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「疲れたか?」
「ええ、そうですね。色々あり過ぎて…でも楽しかったです」
「そうか、それなら良かった」
溯夜様はそう仰って笑みを浮かべられました。本当に嬉しそうな笑顔。
いや、本当に濃密な日々だった。でも、こんなにワイワイ出来たのも久しぶりだったなーとか思った。
学園長にご挨拶したのが今日だとは思えないなー。これも全て、溯夜様のお陰ですね。
あのあとは、瑞貴様と葛ノ葉様が婚約者同士という衝撃の事実が発覚したため、二人の話に移りました。あの中で一番接点がないはずのおじさんが一番真剣に聞いていて、私以上にすっかり二人と打ち解けていました。
もしかして未だに独身のこと気にしてるのかな? とか思ったりもしたのだけど、もしそうだったら私のせいになるのかなーと思ったりして、心が重くなっていたのは内緒。
そのとき私はおとなしく聞いてたけど、溯夜様もそんな感じで大人しめだったかな? とにかく三人で盛り上がってたんだよね。
それでお時間になったから、おじさんと葛ノ葉様、瑞貴様は帰りました。
おじさんと会えて、緊張の糸が切れたかもしれないし、そうではないかもしれないけど、とにかく心に余裕が出来たことは間違いなかった。だって、溯夜様と話すときに緊張することが無くなったから。
気軽に、とはいかないし、立場もわかってるけど、通常会話は成り立つくらいにはなったのかな? 未だに他の人とはそう簡単にはいかないけど。
今日も溯夜様は私のために色々と煩わせることがたくさんおありになったはず。
迷惑かけている分、ダンスの練習を頑張って、少しでも感謝の気持ちを伝えなきゃ。
ん? でもダンスじゃダメなような…でも未だに廊下にさえも出れない状況が続いてるっていうのに、高望みは無理だろうな。
今の時間は寝る前。今回 “私” が表に出ていたため、夜中に起きる心配もないと思われます。
溯夜様もそう踏んでおられるのでしょう。寝間着に着替えられてられています。イケメンは何を着ても様になります。はい。
“密着するのは嫌” だとは思いつつも、私の恥ずかしい部屋 (仮)で、携帯電話の使い方を教えてもらっています。少し前の時間の私は教わらなくていいとか豪語していましたが、知識を得ることには損はないと溯夜様が仰ったのでこんな状況になっております。
正論を言われるとどうしようもありません。御厚意に甘えさせていただいています。
肝心の密着度ですが…画面に集中しているため、あんまり気になりません。気にしすぎだったな。溯夜様のことだから、どんなことするかと思ったりしていたのですがね。
あれ? この思考っておかしい気がする。溯夜様は適切な距離を保とうとしているだけだよね?
密着したって、それだけで何も起こるはずがない。なのに、何でこんなに悩んでるんだっけ?
「朱莉?」
「は、はい!!」
「今の話聞いてたか?」
「………」
「聞いてなかったな」
え? どうして分かるんですか?
「 “朱莉” は何を考えているかすぐに顔に出るな」
「え、そうなんですか!?」
そんなの初耳だ。
「それに比べたら、 “もう一人の方” は分かり辛いな」
「そうですか? “彼女” は特撮のことしか考えていますせんよ」
「ふっ…その通りかもな」
何だろう、このアットホームな雰囲気は。なんとなくだけど…良いな。こんな空間。
おじさんは別として、他の人がいたらこんなにリラックスしてないし、こんな雰囲気なんて感じなかった…はず。
ある程度すまーとふぉんの使用方法を教えてもらい、溯夜様の携帯電話の電話番号を登録しました。
これでこの携帯電話にはおじさんと溯夜様、二人分の情報が入っていることになる。
溯夜様の番号は、半ば強引な感じで登録されたのですが、本当に必要なのかよくわかりません。とはいって、私からかけるようなことはないでしょうし。
「朱莉は…自分のことについてどうしたい?」
私は今、取り出したぬいぐるみをギュっと抱きしめた。うさぎの可愛いぬいぐるみで、お父さんからのプレゼントでした。お父さんが亡くなったとき、思い出を連想させるものだったので奥のおくにいれて、見ないようにしていたもの。
溯夜様は未だお隣に座っていらっしゃいます。もうお隣に座っていらっしゃっても、気にならなかった。
「そうですね…人格の統合は考えていません。 “もう一人の私” も私の一部ですし…どう付き合っていくかは考えないといけませんね」
将来のことを考えるってことは、前に進もうとしていることと同じことなのかな?
ぬいぐるみを取り出してみようと思ったのも、過去のことに自分で何らかのけじめをつけた…ということ?
ーーでも、簡単にはけじめなんてつかなくて。
何で気づかなかったんだろう…私がお父さんを死に追いやったんじゃないか? という考えでいつも頭がぐるぐるしてた。
『昇が死んだのは…朱莉のせいじゃない』
と、何回もおじさんが言っていたのを思い出す。
お父さんの死亡原因は “過労死” だって知ったのはずいぶんあとの話で、知らないまま立ち治っている途中の私を責めているようだった。
でも、そうじゃないのかな?
そんな話を何故か溯夜様に話したくなって、話してしまった。いつも、そんな話はおじさんしかしたことがなかった…のに。
「部外者である俺が口を挟めるとは少ないとおもうが…これだけは言える。朱莉の父親は、朱莉が悲しむ姿を見たいと思ったりするのか?」
「いえ、それは…」
「なら、今の朱莉を昇さんがみたら、喜んでくれると………俺は思う」
その悩み抜いて出してくれたであろう言葉を、頭の中で考えて、何度も反芻する。
なるほど。そう…かもしれない。そう思い始めたら、本当にそうなんだろうと思うようになった。
「今日は…本当に………ありがとう」
ふとした瞬間にポロリ、そんな言葉が喉から出ていた。それは蚊の鳴くような声。
今のことに対しての感謝もそうだけど、今日一日私に付き合ってくれたことの感謝も込めた言葉だった。
でも…それでもやっぱり溯夜様には聞こえていたようです。
ダンスパーティに出ると言ったときに見せた、あの素敵でーー私の好きな笑みーーを浮かべられて、
「またこんな日があると良いな」
そう仰いました。




