何で疑問に思わないままでいられるんだろう? って思ってたんだぜ。でも、誰もそのことを口にすることはなかった。まるで、禁句であるかのように。


「どう思う?」


だから、部外者である真矢に相談したということだ。当事者でないし、この天使は客観性に優れている。だから適切な判断を下してくれると思った。


「…お兄様、お兄様御自身の考えていらっしゃる理念が全てに当てはまるわけではないと思いますよ」


天使はそう切り出した。俺はその妹の仕草が神からの啓示のように思えてならない。


「例えば、家庭の事情が絡んでくるとしたら…そうではないはずです」


「常盤朱莉と常盤姫香が義理の姉妹である可能性か?」


「そうです。お兄様のお話を聞いていると…その可能性は無きにしもあらずだと思いますよ」


真矢は常盤朱莉と常盤姫香の外見と性格が違い過ぎることを上げた。確かに…その通りだな。


「お兄様はどうしたいのですか?御二方の仲を改善したいのですか?」


「いや…そうじゃない。ただ…気になっただけだ」


何故あそこまで憎悪を向けられるのか、ということを。

何回でもいうが、普通の兄弟姉妹の関係性であれば、あんなことなど…絶対にしないだろう。


「では、あまり考えないことをオススメします。姫香さんが何故姉である朱莉さんに憎悪という感情を向けているのか…それ自体が分からなければ何も分かりませんし、家庭的な事情も高確率で絡んでくると思われますから」


「根本的なことが分からない以上、悩んでもしょうがないと?」


「そういうことです」


“あまり考えるな” …か、成る程。


「でも、お兄様の考えはおかしいと思いますよ。さっきも言いましたけど、万人がそれに当てはまるわけがありませんから」


「全てに当てはまらなくても、大多数には当てはまるだろう?」


そう真矢が言っているが、やっぱり気に食わないものは気に食わないのだ。俺たちが仲が良いから、尚更のごとく。

真矢は俺の言動に納得がいかない顔をしていたが、やがて諦観したようで、こう言った。


「もうこの話は平行線を辿りそうなのでやめましょう。それよりもお兄様、このままだと溯夜さんに先に学園に着かれてしまうのでは?」


俺は時間を見た。


「あ~!!ヤバい!!」


学園に溯夜より早く着くこと。これは馨との暗黙の了解だ。主である皇城家の人間を俺たちが待たせてはならない。それは従者的意味合いにある暁家と葛ノ葉家における掟である。

これを破るとなると…親父からフルボッコにされること確定だ。


「ありがと、聞いてくれて」


「いえ、こちらこそお話を聞けて嬉しかったです。行ってらっしゃいませ、お兄様」


「ああ、行ってくる!!」


そして、俺は急いで家を出た。




しかし、しかしだ。

数日後、俺のこの考えが原因の一つとなって騒動を引き起こすなんて、この時を俺は知る由も無かった。

あんなことになるなんて、思ってもみなかった。真矢の忠告をもっとちゃんと聞くべきだったんだ。それに真矢だけではなくて、事前に溯夜にもこの考えを相談すべきだったんだ。


そうしたら、溯夜から怒りを買われる必要もなかったかもしれない。そのことを、今でも後悔している。






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